【Lezel】ルーツは日本舞踊と風の音!? 『パリピ孔明』歌唱キャストで話題のLezelに迫る
アニメ『パリピ孔明』で「久遠七海」の歌唱キャストに起用されて話題になったアーティストのLezelさん。メジャーデビューからも1年が経ち、1stアルバム『Plot』をリリースした彼女に、アルバムの各曲のこと、アーティストとしての姿勢、そしてこれまでの音楽との関わりと、さまざまなことを伺いました。いろいろ意外な事実も飛び出す中、一体、彼女の“正体”とは?
Lezelの基礎が全て聴けるアルバム、それが『Plot』!
──さっそくアルバムのことからお聞きしたいんですが、『Plot』というタイトルにはどういう意図が込められていますか?
Lezel 『Plot』には「骨組み」みたいな意味もあると思うんですが、デビューして1年目の様々な角度から見たLezelの言わば基礎が聴けるよ、というような意味が込められています。スペルは違いますがprototypeともかかってます。
──これを聴けばLezelさんのことが分かるよと。今あるいろんな楽曲が聴けるアルバムということですか。
Lezel そうですね。アルバムを作るということが前提としては制作をしていたんですが、1曲ごとのコンセプトそれを合わせた時に、どういうタイトルが一番しっくりくるかなというところで、最初はいろんなものが出てくるので「コース料理」や「戯曲」「ト書き」に関連した言葉はどうだろうと連想していき、そこから『Plot』という言葉が出てきました。
──では収録曲について、1曲ずつ伺えればと思います。1曲目、「後の祭り ~After Party~」はエレクトリックビートと三味線のマッチングが面白いですね。
Lezel この曲はアルバム用に書き下ろされたものなんですけど、メジャーデビューして「もう後には引き返せないし、引き返す気がないよ」「やってやるぜ!」みたいな、選手宣誓のような意味合いの曲です。
──確かにそういう勢いがありますね。アルバムを勢いよく始めたかった?
Lezel 勢いのある曲が多いですけど、曲順については特にこだわりはなくて、話し合って決めていきました。
──この曲は作詞が藤林聖子さんですね。
Lezel これまでは自分で詞を書いたり、他のアーティストの方に書いてもらったりだったんですが、初めて作詞家さんに書いて頂きました。ワードの組み合わせなどが、今までの曲の歌詞とはまた少し違ったニュアンスがあって「あ、こういう風に書くんだ…」とすごく勉強になるなと感じたのが第一印象でした。
──ご自身の作詞にも参考になったと。
Lezel 私の語彙力が少し乏しいのもあって(笑)、自分だと辞書引いても分からないかもしれない言葉や、自分からは思っても出てこない表現のフレーズがあって、でも「分かる!」みたいな。共通する気持ちの中で、別の視点から違う表し方ができるんだなと思いました。
──そして作曲がTom-H@ckさん。
Lezel 私がMYTH & ROIDが好きで、プロデューサーさんに何度かお話していたら実現しました。「Lezelの歌はコブシがきいてる」ということで、BPMの速い和風テイストにしたら面白いんじゃないかというところから着想していき、完成しました。
──「コブシがきいてる」ですか。
Lezel 無意識のコブシの回数が多いんでしょうね(笑)。「そうなのかも」とは思っていたんですが、レコーディングをしていく中で、「コブシきいてるよね」を言われることがよくあって。自分では意識はしてないのですが、2歳から日本舞踊をやってる影響はあるのかもなと思ってます。基本的に耳にする音楽が演歌が多かったので。
──なるほど慣れ親しんではいるわけですね。そのあたりのルーツについては後ほどお聞きします。そして2曲目が「リセット ライフ?」。こちらはご自身の作詞ですが、引きこもりについてこれほど明るく開放的に歌った曲も……
Lezel ないですよね(笑)。この曲は『実は俺、最強でした?』というアニメのOPなんですけど、原作の漫画を読んで、主人公のハルトが引きこもり、どういうわけか亡くなってしまい異世界転生をするという始まりなんですね。私自身が引きこもりで、家でゴロゴロしてたい人なので(笑)、曲を書いてる夏目縋と話し合った際、「自分のことを書けばよくない?」という結論に至り書き起こしていきました。何かがあって 引きこもる人も世の中にはいるとは思います、でもただただゴロゴロしてたいだけ、純粋に家が好きなだけ、みたいな人もいるじゃないですか。だからわざと暗い歌にする必要性はないかなと思ったんです。「引きこもりで、何が悪いのかな?」って。
──この曲も作曲は夏目縋さんですが、すごくアニソンっぽいですよね。
Lezel この曲は本当に、アニソンを研究して作ってますね。彼が得意とするジャンルとは畑が違うので、いくつかサンプルを出した中で、しっかりと実俺に寄った方が面白いという話になり。その時も、しっかり寄る方がいいのか、アーティストとして寄りすぎるのも……という葛藤は少なからずあって。でもこういう「異世界転生アニメ」で日常感のある作品はアニソンっぽいポップな曲の方が合うよねとなりデモを作っていきました。それを制作委員会の皆さんに選んでもらって制作していきました。
──ご自身はアニソンには慣れ親しんでいるものですか?
Lezel 幼いころは、その週のアニメをネットで毎日のように見て、怒られてました(笑)。なので慣れ親しんではいましたね。だけど、いかにもアニソンチックな曲もあれば、そうじゃなくてカッコよさを重視した曲もあるじゃないですか。その中で自分の気持ちとしては、「ザ・アニソン!」のようなものより、その人っぽさもありつつ、作品に合った感じというか、「この作品はこの曲だよ!」みたいな感じの曲の方が自分の気持ちには合うかなと思います。だから、曲調はアニソンに寄せる感じにしよう、歌詞はハルトと自分を合わせてあくまで Lezelの曲としてもブレ過ぎないようにしよう、というような工程でしたね。
──OP曲は初めてですが、TVから自分の歌が流れてくるのを聴くという経験はあるわけじゃないですか。そこはどうでしたか?
Lezel 久遠七海の時は、感動というか……曲が流れた瞬間にいったん何も言えなくなって、ただ「あ、自分の声だ……」と感動していました…。少し経ってから見ると「あの時録った自分の声に、絵がつくとこうなるんだ!」って思うんですけど、1回、何も分からなくなりますね。感想がすぐに出るというよりも、「わぁ……」みたいな(笑)。
──そういうものですか(笑)。
Lezel 前は、もちろん『パリピ孔明』という作品が全体的に好きなのは当たり前とした上で、より七海特化で推してたわけですよ。自分の分身のような、「ウチの子!」みたいな感じで。そして作品の他のキャラにも感情移入できるよねというような。自分の感情として言うと、より感情移入できるのは月見英子なのかもしれないけど、「自分がやったから七海が好き!」って感じだったんですよね。『実は俺、最強でした?』に関してはキャラクターの何かをやるわけではないので、アニメ全体に対して「私がOPを担当している作品」という感じで推しポイントが違うなという感覚がありました。第2弾PVを見せてもらった時に、そこは強く思いました。感情が若干違うなと。
夢がいっぺんに実現した「Move Move Move feat. 96猫」!
──3曲目が「おつかれさん弾銃 feat. もにゅそで」。もうタイトルからして最高ですよね(笑)。このフレーズももにゅそでさんから出たものなんですか?
Lezel もにゅそでさんの方で、作詞を全体的に担当されたのがミナミムラソデコさんだとお聞きしてます。女の子たちが学校の休憩時間に「ちょっと聞いて!」とワイワイ会話する女子特有の感じでインターネットやSNSで活動している人たちの不満を煽り散らかしていこう、というような歌詞ですね。
──具体的な内容はお任せで?
Lezel そうですね。最初の打ち合わせでどういうのがいいかなという話をまとめて、その時に3人だからサビで3声のハモりが注目ポイントになるし、女子の空気感でしゃべって愚痴ってる感じでやったらまとまるよね、っていうお話をして。そこから先はお願いしました。
──これはご自身の感覚にある「女子トーク」にも近いものですか?
Lezel 近いです。レコーディングの時、始まりの「ちょっと聞いてよNo.1」というところを、いかにも会話という感じでいくのか、もっと高いトーンで訴えるようにいくのかで話したんですね。もにゅそでの2人はテンションが一定だったりするので、私がメリハリをつけた方がいいかもということで。後ろの席の人に振り返って「ねえねえ、聞いて」と抑えて始まる方が面白いんじゃないかということになったんです。そういう細かな女子トークの空気感も織り込んでますね。
──「桶屋儲かってしゃあないわ」とか印象的なフレーズがたくさんありますが、特に気に入っているフレーズってありますか?
Lezel 全体的にメチャメチャ刺さったのですが、「“普通こうでしょ?”みたいな洗脳」とか「型にはめる風潮多すぎ」は特にですね。今は多様性の時代なのに「こういう風に思う人もいるんだから配慮してくださいよ!」みたいな言葉を目や耳にする事が最近多いじゃないですか。乖離してるというか、真逆のことが起きてるなと思うし、この型になぜはめなければいけないのかと思うことも多くて、続く歌詞の「それな」は本当に「それな!」と思いながら歌ってますね。
──普段からそういう風に思うことが多いわけですね。
Lezel 思いますね。いろんなことについて「何なの?」と思うことは多いです。単純に知識として知らないこととかも「何なんですか、それは?」と知りたくなりますし、生配信をしている中でも分かんないことがあったら「それ何?」「どういうこと?」って聞いてます。きっと普段から「どういうこと?なぜ?」って思いやすいんだと思います。
──なるほど。
Lezel あとこの曲は、韻の踏み方が面白くて。TOPHAMHAT-KYOさんのラップは洋楽的な韻の踏み方を感じるんですけど、こちらはTikTokとかでいつも発信されているだけあって「ん? どういうこと?」って感じる言葉的な引っかかりポイントが多いなって思います。
──この曲も含め、何曲かラップ中心の曲がありますが、そもそもラップは得意なんですか?
Lezel どうでしょうね?ボカロって早口の曲が多いじゃないですか。しかもたまにラップパートがやってくるので、そこは好きですね。そういう曲を歌うこともあったのと、プロデューサーさんが「コブシのきいた歌い方って、ラップに合うんだよ」って教えてくれて。得意なのかどうかは置いといて、好きです。もともとTOPHAMHAT-KYOさんの曲が好きで、ラップのリズムが好きなんだと思います。
──4曲目は「Move Move Move feat. 96猫」、これがそのTOPHAMHAT-KYOさんの曲ですね。
Lezel これはとても歌うのに苦戦した楽曲です(笑) 日本語なのに英語っぽかったり、あべこべなところも多くて、舌が大変でしたね。
──後に出てくる「マーダーサーカス」とも似たムードで、そこに早口の歌詞が乗るのがいいですよね。
Lezel はい! 私もそこに萌えます(笑)。
──もともと好きだったTOPHAMHAT-KYOさんの曲がここで歌えて、そういう風に夢が叶うというか、実現するみたいなことも増えてきたのでは?
Lezel そうなんですよ。それこそこの曲はフィーチャリングゲストで96猫さんが歌ってくださってるんですけど、私が初めて「歌い手」というものを知ったのが96ちゃんだったんです。まさか『パリピ孔明』で共演できるというのもビックリでしたし、その後に私の曲で一緒に歌えるというのはもっとビックリで、しかもそれがTOPHAMHAT-KYOさんの曲でなんて…、つねるほっぺがいくつあっても足りませんでした(笑)。本当にこの曲は私の中でミラクル・ソングでした。
──レコーディングなどは、楽しんでやれましたか?
Lezel 楽しかったです!でもレコーディングで「もうちょっとここ強めに」とかディレクションがあると思うんですが、早口のラップで強く歌ったり少し輩要素を入れると、口の開閉が大きくなったり舌の動きが変わってくるので、そうすると歌詞に追い着かなくなるんですよね。一か所だけどうしても難しくて何回もチャレンジしました。
──でもそこから形にできたわけですよね。
Lezel はい。どの単語をどう言ったらいいかというのをもう一度見直して「ひらがな1つ1つをハッキリ言うんじゃなく、英語っぽくつなげたら言えるよ」というのを教えてもらって「認識が違うとこうも言えないんだ」と再認識しました。
──ネイティブの英語みたいな感じですね。
Lezel 「Let it go」って、「レット・イット・ゴー」じゃなくて「レリゴー」って歌うじゃないですか。そんな感じでふりがなを振って覚えるという工程をやってました。日本語曲で(笑)。例えば「トリガーに成り得る 後に控える大成」の「成り得る」はほとんど「なるる」だし、その後の「諦めず疑うな」も最初の「あ」をほとんど発音しないんですよ。そういう細かいところを少しずつ伺いながらレコーディングしていきました。
──そういう場合は、意味を伝えるよりも音が優先ですか?
Lezel そうですね。私ひとりだとどう歌うべきなのか正解が分からなくて、詞を「正しく言わなければならないんだ」という固定観念にとらわれてたんですが、TOPHAMHAT-KYOさんに「ここのグルーブ的にはこうした方が…」と教えていただいて。一言一句違わず、そのままを伝えなければいけないわけじゃない。そう聞こえなくても大丈夫なんだっていうのをここで学んで「リセット ライフ?」の作詞に生きたんです。
──ああ、なるほど!
Lezel ところどころ英語が入るじゃないですか。そこも、日本語で英語を読む時って「チョコレート」みたいにカタカナでハッキリ言わないといけないけど、それも音をまとめちゃっていいんだ「そう聞こえる」っていうやり方でいいんだということをここで知って生かしていきました。さっき出た藤林さんのような作詞家さん、そして他のアーティストさんの歌詞を教材にして学習してるイメージですね。
メジャーデビュー曲「マーダーサーカス」、今振り返ると?
──ただ、5曲目の「痛みだけが人生だ」では、コメントで「今まで作詞をしてきた中で一番難しく」と書かれていましたよね。
Lezel 何を書いたらいいかというのが全然出てこなくて。そもそも夏目さんとの間で「今回はどういうのが作りたいか」というのがまとまった状態じゃなかった んですね。「俺の中ではこういうのがある」と言っていたので「じゃあ それを教えて」って流れがで進行したんですが、そのコミュニケーションが難航してしまって、そこでだいぶケンカをしてました(笑)。レコーディング当日、ギリギリまで「ここは、どうする?」っていうのをみんなで考えて、「いやもう、このままで行こう」と押し切って作ったという感じですね。
──この曲ではネガティブな感情を歌ってますよね。歌い方とかについては?
Lezel 歌い方は、私が1回歌ってみて、スタッフさんとかと話して調整して、のような流れが多いですね。自分の中で「こうだ!」と思って歌って、「いや、こうした方がいいんじゃない?」って言われてしまうとイラついちゃうんですよ。『歌ってみた』を録音してる時とかも、夏目さんに「ここをこうしてみたら?」みたいなことを言われると、自分の中にある想像と違ってて「うるさい!」ってなっちゃって(笑)。でもレコーディングの時にいちいちイラついたりするのって、しんどいじゃないですか。だからレコーディング前にある程度、どう歌うかを組み立てていくけど「ここはこうした方がいい」というのはみんなで決める、っていう前提でいたら心の余裕があるというか、いちいちイラッとしなくて済むなと。
──自分ひとりであらかじめ決めすぎないと。
Lezel 自分で全部決めちゃってたら、そこから一歩でも動いたら「違う!」って私はなってしまうんです。でも「ここからこの幅の間ならアリかな」とか、ときどきは全く想像もしなかったところのものを言われたりもするので「それもアリかな」と判断する余裕があればいいんですよね。全部決めちゃってると、それ以外は全部ナシになっちゃうので。だから「怒らないために」と言いますか、自分のご機嫌のために。やっぱり楽しく歌いたいので。歌の中でどれだけ喜怒哀楽に苦しんでいても、最後は「ああ、楽しかった」で終わりたいんです。なので、歌っていないときの自分がイライラしないようにマイルールのような線引きです。
──そういうところは、レコーディングとか制作の過程で学んでいったんですか?
Lezel 『歌ってみた』の時点で、以前syudouさんの「キュートなカノジョ」のロック・バージョンを投稿したことがあるんですけど、その時に夏目さんから「こういう風に歌ってほしい」という要望があって。それは彼が編曲したものを私が歌うから許容範囲なんです。でも他の『歌ってみた』の時に同じことを言われるとイラッとして。その差って何だろう?と考えた時に「人に言われる前提で歌ってなかった」なと。だったらそれを言われる前提でいて、後からその中で「これはできる」「これはできない」「これは違和感がある」みたいなのを選択すればいいだけだなと思ったんです。
──なるほど。
Lezel 『パリピ孔明』の時は作品ありきだったので、その時はじめて自分で決め過ぎないようにしようという意識で挑んだんです。「好きなように歌っていいよ」と言っていただいたのは嬉しい誤算でしたが、やはり決め過ぎてなくて良かったなと思いましたね。「ここをもっとこうしてほしい」って言われた時に、素直に受けとめることが出来ますし、そこから再考することもできるので。『パリピ孔明』での経験が今のベースになってると感じます。
──よく分かりました(笑)。6曲目が「マーダーサーカス」。メジャーデビューの曲でもあり、ご自分の中でも大事な曲なのでは?
Lezel はい、大事な曲です…。そして…大変な曲でもありました(笑)。この曲に限らず、自分たちで作った曲は全部大変だったなと思うんですけど、いろんなスケジュールとかがズレたりの中で作ってたこともあって、難産でした。これもギリギリのタイミングで書き上がったので(笑)。
──デビュー曲って、Lezelさんのイメージをある程度決めてしまうものでもあるじゃないですか。そこをこの曲でいこうという時に、自信を持って臨めてましたか?
Lezel もし自信がなかったとて、これでいくんだ、みたいな。だって、考えてもしょうがない部分じゃないですか。「これでダメだったらどうしよう」とか考えても、ムダなストレスになるだけで。
──今振り返ると、この曲でスタートしてよかった?
Lezel よかったと思います。自分で作詞したのは学生の時に1曲、インディーズの時に未発表の曲合わせて2曲あるだけで、これが4曲目だったんです。といっても学生の時のはノーカウントとして、実質的にはこの曲が作詞3曲目で。1曲目の曲が共作とは言え自分が書いた詞で大丈夫なのか…という不安はありました。でもこの「マーダーサーカス」がなければ、作詞に対する苦手意識がまだ克服できてなかったんじゃないかなと思うんです。今もそんなに得意なわけではないんですけどね。「しんどいなあ」と思うことも多かったりするので。でもこの経験が無ければ、「作詞やりません!」と言っていたかもしれないし。この曲でスタートを切ってよかったと思います。今の自分なら、「もっとできるかもしれないな」とも思いますけど。この時の私たちはこれが精一杯だったし、今ならって思うだけで、これはこれで正解でした。
──次の7曲目、「僕」が実質最後の曲ですね。しっとりした曲ですが、これはアルバムの終わりだからということですか?
Lezel いえ、これは……アルバムの中でこういうしっとり、ゆっくりした曲が1曲あってもいいんじゃないかという感じで、カンザキイオリさんに楽曲制作をお願いしました。私はカンザキさんとはツイッター上でご挨拶しただけなんですけど、スタッフさんから私のストーリーやイメージを伝えてもらってできた曲ですね。
──こういう曲と、他の曲のように速かったり賑やかだったりする曲とでは、どちらが好きとかってありますか?
Lezel どっちも好きですね。どっちかだけだと飽きてしまうんですよね(笑)。いくら自分の曲と言っても、アップテンポの曲だけだと歌うのも、それに聴くのも疲れるし。ゆっくりな曲って、聴くポイントが違うじゃないですか。歌い方も変わるし。でもたぶん、歌いやすいのはアップテンポの方かなとは思います。「僕」はデモの段階で、低めのキーで振り絞るように歌う方がいいとなったので、他の楽曲より若干低いキー設定になっているのもあり、その部分が難易度高かったです。私、どの曲もポイントは違えど「難しい」しか言ってないですね(笑)。
──いやいや(笑)。
Lezel 自分の得意なジャンル・不得意なジャンルを決めないようにしているので、何が得意か不得意かというのはあまり認識しないようにしてるんですが、たぶん、アップテンポの方が慣れてるのもあって得意なのかなとは思います。ノリと感で生きてたりもするので(笑)。ゆっくりな曲を聴いてる時、体の動きもゆっくりになってしまうので、ゆっくりしていたい時は落ち着いた曲を、キビキビ動きたい時はアップテンポの曲を聴いて、体の中のBPMを上げるなどその時々に合わせた音楽を取り入れています。
──アルバムとしてはこの7曲に「リセット ライフ? -Anime ver.-」とインストバージョンが入っているわけですが、「CD」という形になるのは初めてですよね。そこに関してはどうですか?
Lezel 私の中では「やっと出せる!」という思いが強いです。早くほしいです(笑)。今までの曲は配信でいろんな方にお届けしてはいましたが、もし配信が何らかの要因で止まってしまったら、聴けなくなるじゃないですか。でも CDとかアナログ盤って、いつまでも聴けますよね。それがうれしいなって思います。デジタルシングルと手元に物として存在するのは、やっぱり違いますよね。自分が死んだ後も形として残り続けてくれたらうれしいなと思います。それに私は自分の聴きたいものだけを聴きたい人なので、CDっていう形が合ってるというのもあります。
これまでの道、そしてこれからLezelとして歩んでいきたい道とは……?
──ではここで、Lezelさんご自身のことについてお聞きしたいと思います。そもそも音楽との出会いは?
Lezel そんな劇的なものはないんですけど、たぶん影響を受けたのは日本舞踊ですね。おばあちゃんが先生をやっていて、お姉ちゃんといとこ含め5人が教わってて。家が隣なので、ごはんを食べてたら曲が流れてくるんですよ。それはおばあちゃんがお稽古を開始したという合図なんです。その音が聞こえたら何をしていても走って稽古場に行って、おばあちゃんが見える位置に正座して、動きを見てました。その時は日本舞踊が、そして踊っているおばあちゃんがすごく好きだったんです(笑)。
──そうですか(笑)。
Lezel だから、おばあちゃんが踊るイコール演歌という方程式でしたね。あと歌で言えば、小学生の頃の先生がすごく合唱に力を入れていて、体育館でみんなを並ばせて歌わせるんです。口を大きく開けて大きな声で歌っている生徒には「あなたは、座っていいよ」って一人ずつ着席していき。そうじゃない人は残っていくんですけど、不真面目に取り組むと自分に返ってくる制度だったので残りたくない一心でみんな大きな声を出すんです。私はその第1弾の声かけで座れるように頑張ってました。
──自分で好きになった音楽というと?
Lezel それはあんまり覚えてないんです。でもわりと小さい頃からずっと歌ってたらしくて(笑)。料理のレシピあるじゃないですか。あれを覚えるために勝手にメロディーをつけて「豚スペアリブの歌」を作って歌っていました(笑)。
──それはすごい(笑)。
Lezel お母さんがレシピを見なくても覚えられるように「マーマレード1/2カップ」とかにリズムとメロディーをつけて。それが保育園の時とかなんですけど、いまだに、家族はみんなその歌を歌えるんです(笑)。
──ということは、毎回テキトーに歌うのではなくて、固定のメロディーがあったということなんですね。
Lezel その曲以外はテキトーに歌ってたんですけど、なぜだか「豚スペアリブの歌」は固定でした(笑)。お父さんは覚えているかどうかも分からないですが、お母さんとお姉ちゃんは確実に歌えます。この間も「今でも歌えるよね」って言ってて。
──それはファンの人は聴きたいんじゃないですか?
Lezel そんな変な歌がよそに出回ったら、我が家の人間が疑われます。「マーマレード1/2カップ」なんて歌はいらないですよ(笑)。
──じゃあ、ずっと歌とともに生きてきたという感じなんですね。
Lezel そうですね。特定の何かがなくて、当たり前にずっと歌ってたイメージです。
──そこから今の活動になるまでに、影響を受けた人とかものってありますか?
Lezel うーん……ないですね。音楽が好きな人って、定まった何か、ロックとかジャズとか、ジャンルで答える人が多いじゃないですか。それだと、その中で何かに影響を受けたとかも分かるんですよ。でも私はずっと誰かだったりジャンルを追いかけた経験がなくて、いろんなものを、それこそ演歌からジャズからロックからボカロと幅広く聴いてきたんです。なのでそれこそ、そのときどきにTVとかで聴いてた曲なども蓄積されていった結果かなと思います。風の音のような自然の音など含めて。
──風の音ですか。
Lezel 山の方に住んでたので、風の音とか鳥の声、虫や蛙の合唱の中で生きていて。虫たちって、リズム感がいいんですよ(笑)。逆に今、人と話をする時に「好きなジャンル」あれば、もっと伝えやすいんだろうなと思ったりもするんですけど。
──予想外に壮大でした(笑)。ではこれからの活動では、どうなりたいというイメージはありますか?
Lezel それが、夢はずっと『歌ってみた』をしていたころからか変わってないんですが、どうなりたいかの部分はまだ正直分からないんですよね……。Vシンガーとしての自分と、メジャー・アーティストとしての自分って、どちらも歌ってるという点では共通してますけど、私の中では全然違うものなんです。今の私はどちらでもあるけど、どちらでもないなと思っていて。どちらにとっても「よそ者」のような…。なので自分だけの道を探さなきゃいけないんだろうなと思っています。
──ではそれが決まったら、活動の仕方がガラリと変わる可能性もある?
Lezel 行き着く夢の終着点は、同じですが……そこまでの道のりがどのような旅路なのか、そして何が正解なのか、というのがまだ分からないので。「これが一番しっくりくるな」と思うもの を見つけたいですね。それが見つけられれば、やるべきことは自ずと変わってくると思いますし。そうすればもっと冒険ができるかなとも思います。
──ではそこも楽しみですね。ありがとうございました!
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1stアルバム『Plot』
2023.08.16 ON SALE
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Lezelの基礎が全て聴けるアルバム、それが『Plot』!
──さっそくアルバムのことからお聞きしたいんですが、『Plot』というタイトルにはどういう意図が込められていますか?
Lezel 『Plot』には「骨組み」みたいな意味もあると思うんですが、デビューして1年目の様々な角度から見たLezelの言わば基礎が聴けるよ、というような意味が込められています。スペルは違いますがprototypeともかかってます。
──これを聴けばLezelさんのことが分かるよと。今あるいろんな楽曲が聴けるアルバムということですか。
Lezel そうですね。アルバムを作るということが前提としては制作をしていたんですが、1曲ごとのコンセプトそれを合わせた時に、どういうタイトルが一番しっくりくるかなというところで、最初はいろんなものが出てくるので「コース料理」や「戯曲」「ト書き」に関連した言葉はどうだろうと連想していき、そこから『Plot』という言葉が出てきました。
──では収録曲について、1曲ずつ伺えればと思います。1曲目、「後の祭り ~After Party~」はエレクトリックビートと三味線のマッチングが面白いですね。
Lezel この曲はアルバム用に書き下ろされたものなんですけど、メジャーデビューして「もう後には引き返せないし、引き返す気がないよ」「やってやるぜ!」みたいな、選手宣誓のような意味合いの曲です。
──確かにそういう勢いがありますね。アルバムを勢いよく始めたかった?
Lezel 勢いのある曲が多いですけど、曲順については特にこだわりはなくて、話し合って決めていきました。
──この曲は作詞が藤林聖子さんですね。
Lezel これまでは自分で詞を書いたり、他のアーティストの方に書いてもらったりだったんですが、初めて作詞家さんに書いて頂きました。ワードの組み合わせなどが、今までの曲の歌詞とはまた少し違ったニュアンスがあって「あ、こういう風に書くんだ…」とすごく勉強になるなと感じたのが第一印象でした。
──ご自身の作詞にも参考になったと。
Lezel 私の語彙力が少し乏しいのもあって(笑)、自分だと辞書引いても分からないかもしれない言葉や、自分からは思っても出てこない表現のフレーズがあって、でも「分かる!」みたいな。共通する気持ちの中で、別の視点から違う表し方ができるんだなと思いました。
──そして作曲がTom-H@ckさん。
Lezel 私がMYTH & ROIDが好きで、プロデューサーさんに何度かお話していたら実現しました。「Lezelの歌はコブシがきいてる」ということで、BPMの速い和風テイストにしたら面白いんじゃないかというところから着想していき、完成しました。
──「コブシがきいてる」ですか。
Lezel 無意識のコブシの回数が多いんでしょうね(笑)。「そうなのかも」とは思っていたんですが、レコーディングをしていく中で、「コブシきいてるよね」を言われることがよくあって。自分では意識はしてないのですが、2歳から日本舞踊をやってる影響はあるのかもなと思ってます。基本的に耳にする音楽が演歌が多かったので。
──なるほど慣れ親しんではいるわけですね。そのあたりのルーツについては後ほどお聞きします。そして2曲目が「リセット ライフ?」。こちらはご自身の作詞ですが、引きこもりについてこれほど明るく開放的に歌った曲も……
Lezel ないですよね(笑)。この曲は『実は俺、最強でした?』というアニメのOPなんですけど、原作の漫画を読んで、主人公のハルトが引きこもり、どういうわけか亡くなってしまい異世界転生をするという始まりなんですね。私自身が引きこもりで、家でゴロゴロしてたい人なので(笑)、曲を書いてる夏目縋と話し合った際、「自分のことを書けばよくない?」という結論に至り書き起こしていきました。何かがあって 引きこもる人も世の中にはいるとは思います、でもただただゴロゴロしてたいだけ、純粋に家が好きなだけ、みたいな人もいるじゃないですか。だからわざと暗い歌にする必要性はないかなと思ったんです。「引きこもりで、何が悪いのかな?」って。
──この曲も作曲は夏目縋さんですが、すごくアニソンっぽいですよね。
Lezel この曲は本当に、アニソンを研究して作ってますね。彼が得意とするジャンルとは畑が違うので、いくつかサンプルを出した中で、しっかりと実俺に寄った方が面白いという話になり。その時も、しっかり寄る方がいいのか、アーティストとして寄りすぎるのも……という葛藤は少なからずあって。でもこういう「異世界転生アニメ」で日常感のある作品はアニソンっぽいポップな曲の方が合うよねとなりデモを作っていきました。それを制作委員会の皆さんに選んでもらって制作していきました。
──ご自身はアニソンには慣れ親しんでいるものですか?
Lezel 幼いころは、その週のアニメをネットで毎日のように見て、怒られてました(笑)。なので慣れ親しんではいましたね。だけど、いかにもアニソンチックな曲もあれば、そうじゃなくてカッコよさを重視した曲もあるじゃないですか。その中で自分の気持ちとしては、「ザ・アニソン!」のようなものより、その人っぽさもありつつ、作品に合った感じというか、「この作品はこの曲だよ!」みたいな感じの曲の方が自分の気持ちには合うかなと思います。だから、曲調はアニソンに寄せる感じにしよう、歌詞はハルトと自分を合わせてあくまで Lezelの曲としてもブレ過ぎないようにしよう、というような工程でしたね。
──OP曲は初めてですが、TVから自分の歌が流れてくるのを聴くという経験はあるわけじゃないですか。そこはどうでしたか?
Lezel 久遠七海の時は、感動というか……曲が流れた瞬間にいったん何も言えなくなって、ただ「あ、自分の声だ……」と感動していました…。少し経ってから見ると「あの時録った自分の声に、絵がつくとこうなるんだ!」って思うんですけど、1回、何も分からなくなりますね。感想がすぐに出るというよりも、「わぁ……」みたいな(笑)。
──そういうものですか(笑)。
Lezel 前は、もちろん『パリピ孔明』という作品が全体的に好きなのは当たり前とした上で、より七海特化で推してたわけですよ。自分の分身のような、「ウチの子!」みたいな感じで。そして作品の他のキャラにも感情移入できるよねというような。自分の感情として言うと、より感情移入できるのは月見英子なのかもしれないけど、「自分がやったから七海が好き!」って感じだったんですよね。『実は俺、最強でした?』に関してはキャラクターの何かをやるわけではないので、アニメ全体に対して「私がOPを担当している作品」という感じで推しポイントが違うなという感覚がありました。第2弾PVを見せてもらった時に、そこは強く思いました。感情が若干違うなと。
夢がいっぺんに実現した「Move Move Move feat. 96猫」!
──3曲目が「おつかれさん弾銃 feat. もにゅそで」。もうタイトルからして最高ですよね(笑)。このフレーズももにゅそでさんから出たものなんですか?
Lezel もにゅそでさんの方で、作詞を全体的に担当されたのがミナミムラソデコさんだとお聞きしてます。女の子たちが学校の休憩時間に「ちょっと聞いて!」とワイワイ会話する女子特有の感じでインターネットやSNSで活動している人たちの不満を煽り散らかしていこう、というような歌詞ですね。
──具体的な内容はお任せで?
Lezel そうですね。最初の打ち合わせでどういうのがいいかなという話をまとめて、その時に3人だからサビで3声のハモりが注目ポイントになるし、女子の空気感でしゃべって愚痴ってる感じでやったらまとまるよね、っていうお話をして。そこから先はお願いしました。
──これはご自身の感覚にある「女子トーク」にも近いものですか?
Lezel 近いです。レコーディングの時、始まりの「ちょっと聞いてよNo.1」というところを、いかにも会話という感じでいくのか、もっと高いトーンで訴えるようにいくのかで話したんですね。もにゅそでの2人はテンションが一定だったりするので、私がメリハリをつけた方がいいかもということで。後ろの席の人に振り返って「ねえねえ、聞いて」と抑えて始まる方が面白いんじゃないかということになったんです。そういう細かな女子トークの空気感も織り込んでますね。
──「桶屋儲かってしゃあないわ」とか印象的なフレーズがたくさんありますが、特に気に入っているフレーズってありますか?
Lezel 全体的にメチャメチャ刺さったのですが、「“普通こうでしょ?”みたいな洗脳」とか「型にはめる風潮多すぎ」は特にですね。今は多様性の時代なのに「こういう風に思う人もいるんだから配慮してくださいよ!」みたいな言葉を目や耳にする事が最近多いじゃないですか。乖離してるというか、真逆のことが起きてるなと思うし、この型になぜはめなければいけないのかと思うことも多くて、続く歌詞の「それな」は本当に「それな!」と思いながら歌ってますね。
──普段からそういう風に思うことが多いわけですね。
Lezel 思いますね。いろんなことについて「何なの?」と思うことは多いです。単純に知識として知らないこととかも「何なんですか、それは?」と知りたくなりますし、生配信をしている中でも分かんないことがあったら「それ何?」「どういうこと?」って聞いてます。きっと普段から「どういうこと?なぜ?」って思いやすいんだと思います。
──なるほど。
Lezel あとこの曲は、韻の踏み方が面白くて。TOPHAMHAT-KYOさんのラップは洋楽的な韻の踏み方を感じるんですけど、こちらはTikTokとかでいつも発信されているだけあって「ん? どういうこと?」って感じる言葉的な引っかかりポイントが多いなって思います。
──この曲も含め、何曲かラップ中心の曲がありますが、そもそもラップは得意なんですか?
Lezel どうでしょうね?ボカロって早口の曲が多いじゃないですか。しかもたまにラップパートがやってくるので、そこは好きですね。そういう曲を歌うこともあったのと、プロデューサーさんが「コブシのきいた歌い方って、ラップに合うんだよ」って教えてくれて。得意なのかどうかは置いといて、好きです。もともとTOPHAMHAT-KYOさんの曲が好きで、ラップのリズムが好きなんだと思います。
──4曲目は「Move Move Move feat. 96猫」、これがそのTOPHAMHAT-KYOさんの曲ですね。
Lezel これはとても歌うのに苦戦した楽曲です(笑) 日本語なのに英語っぽかったり、あべこべなところも多くて、舌が大変でしたね。
──後に出てくる「マーダーサーカス」とも似たムードで、そこに早口の歌詞が乗るのがいいですよね。
Lezel はい! 私もそこに萌えます(笑)。
──もともと好きだったTOPHAMHAT-KYOさんの曲がここで歌えて、そういう風に夢が叶うというか、実現するみたいなことも増えてきたのでは?
Lezel そうなんですよ。それこそこの曲はフィーチャリングゲストで96猫さんが歌ってくださってるんですけど、私が初めて「歌い手」というものを知ったのが96ちゃんだったんです。まさか『パリピ孔明』で共演できるというのもビックリでしたし、その後に私の曲で一緒に歌えるというのはもっとビックリで、しかもそれがTOPHAMHAT-KYOさんの曲でなんて…、つねるほっぺがいくつあっても足りませんでした(笑)。本当にこの曲は私の中でミラクル・ソングでした。
──レコーディングなどは、楽しんでやれましたか?
Lezel 楽しかったです!でもレコーディングで「もうちょっとここ強めに」とかディレクションがあると思うんですが、早口のラップで強く歌ったり少し輩要素を入れると、口の開閉が大きくなったり舌の動きが変わってくるので、そうすると歌詞に追い着かなくなるんですよね。一か所だけどうしても難しくて何回もチャレンジしました。
──でもそこから形にできたわけですよね。
Lezel はい。どの単語をどう言ったらいいかというのをもう一度見直して「ひらがな1つ1つをハッキリ言うんじゃなく、英語っぽくつなげたら言えるよ」というのを教えてもらって「認識が違うとこうも言えないんだ」と再認識しました。
──ネイティブの英語みたいな感じですね。
Lezel 「Let it go」って、「レット・イット・ゴー」じゃなくて「レリゴー」って歌うじゃないですか。そんな感じでふりがなを振って覚えるという工程をやってました。日本語曲で(笑)。例えば「トリガーに成り得る 後に控える大成」の「成り得る」はほとんど「なるる」だし、その後の「諦めず疑うな」も最初の「あ」をほとんど発音しないんですよ。そういう細かいところを少しずつ伺いながらレコーディングしていきました。
──そういう場合は、意味を伝えるよりも音が優先ですか?
Lezel そうですね。私ひとりだとどう歌うべきなのか正解が分からなくて、詞を「正しく言わなければならないんだ」という固定観念にとらわれてたんですが、TOPHAMHAT-KYOさんに「ここのグルーブ的にはこうした方が…」と教えていただいて。一言一句違わず、そのままを伝えなければいけないわけじゃない。そう聞こえなくても大丈夫なんだっていうのをここで学んで「リセット ライフ?」の作詞に生きたんです。
──ああ、なるほど!
Lezel ところどころ英語が入るじゃないですか。そこも、日本語で英語を読む時って「チョコレート」みたいにカタカナでハッキリ言わないといけないけど、それも音をまとめちゃっていいんだ「そう聞こえる」っていうやり方でいいんだということをここで知って生かしていきました。さっき出た藤林さんのような作詞家さん、そして他のアーティストさんの歌詞を教材にして学習してるイメージですね。
メジャーデビュー曲「マーダーサーカス」、今振り返ると?
──ただ、5曲目の「痛みだけが人生だ」では、コメントで「今まで作詞をしてきた中で一番難しく」と書かれていましたよね。
Lezel 何を書いたらいいかというのが全然出てこなくて。そもそも夏目さんとの間で「今回はどういうのが作りたいか」というのがまとまった状態じゃなかった んですね。「俺の中ではこういうのがある」と言っていたので「じゃあ それを教えて」って流れがで進行したんですが、そのコミュニケーションが難航してしまって、そこでだいぶケンカをしてました(笑)。レコーディング当日、ギリギリまで「ここは、どうする?」っていうのをみんなで考えて、「いやもう、このままで行こう」と押し切って作ったという感じですね。
──この曲ではネガティブな感情を歌ってますよね。歌い方とかについては?
Lezel 歌い方は、私が1回歌ってみて、スタッフさんとかと話して調整して、のような流れが多いですね。自分の中で「こうだ!」と思って歌って、「いや、こうした方がいいんじゃない?」って言われてしまうとイラついちゃうんですよ。『歌ってみた』を録音してる時とかも、夏目さんに「ここをこうしてみたら?」みたいなことを言われると、自分の中にある想像と違ってて「うるさい!」ってなっちゃって(笑)。でもレコーディングの時にいちいちイラついたりするのって、しんどいじゃないですか。だからレコーディング前にある程度、どう歌うかを組み立てていくけど「ここはこうした方がいい」というのはみんなで決める、っていう前提でいたら心の余裕があるというか、いちいちイラッとしなくて済むなと。
──自分ひとりであらかじめ決めすぎないと。
Lezel 自分で全部決めちゃってたら、そこから一歩でも動いたら「違う!」って私はなってしまうんです。でも「ここからこの幅の間ならアリかな」とか、ときどきは全く想像もしなかったところのものを言われたりもするので「それもアリかな」と判断する余裕があればいいんですよね。全部決めちゃってると、それ以外は全部ナシになっちゃうので。だから「怒らないために」と言いますか、自分のご機嫌のために。やっぱり楽しく歌いたいので。歌の中でどれだけ喜怒哀楽に苦しんでいても、最後は「ああ、楽しかった」で終わりたいんです。なので、歌っていないときの自分がイライラしないようにマイルールのような線引きです。
──そういうところは、レコーディングとか制作の過程で学んでいったんですか?
Lezel 『歌ってみた』の時点で、以前syudouさんの「キュートなカノジョ」のロック・バージョンを投稿したことがあるんですけど、その時に夏目さんから「こういう風に歌ってほしい」という要望があって。それは彼が編曲したものを私が歌うから許容範囲なんです。でも他の『歌ってみた』の時に同じことを言われるとイラッとして。その差って何だろう?と考えた時に「人に言われる前提で歌ってなかった」なと。だったらそれを言われる前提でいて、後からその中で「これはできる」「これはできない」「これは違和感がある」みたいなのを選択すればいいだけだなと思ったんです。
──なるほど。
Lezel 『パリピ孔明』の時は作品ありきだったので、その時はじめて自分で決め過ぎないようにしようという意識で挑んだんです。「好きなように歌っていいよ」と言っていただいたのは嬉しい誤算でしたが、やはり決め過ぎてなくて良かったなと思いましたね。「ここをもっとこうしてほしい」って言われた時に、素直に受けとめることが出来ますし、そこから再考することもできるので。『パリピ孔明』での経験が今のベースになってると感じます。
──よく分かりました(笑)。6曲目が「マーダーサーカス」。メジャーデビューの曲でもあり、ご自分の中でも大事な曲なのでは?
Lezel はい、大事な曲です…。そして…大変な曲でもありました(笑)。この曲に限らず、自分たちで作った曲は全部大変だったなと思うんですけど、いろんなスケジュールとかがズレたりの中で作ってたこともあって、難産でした。これもギリギリのタイミングで書き上がったので(笑)。
──デビュー曲って、Lezelさんのイメージをある程度決めてしまうものでもあるじゃないですか。そこをこの曲でいこうという時に、自信を持って臨めてましたか?
Lezel もし自信がなかったとて、これでいくんだ、みたいな。だって、考えてもしょうがない部分じゃないですか。「これでダメだったらどうしよう」とか考えても、ムダなストレスになるだけで。
──今振り返ると、この曲でスタートしてよかった?
Lezel よかったと思います。自分で作詞したのは学生の時に1曲、インディーズの時に未発表の曲合わせて2曲あるだけで、これが4曲目だったんです。といっても学生の時のはノーカウントとして、実質的にはこの曲が作詞3曲目で。1曲目の曲が共作とは言え自分が書いた詞で大丈夫なのか…という不安はありました。でもこの「マーダーサーカス」がなければ、作詞に対する苦手意識がまだ克服できてなかったんじゃないかなと思うんです。今もそんなに得意なわけではないんですけどね。「しんどいなあ」と思うことも多かったりするので。でもこの経験が無ければ、「作詞やりません!」と言っていたかもしれないし。この曲でスタートを切ってよかったと思います。今の自分なら、「もっとできるかもしれないな」とも思いますけど。この時の私たちはこれが精一杯だったし、今ならって思うだけで、これはこれで正解でした。
──次の7曲目、「僕」が実質最後の曲ですね。しっとりした曲ですが、これはアルバムの終わりだからということですか?
Lezel いえ、これは……アルバムの中でこういうしっとり、ゆっくりした曲が1曲あってもいいんじゃないかという感じで、カンザキイオリさんに楽曲制作をお願いしました。私はカンザキさんとはツイッター上でご挨拶しただけなんですけど、スタッフさんから私のストーリーやイメージを伝えてもらってできた曲ですね。
──こういう曲と、他の曲のように速かったり賑やかだったりする曲とでは、どちらが好きとかってありますか?
Lezel どっちも好きですね。どっちかだけだと飽きてしまうんですよね(笑)。いくら自分の曲と言っても、アップテンポの曲だけだと歌うのも、それに聴くのも疲れるし。ゆっくりな曲って、聴くポイントが違うじゃないですか。歌い方も変わるし。でもたぶん、歌いやすいのはアップテンポの方かなとは思います。「僕」はデモの段階で、低めのキーで振り絞るように歌う方がいいとなったので、他の楽曲より若干低いキー設定になっているのもあり、その部分が難易度高かったです。私、どの曲もポイントは違えど「難しい」しか言ってないですね(笑)。
──いやいや(笑)。
Lezel 自分の得意なジャンル・不得意なジャンルを決めないようにしているので、何が得意か不得意かというのはあまり認識しないようにしてるんですが、たぶん、アップテンポの方が慣れてるのもあって得意なのかなとは思います。ノリと感で生きてたりもするので(笑)。ゆっくりな曲を聴いてる時、体の動きもゆっくりになってしまうので、ゆっくりしていたい時は落ち着いた曲を、キビキビ動きたい時はアップテンポの曲を聴いて、体の中のBPMを上げるなどその時々に合わせた音楽を取り入れています。
──アルバムとしてはこの7曲に「リセット ライフ? -Anime ver.-」とインストバージョンが入っているわけですが、「CD」という形になるのは初めてですよね。そこに関してはどうですか?
Lezel 私の中では「やっと出せる!」という思いが強いです。早くほしいです(笑)。今までの曲は配信でいろんな方にお届けしてはいましたが、もし配信が何らかの要因で止まってしまったら、聴けなくなるじゃないですか。でも CDとかアナログ盤って、いつまでも聴けますよね。それがうれしいなって思います。デジタルシングルと手元に物として存在するのは、やっぱり違いますよね。自分が死んだ後も形として残り続けてくれたらうれしいなと思います。それに私は自分の聴きたいものだけを聴きたい人なので、CDっていう形が合ってるというのもあります。
これまでの道、そしてこれからLezelとして歩んでいきたい道とは……?
──ではここで、Lezelさんご自身のことについてお聞きしたいと思います。そもそも音楽との出会いは?
Lezel そんな劇的なものはないんですけど、たぶん影響を受けたのは日本舞踊ですね。おばあちゃんが先生をやっていて、お姉ちゃんといとこ含め5人が教わってて。家が隣なので、ごはんを食べてたら曲が流れてくるんですよ。それはおばあちゃんがお稽古を開始したという合図なんです。その音が聞こえたら何をしていても走って稽古場に行って、おばあちゃんが見える位置に正座して、動きを見てました。その時は日本舞踊が、そして踊っているおばあちゃんがすごく好きだったんです(笑)。
──そうですか(笑)。
Lezel だから、おばあちゃんが踊るイコール演歌という方程式でしたね。あと歌で言えば、小学生の頃の先生がすごく合唱に力を入れていて、体育館でみんなを並ばせて歌わせるんです。口を大きく開けて大きな声で歌っている生徒には「あなたは、座っていいよ」って一人ずつ着席していき。そうじゃない人は残っていくんですけど、不真面目に取り組むと自分に返ってくる制度だったので残りたくない一心でみんな大きな声を出すんです。私はその第1弾の声かけで座れるように頑張ってました。
──自分で好きになった音楽というと?
Lezel それはあんまり覚えてないんです。でもわりと小さい頃からずっと歌ってたらしくて(笑)。料理のレシピあるじゃないですか。あれを覚えるために勝手にメロディーをつけて「豚スペアリブの歌」を作って歌っていました(笑)。
──それはすごい(笑)。
Lezel お母さんがレシピを見なくても覚えられるように「マーマレード1/2カップ」とかにリズムとメロディーをつけて。それが保育園の時とかなんですけど、いまだに、家族はみんなその歌を歌えるんです(笑)。
──ということは、毎回テキトーに歌うのではなくて、固定のメロディーがあったということなんですね。
Lezel その曲以外はテキトーに歌ってたんですけど、なぜだか「豚スペアリブの歌」は固定でした(笑)。お父さんは覚えているかどうかも分からないですが、お母さんとお姉ちゃんは確実に歌えます。この間も「今でも歌えるよね」って言ってて。
──それはファンの人は聴きたいんじゃないですか?
Lezel そんな変な歌がよそに出回ったら、我が家の人間が疑われます。「マーマレード1/2カップ」なんて歌はいらないですよ(笑)。
──じゃあ、ずっと歌とともに生きてきたという感じなんですね。
Lezel そうですね。特定の何かがなくて、当たり前にずっと歌ってたイメージです。
──そこから今の活動になるまでに、影響を受けた人とかものってありますか?
Lezel うーん……ないですね。音楽が好きな人って、定まった何か、ロックとかジャズとか、ジャンルで答える人が多いじゃないですか。それだと、その中で何かに影響を受けたとかも分かるんですよ。でも私はずっと誰かだったりジャンルを追いかけた経験がなくて、いろんなものを、それこそ演歌からジャズからロックからボカロと幅広く聴いてきたんです。なのでそれこそ、そのときどきにTVとかで聴いてた曲なども蓄積されていった結果かなと思います。風の音のような自然の音など含めて。
──風の音ですか。
Lezel 山の方に住んでたので、風の音とか鳥の声、虫や蛙の合唱の中で生きていて。虫たちって、リズム感がいいんですよ(笑)。逆に今、人と話をする時に「好きなジャンル」あれば、もっと伝えやすいんだろうなと思ったりもするんですけど。
──予想外に壮大でした(笑)。ではこれからの活動では、どうなりたいというイメージはありますか?
Lezel それが、夢はずっと『歌ってみた』をしていたころからか変わってないんですが、どうなりたいかの部分はまだ正直分からないんですよね……。Vシンガーとしての自分と、メジャー・アーティストとしての自分って、どちらも歌ってるという点では共通してますけど、私の中では全然違うものなんです。今の私はどちらでもあるけど、どちらでもないなと思っていて。どちらにとっても「よそ者」のような…。なので自分だけの道を探さなきゃいけないんだろうなと思っています。
──ではそれが決まったら、活動の仕方がガラリと変わる可能性もある?
Lezel 行き着く夢の終着点は、同じですが……そこまでの道のりがどのような旅路なのか、そして何が正解なのか、というのがまだ分からないので。「これが一番しっくりくるな」と思うもの を見つけたいですね。それが見つけられれば、やるべきことは自ずと変わってくると思いますし。そうすればもっと冒険ができるかなとも思います。
──ではそこも楽しみですね。ありがとうございました!
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- WRITTEN BY高崎計三
- 1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。