【アカウソ】「聴く小説」と「読む音楽」実験的プロジェクトの制作方法に迫る【アオニジ】
小説家とシンガーがデュオを組み、「聴く小説」と「読む音楽」を届けるという実験的プロジェクト「いろはにほへと」。エイベックス・エンタテインメント株式会社と株式会社講談社のタッグによるこのプロジェクトからは、小説家・真下みこととシンガー・みさきによる女性デュオ「茜さす日に嘘を隠して」(=以下アカウソ)、小説家・青羽悠とシンガー・Shunによる男性デュオ「青く滲んだ月の行方」(=以下アオニジ)が作品を発表しています。11月24日に第3作としてアカウソが「手紙」、アオニジが「途方」を発表しました。この4人に、プロジェクトのこと、それぞれの作品のことなどを伺いました!
アカウソとアオニジは関係性もコンビネーションも対照的!
──まずはプロジェクト全体についてお聞きしたいと思います。最初、この話を聞いた時はどのように感じましたか?
真下 最初は担当編集者さんから企画書とともに「こういう企画があるんですけど、真下さん、ぜひお願いします」というメールをいただいたんですね。もともと音楽にも興味があったので、「ぜひお願いします」ということで、即決でお返事をさせていただきました。
──真下さんはミステリーのジャンルでデビューされていると思うんですが、今回はそうではないですよね。
真下 そうですね。デビュー作も結果としてはミステリーという形を取ってはいるんですが、アイドルについて書いていて、ステージ以外での様子とか、人間としての彼女の姿を描写してるんです。今回は全体としては青春小説という形ですが、一人一人の息づかいとか生活とかを書けたらなというところがあったので、自分としては全然別のことをやっているという認識はないですね。
──同じアカウソチームのみさきさんはいかがですか?
みさき 担当のスタッフさんに声をかけていただいたんですが、小説と音楽の融合ということで、今話題のYOASOBIみたいだなあと思って、まずそこで興奮しました(笑)。親と相談したら「TikTokで聴いてくれているファンだけじゃなくて、小説を読んでみさきを好きになってくれるかもしれない。新しいファンを得るチャンスだよ」と言われて。また、アオニジチームの男性グループと合同で何かやっていくというのも、盛り上がりそうだなと思ったので、やりたいなと思いました。
──みさきさんは現在17歳ということですが、活動に当たっていろんなことを親御さんにご相談されているんですか?
みさき はい。お父さんの意見はすごく大事だと思ってます。何か歌を上げるたびに、それについてLINEで長文の感想をくれたり、「こういうことするといいよ」というアドバイスをくれるんです。音楽については全く詳しくなかったんですけど、私がこういう活動を始めてからは自分で勉強してくれていて。
──それはありがたいですね。ではアオニジチームに行って、青羽さんはいかがでしょう?
青羽 僕も編集さんからお話をいただいて、「作詞しませんか」と言われて。いつか機会があったらやってみたいなとはずっと思ってたんですけど、まさかこんな早く来るとはと思って、即決で「やります」って答えました。
──ご自分も音楽をされてるんですよね?
青羽 はい。いわゆるDTM、デスクトップミュージックを触っていて、作詞も何となく昔やってみたりしていたので、その経験が繋がるっていうのがすごくうれしいですね。真下さんもちょっとDTMをやっていたという話を聞いて、「そんなことあるのか」って驚いたんですよ。小説家を2人呼んできたら、2人とも音楽作れたみたいな(笑)。そのへんが最初の時点から偶然にもすごくうまく噛み合いながら始まったなあという印象があります。
──Shunさんは?
Shun 僕はもともと、avexの「Rupo Time」というアーティストグループにお誘いいただいてしばらく活動しているんですね。それを監督されている方から声をかけていただいたんですが、今までは音楽やYouTube活動を、空いた時間に趣味でやっていたという感じだったので、プロジェクトという形で何か作り出していくというのが、正直最初はあんまり想像できなくて。やると決める前はワクワクと同時に、「何をしてるんだろう」みたいな感覚があったんですけど、ただめったにない機会というか、新しい経験ができると思いました。プロジェクト自体もゼロから作り出していくというような要素があったので、楽しそうだなと思って参加しました。
──最初、4人が揃って顔合わせという機会はあったんですか?
Shun 最初、僕と青羽さんは対面でお会いしたんですよね。
青羽 そうそう。Shunがたまたま大阪に来るタイミングがあったので、「じゃあ会いに行くわ」ということで。その時はお互いに「どんなやつが来るんだろうな」と思ってたんですが、そこでけっこう打ち解けたかなという印象があります。そこからは曲を作るにあたって、歌詞とかアイデアとかをやりとりしてます。
真下 みさきさんとは距離的にけっこう離れているので、打ち合わせとかはすべてリモートでした。初めて直接お会いしたのは、1曲目のレコーディングの時ですよね。
みさき そうですね。
真下 アオニジさんは同学年でお互いに年が近いんですけど、アカウソは5~6歳離れているんですよ。それだけ離れている人とお仕事でご一緒することもあまりなかったので、距離感を掴みつつやっていたというか。お会いするたびに「あ、どうも!」って毎回やってるんです(笑)。みさきさんは顔出しされていないので、配信とか聞いていて、声やしゃべり方がすっごくかわいい方だなって思ってたんですけど、直接お会いしてもかわいらしい方で。レコーディングでしかお会いできないのがちょっと寂しいんですけど、レコーディングが毎回楽しみです。みさきさんはどうですか?
みさき 私はメチャクチャ人見知りなので、自分から話題を持ち出すことが苦手で、なかなかうまく話せなくて。でも仲良くなりたいなっていう気持ちはメチャクチャあります(笑)。
──告白タイムになってますが(笑)。
青羽 尊いですね(笑)。
──アオニジチームとアカウソチームでは、活動の仕方もけっこう対照的なんですね。
青羽 ちょうどこの前、真下さんとお会いする機会があったんですが、その時にもお互い進め方が違うという話はしましたね。こっちはわりと歌詞とかをShunと僕の2人で考えて、「これできました!」と言ってバーン!と渡してるような感じなんですよ。
真下 こちらは、作曲のオーダーとかは私の独断でやってしまっていたなあという感じです。歌詞ができたら、avexさんと講談社さんの担当者も入っているLINEグループにノートで歌詞を貼り付けて、「どうですか?」ってやってるんです。青羽さんとお会いした時にアオニジの進め方を聞いて、私は誰かと話し合って歌詞を作れる感じがしないので、全然違うなと。ノートでコメントをいただいて、何度も直しはするんですけど、。逆にみさきさんは今までの3曲、歌詞に不満はないだろうかとか、実はイヤじゃないのかとか、実はリリースのたびに心配しています(笑)。
みさき いえいえ、全然です(笑)。私が書けるような歌詞ではないし、難しい言葉がたくさん並んでて、私が口出しする隙もないというか……。素晴らしい歌詞を毎回いただいて、不満なんて全くないです。
真下 私も直接は怖くて聞けないので、取材の場で聞くという(笑)。LINEのグループでも、「みさきさんは歌いづらいところはないですか」とか、メンションつけて聞いたりしても「全然大丈夫です!」っていう感じなんですよ。心配性なので、「本当に大丈夫なんだろうか?」といつも思ってて。「実はここが歌いづらいとかないですか」みたいな感じで、けっこうしつこく歌詞の修正を毎回してますよね。
みさき そうですね、いつもありがとうございます。
お互いの世界との関連はどう作っていった?
──小説の全体像としては、アオニジとアカウソで登場人物が重なってますよね。そういった設定は最初にある程度決めたという感じなんでしょうか?
青羽 もともと企画をいただいた時に、登場人物と人間関係も提案してもらったんです。そこから手を加えていって、完成した叩き台を見ながら、お互い組み立てて、何とか整合性が取れました。いろいろ話し合いながら作っていったという感じです。
真下 小説を書く時って、あらすじみたいなものを最初に編集者さんに提出して、それを直していって執筆に入るということ形を取ることが多いんですけど、今回も基本はそんな感じで、その中で青羽さんと私の作品世界がつながっているので、人物像がズレたら大変だよねっていうことで、打ち合わせをしたり、いただいたあらすじとかに「ここってどういうことですか?」みたいなコメントをお互い付け合ったりして、調整していきました。全5話なんですけど、そのうち4話分、だいたい全体のあらすじみたいなものを、それぞれ考えて最初に持ち寄ったという感じですかね。順番的には、青羽さんの方が先にあらすじを書いてくださったので、それを読んで、こことここの人物をつなげたら面白くなりそうとかを私の方でも勝手に考えてみた感じです。
青羽 うまくやっていただきました(笑)。
──作家陣はそういう感じでお互いの世界を関連させながら進める必要があったと思いますが、歌の方はまた別ですよね?
Shun そうですね。みさきさんと直接何かやりとりするっていうことは、全くなかったですね。わりと自由に歌わせていただいているので、何かを調整するということは、ほとんどないです。
青羽 だいぶ毛色も違う感じに仕上がりましたよね。
──小説から曲にしていく行程は、それぞれでかなり違う感じなんですね。
真下 時期的には、小説が完成するのは歌詞ができるより後になることが多いですかね。作曲のオーダーをするための歌詞をまず書いて、それから小説を書いているうちに曲が来るので、そこで歌詞の最終調整をして……という感じなので、「小説ができてから曲」とか「曲ができてから小説」というのではなくて、同時進行でやっている感覚ですね、こちらは。アオニジはどうですか?
青羽 僕らは最初に、歌詞ではなくて僕がコンセプトの文章みたいなものを少し渡して、イメージを伝えます。例えばちょうど出たばかりの3曲目「途方」は、「バイクで走っている感じ」「流れ去っていく感じ」みたいなコンセプトをまず渡しました。その作業と並行して小説を書いて、だいたい小説書き終わった頃かちょい後ぐらいに曲が届くので、その曲を聴いて歌詞を付けているという感じですね。真下さんは最初からフルの歌詞を渡してるんでしたっけ?
真下 そうですね。「こういう楽曲」というオーダーと、歌詞をフルでお渡ししています。ただ、曲の幅を歌詞が狭めてはいけないので、「音の数とかは全く気にしないで進めてください」ということで。だから詩みたいなものを1曲分になるくらいの長さでお渡ししてる感じですね。なので、曲ができてからはもともとお渡ししていた詩と音数を合わせる作業みたいな感じです。
青羽 なるほど。僕は歌詞よりはソフトなもの、詞よりはもっと短いものを出してます。結局はその短いものを使って作り直せばいいかということになるんですけど、最終的には全然違うものになるっていう(笑)。イメージは共有してるんですけどね。Shunとは、最初のやりとりを歌詞にして、「この歌詞を歌える?」って聞いてる感じです。
Shun その後はもう完全に僕がレコーディングをして、完成を待ってもらうと。
青羽 そうそう。「頑張れー」って祈ってます(笑)。
──みさきさんの場合は、曲が完成した段階でやってきて、という感じですか?
みさき 真下さんに一度、仮で歌ってもらったものを送ってもらって、それを聴きながら練習してます。
真下 フルで音数を調整した歌詞ができたら、みさきさんには本当に申し訳ないくらい下手な音源をお送りして、そこで調整したりとか、その後みさきさんに仮で歌ってもらって、それを送ってもらって聴いて、というやりとりをやってます。
青羽 仮歌は僕も歌って送るんですけど、聞き直すたびにダメージ受けますよね(笑)。自分で歌ったものをShunに渡して、Shunから返ってきたのを聴くと、愕然とします。「歌うまいヤツはうまいな!」っていう、当たり前のことを思うんですけど(笑)。
真下 やっぱりサビは高過ぎて出ないので、サビで急に1オクターブ下げるみたいな感じでお送りしているので、それを聞きながら練習するのは大変だなと思います。
みさき いや(笑)、本当にありがたいですよ。私はデモに歌詞を合わせるのが苦手なんですけど、真下さんが歌っていただいたものがメチャクチャ分かりやすくて、頭に入りやすいんですよ。
──制作の過程は、思った以上に分かれていないというか、「はい、小説!」「はい、次は曲!」みたいな感じではないわけですね。
真下 そうですね。小説の楽曲化、楽曲のノベライズとかではなく、完全に同時に作ってますね。楽曲を作る人と小説を作る人が共通してる部分があるというのは、珍しいんじゃないかと思います。
青羽 小説と曲の重ね方がすごく難しいし面白いんですけど、単純にストーリーを拾ってくるというよりは、何かもっと精神的な部分を如実になぞった歌詞を作っているなという印象があって、これは一緒に作らなければできないと思いますね。
作詞から小説へのヒントを得ることも
──ここまで3作発表されていますが、3作やってきて作り方が変化した部分というのはありますか?
青羽 僕は、すごく試行錯誤が続いている感じがあって。最初は小説家が歌詞を作るというところがあったから、普通の歌詞よりは意味というか、メッセージじゃないけど、中身をしっかり作った方がいいのかなとも思ってたんです。でも今は少しずつ……もちろん最初から意識はしていたけど、音楽とのなじみというか、楽曲としての歌詞の力みたいなものを探しつつ作っていますね。意味合い的なところと、その楽曲に合わせた音としての気持ちよさみたいなところの兼ね合いを、うまいこと探して作っているというか。だからやっぱり、小説の作業とは全然違うなということを学習しながらやっている印象です。
──なるほど。
青羽 真下さんは、最初から音との関わりをメチャクチャ意識していたって話を聞きましたよね。みさきさんの声は鼻音がいいから、それを意識して作ったという話を聞いて、「ヤバい! 俺も声音とかちゃんと考えなきゃ!」と思ってメッチャ参考にしました(笑)。
真下 小説家の方が書いた歌詞って、これまでもいろいろあったと思うんですけど、どちらかというと現代詩に近いものを出されている方が多いなという印象を受けていて。そういうやり方も面白いだろうなとは思ったんですけど、ここではどちらかというと、小説家として歌詞を書くというよりも、小説家の自分と切り離して、作詞家として書くというか。小説のための言葉ではなく、歌詞のための言葉、歌のための言葉を作ろうということは、1曲目から意識していました。
──しかも、先ほど鼻音の話がありましたが、音も意識されていると。
真下 みさきさんの声のよさというのは、YouTubeとかTikTokとかで見られるものがすごくたくさんあったので、YouTubeに上がっているものは全部聞いて、「この音がいいんだな」とか自分なりに研究していました。それで1曲目ができてくると、自分の詞をこう歌ってくれるんだっていうある種のフィードバックが得られるので、1曲目より2曲目の方がいいものができてるなという感じはありますし、毎回毎回レコーディングとかで新鮮な驚きがあるので、それをまた生かしてやっているという感じです。逆に言うと、詞を書いているのは作詞家としてなので、小説家じゃない視点から言葉を見ているというところで、詞から小説のヒントを得たりということもけっこうあるんですよ。
青羽 詞から小説ですか。
真下 たとえば「手紙」だと、1番のBメロ(大人たち「いじめはない」お揃いの黒い服で一礼)は、曲ができる前、詞だけの段階では出てこなかったフレーズなんです。このフレーズによって曲の世界や、主人公の世界への向き合い方がカチッと決まった感じがしました。こういう感じで意味優先でなく音優先で出てきた言葉にヒントをもらうことが何度もあったので、これは面白いなと思っています。
──Shunさんから見て、ここまで3曲やってきて変化は感じられますか?
Shun 最初はとりあえず何も分からないので、一緒に作ったものをとりあえず歌ってみようという感じだったんですけど、2、3曲目は歌う前に青羽さんから小説をもらうので、それを読んで人物に重ね合わせるというか、ちょっとその雰囲気を感じながら、浸りながら歌うという感じに、だんだんとなってきました。
──やはりイメージしやすくなりますよね。
Shun そうですね。「途方」は特にそうなんですけど、音が浸る感じなので、そういうところをイメージしながら歌いました。
──みさきさんの場合はどうですか?
みさき 1曲目の時はレコーディングをすること自体が2回目で、まだ何も分からなかったんですけど、3曲目になってくると歌うことに慣れてきたし、歌詞の意味をちゃんと考えながら、歌うことができるようになりました。
真下 レコーディング直前までほんわかした口調で話されてるんですけど、ブースに入るとあの歌声が出てくるので、「別人?」みたいな。ブースに入った瞬間、本当に「口から音源」なんですよ。毎回毎回、感動してます。
みさき いえいえ!(照)
真下 歌手の方って、歌う前にボイトレとか発声練習みたいなのをされるのかなと思ってたんですよ。でもそういうのはなくて音合わせぐらいで、「今日もよろしくお願いしまーす」って言ってブースに行くといきなり「あの歌声」が出てくるので、すごいなと思いますね。
みさき 歌うとなったら自分の世界には入れるというか、歌うことだけは自信があるので。しゃべるのはヘタすぎて、全くしゃべれないんですけど(笑)。
ロードノベルの面白さを生かした「途方」
──では、それぞれの3曲目、3作目に関して伺いたいと思います。まずはアオニジの「途方」から。映画研究部が出てくることで、小説の中でも映画のタイトルとかが出てきますが、その意味で、今回の作品にはロードムービーのイメージがあるのかなと思ったんですが。
青羽 それは明らかに意識しています。小説を作っていくうえで、最後に何かゴールというか、何らかのオチが必要なんですね。だから一つのゴールに向かってずっと走り続けるというロードムービーのフォーマットはすごくいいなと以前から思っていて、今回、ちょっとやってみるかと。実際、僕がバイクに乗るので、そこで見た景色とかも入れることができて、自分としては非常に新しい小説を書けたなという気がしています。
──学生の登場人物が多くて、ご自身も現在学生ですが、自分自身を投影してるような登場人物というのは、作中にいるんでしょうか?
青羽 いろんな面からですけど、全ての主人公に投影されてしまっている気がしています。今回であれば、主人公は留年してなかなか抜け出せないという状況ですよね。僕は留年こそしてないんですけど、学生っていう生活の中に、そのまま、内々のちょっと閉じたところにたゆたっているような感覚は確かにあって、その感覚を引っ張り出して大きくしたようなところはありますね。
──全5話の中での第3話の位置づけ、テーマというと?
青羽 第1・2話にはかなり切迫した、ヒリヒリした感情があって。第1話では、何もうまく行動できない自分みたいなもの、第2話は逆に少し乱れている自分であったり、ちょっと荒いものがあった。でも第3話は少し静かに淡々と、でもちょっと疑問が残り続けるみたいな感じで。全体通しても、かなり読み心地がいいというか、気持ちいいというか、そういう章になっているなと思います。すごくいい位置にあるなあと、個人的には思ってますね。
──Shunさんは、この第3話を読まれての印象は?
Shun 青羽さんも言われたとおり、落ち着いているというか、自分の雰囲気にも合ってるなと思いました。ゆっくり浸って回想してというのが、すごくシンプルに「好きだな」と思いました。全体の中では中休みというか、楽曲の流れとしても、ちょっと中休みをしようかなという感じになっているので。
青羽 テンションの中休みという感じですよね。
──そうした印象から歌に落とし込む上で思ったことは?
Shun 今回は本当に登場人物に重ねつつ、僕は「無理しない」というのがモットーなんですけど、無理しない感じで歌うというか。ありのままにサーッと歌うというか、そういう部分を意識しました。サビとかがちょっと難しかったので、けっこう苦戦はしたんですけど、姿勢としてはありのままでいけたと思います。
青羽 聴いてて、今回はすごくハマってるなという感じはがしました。曲全体は、けっこう現代的になったなと思いました。小説の雰囲気をそのまま保ちつつ、Shunの声の持ち味も出し切って、非常に絶妙なところに落ち着いた。肩肘張りすぎず、でもダラダラしてもいない、すごくいいものができたなあと思ってますね。
──この曲のリリックビデオはいかがですか?
青羽 ビジュアルが完璧ですよね。いつもいとうあつきさんに絵を描いてもらってるんですけど、ラフの時点で唸りましたね。海の景色、その端をバンディッドが疾走してるところが非常によくて、ありがたいなと思いましたね。本当に僕らの想像したものがいろんな人のおかげでどんどん形になっていくっていうところには、感動しっぱなしです。
──そもそも小説自体が情景をイメージしやすい描写になっていると感じました。
青羽 やっぱりロードノベルってすごいなって思いましたね。僕はいろんなところにバイクで行くのが好きなんですけど、景色もあるし、フィールドが勝手に物語を進めてくれるし、すごく豊かなものになったなと思いました。
──Shunさんは?
Shun 僕が絵を描いたりとかできないので、単純な感想として「すごいなあ」っていうのはいつも思うんですけど、今回はその人が淡々と自分自分の世界を進んでいってる感じがイメージできて、すごくいいなと思いました。
シンガーの生態について、実際にシンガーに取材!?
──では次は、アカウソの「手紙」について伺います。今回の主人公である文さんのディテールがすごく細かく描かれていますが、これはみさきさんに取材した成果でしょうか?
真下 そうですね。私はギターを弾いたことがなくて、ギター関連のことがよく分からなかったんですね。普段小説を書くときははいろいろな人のTwitterとかを見てディテールを考えるんですけど、今回は「みさきさんに聞けるじゃん!」と思って、LINEで質問を5~6個しました。「チューニングって、カードチューナーとか使うんですか」とか「弾き終わったあと弦は緩めますか?」とか「今のギターは1台目ですか?」とか「レンタルのスタジオは使いますか?」とかいろいろ聞いたら、20分後ぐらいにすぐ質問に全部答えてくださって。それでだいぶ固まったというか、書きやすくなりました。
──みさきさんの協力あってこそなんですね。
真下 作中のシンガーとかアイドルとかって、神聖なものとして描かれることが多いのかなと思うんですけど、今回はちゃんと人間として書きたいなと思っていて。ディテールがちゃんとできていれば、そこの説得力は持たせられるのかなと。今回は作中曲という形になっていることもあって、いろいろ質問させてもらいました。
みさき 小説を読んだら、私が質問に答えたことがそのまま反映されていて、ちょっと自分に重ねて読めました。私も文さんみたいに自分の実体験しか歌うことがなくて、誰かのために曲を書いたことはないんですよ。この「手紙」という曲は、誰かに届けるために新しいことに挑戦していて、私も自分の活動に取り入れたいことがあって面白かったです。
──別に、文さんのモデルがみさきさんというわけではないんですよね?
真下 そうですね。取材はしましたけど、モデルはみさきさんではないです。文の歌詞の雰囲気とかも全然みさきさんとは違いますし、歌に対するスタンスとかも文はけっこうドライですし。細部に説得力を持たせたくてみさきさんに取材をしたという感じなので、みさきさんからするとちょっと不思議な気持ちになる小説かもしれないですね。
──文さんが作った曲ということで作中曲が存在するわけですが、でも実際それを歌うみさきさんは、文さんとはシンガーとしてのタイプなども違うとと思うんですが、そのギャップは実際に曲が完成して、どう感じられましたか?
真下 文は普段はけっこうドライな感じの曲を歌っているシンガーで、そんな彼女が誰かに宛てた感情的な曲を歌うのにチャレンジするというお話だと思うんですけど、そういう意味で言うとみさきさんは歌に感情を乗せるのはがとても上手なので、結果としてはピッタリなのかなと思いました。
みさき 私はふだん、恋愛の曲とかしか歌わないので、こういう歌詞の曲は新鮮で、感情を込めるのがちょっと難しかったんですけど、文さんと同じで新しいことに挑戦できて、楽しく歌えました。
──完成した曲について、真下さんはどう感じましたか?
真下 最初に歌詞をお渡しする段階で、音がないまま歌詞を作るとリズムもおかしくなってしまうので、自分で作曲とまでは言わないですけど、ピアノで適当に出た音を軽く当てておくことが多いんですね。その段階から考えるとだいぶドラマチックになったというか、人の感情を揺さぶる曲になったなと思いました。実際、作詞の作業がけっこう大変だったんですけど、劇中で「たった1人に向けた曲」として登場する歌が、みさきさんの歌い方によって、ちゃんと誰かにまっすぐ届く曲になったのかなと思いました。
──ではお互いに対する印象を伺います。真下さん、アオニジの「途方」についての印象は?
真下 第1話、第2話と見てきて、この第3話の曲はテンポ感がゆったりしていて、曲だけで聴いた時に「これは詞をつけるのが大変だろうな」と思ってたんですよ。たゆたう感じのイメージなので、何か韻を踏みまくってもうまくいかないだろうし。その中で青羽さんの詞が今までとは変わったなと思ったんです。今まではけっこう、鬱屈した感情を吐き出すイメージだったのが、今回はけっこう透明感のある描写が増えているなと。無限に聴いていられる系の楽曲になってるなと思いました。
青羽 いやもう、その通りですというか(笑)。すごく作り方が変わる曲であったことは間違いないですね。本当に音楽にノりながらというか、たゆたいながら浮かびながら、言葉を入れてって。もう何周も何周も聴いて、鼻歌から言葉を拾い上げていくような作業でした。
──逆に青羽さんから見た「手紙」に対する印象は?
青羽 「そうくるか!」とまず思って。しっとりとした曲調になるのかなと思ったら、かなりパキパキとした音が来て、最初ちょっと驚いたんですけど、でもこれは一つの正解だなとすごく思ったんですよ。重すぎないというか、ちゃんとノリよく駆動してはいるんですけど、ただ、言葉が死んでないというか。今回の歌詞って、人のが題材だし、すごく難しいところだったとは思うんですけど、そこをうまく曲に乗せていて、どっちも死んでない。重すぎでもなく、かといって簡単に過ぎ去っていくものでもなくっていうのが、すごくうまいし、そしてみさきさんの声ともちゃんと合っていた。
真下 楽曲のオーダーをお伝えする時に、ちゃんと歌詞を伝えられる曲にはしたいけれど、しんみりとした曲調だと、本当に聴いている人がただただ暗い気持ちになってしまうので、「明るめの曲でお願いします」と伝えたんです。既存のバンドの曲とかもリファレンスでお送りして。でもそのために軽く見えてしまっても困るなということで、歌詞の調整には苦労したので、青羽さんの感想はすごくうれしいです。
──Shunさんはいかがですか?
Shun 自分たちの曲と似てるのかなって勝手に想像していたので、意外とキャッチーというか、「テンポいいんだ!」と、最初は思いました。でも今までのテンポのよさとは違って、どこかで落ち着きは共有していたような気がしました。
──ではみさきさんの「途方」への印象は?
みさき 私は正直、あのメロディーがメめちゃくちゃ好きで、一言で言うと、めちゃくちゃエモいなって。Shunさんの歌声で歌詞がスッと入ってくる感じがすごく素敵で。ドライブ中に聞きたいなと思いました。
アカウソとアオニジ、作品群の楽しみ方とは?
──このプロジェクトは現時点でお互いの第3話まで公開されています。小説としては、やっぱり第1話から読み進めた方がいいんでしょうか?
青羽 まあ、ちょうど今は第1話から無料公開中ですしね(笑)。いやでも、途中からでもいいんじゃないですか。どこからでも入っていけるものという気はしています。
真下 好きなところから読んでも成り立つように作っていると思うので。オススメは確かに第1話からかもしれないですけど、例えば第3話だけ読んでも成立するものにはなってると思います。
青羽 一つ一つちゃんと完結してますもんね。
──確かに、全体で世界はつながっているけれど、どこからでも入れるように計算されていますよね。「ここでつながるのか」というのもあるし、「何かの話を踏まえているんだろうな」と思うことはあっても、それを知らないまま読み進めても問題はないし。
青羽 やっぱり楽曲が1曲1曲あるから、一つ一つの話が独立した力を持っているのかなあという気はしますね。
真下 楽曲制作を通して、登場人物の一人一人に深く入り込んでいけたなという感じはありますね。私は連作短編を書くのは初めてだったんですけど、一人一人の生活が小説の後も地続きであるんだろうなという作りになっているとは思います。連載ではないので、何も知らない人が途中から読んでも楽しめるような作りにというのは、最初に意識したところでした。
──しかも、それを2人がかりでやられているわけですからね。
真下 両方読むと、「こんなことができるんだ!」って、驚いてもらえるだろうなという自信はあります。
青羽 僕と真下さんの2つの世界があって、さらに両方を全部見ていけば、最後にたぶんもっと大きな世界が出てくるなという感じはしますね。
──その意味でもこれから物語終盤の展開も曲とともに楽しみなんですが、最後にこの作品群をどういう楽しみ方をしてほしいかというのも含めて、読者へメッセージをお願いします。
Shun 僕自身、音楽を聴いたりとか、本を読んだりする時って、浸りたい時が多いんですよ。それぞれ浸りたい時って違うと思うんですけど、そういう時のお供みたいな感じで、音楽と小説を合わせて楽しんでいただけたらいいかなとは思いますね。
みさき 楽曲の感想をくれるファンの方の中で、「小説を読んで聴いたらもっといい曲に聞こえた」と言ってくれる人がいるので、ふだん小説を読まない人でも、この曲を聴いて「どういうストーリーなんだろう」というのが気になって小説を読み始めたらハマるみたいな。私はそんなに小説を読んでなかったんですけど、このプロジェクトを始めて小説を読んでみて「小説って面白いな」って思い始めたので、音楽しか聴かない人でも、小説を読んで楽しんでもらえたらいいなと思いました。
青羽 今、みさきさんが言ってくれたように、小説というのはちょっと皆さんから遠いところにあるイメージなのかなという気がしています。そこに音楽という入口を通じて入ってもらえるというのは僕らにとってはすごく大きな機会だし、その相乗効果で見えてくるものも面白いと思っています。それに加えて、さっき言った通り音楽も小説も同時に作っていて、予定調和的なところがないというか、その都度その都度、本当に試行錯誤しています。だから、最後まで驚きのある話、予想しないところに広がっていく話になるんじゃないかなと。そういうところも見ていただけると、とてもうれしいですね。
真下 これをきっかけに小説に興味を持つとか、これをきっかけに音楽に興味を持つとか、そういうつながりができていったら面白いと思います。正しい読み方、正しい聴き方というのはないですけど、まず曲だけ聴いても面白い、いいものにはなっていると思うし、小説を読んで改めて曲を聴くと、聞こえ方が変わったりとか、小説を通して新しい見方ができるのが面白いところでもあるのかなと思うので、「そこもつながるんだ!」みたいなところを楽しんでいただけたらなと思います。
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──まずはプロジェクト全体についてお聞きしたいと思います。最初、この話を聞いた時はどのように感じましたか?
真下 最初は担当編集者さんから企画書とともに「こういう企画があるんですけど、真下さん、ぜひお願いします」というメールをいただいたんですね。もともと音楽にも興味があったので、「ぜひお願いします」ということで、即決でお返事をさせていただきました。
──真下さんはミステリーのジャンルでデビューされていると思うんですが、今回はそうではないですよね。
真下 そうですね。デビュー作も結果としてはミステリーという形を取ってはいるんですが、アイドルについて書いていて、ステージ以外での様子とか、人間としての彼女の姿を描写してるんです。今回は全体としては青春小説という形ですが、一人一人の息づかいとか生活とかを書けたらなというところがあったので、自分としては全然別のことをやっているという認識はないですね。
──同じアカウソチームのみさきさんはいかがですか?
みさき 担当のスタッフさんに声をかけていただいたんですが、小説と音楽の融合ということで、今話題のYOASOBIみたいだなあと思って、まずそこで興奮しました(笑)。親と相談したら「TikTokで聴いてくれているファンだけじゃなくて、小説を読んでみさきを好きになってくれるかもしれない。新しいファンを得るチャンスだよ」と言われて。また、アオニジチームの男性グループと合同で何かやっていくというのも、盛り上がりそうだなと思ったので、やりたいなと思いました。
──みさきさんは現在17歳ということですが、活動に当たっていろんなことを親御さんにご相談されているんですか?
みさき はい。お父さんの意見はすごく大事だと思ってます。何か歌を上げるたびに、それについてLINEで長文の感想をくれたり、「こういうことするといいよ」というアドバイスをくれるんです。音楽については全く詳しくなかったんですけど、私がこういう活動を始めてからは自分で勉強してくれていて。
──それはありがたいですね。ではアオニジチームに行って、青羽さんはいかがでしょう?
青羽 僕も編集さんからお話をいただいて、「作詞しませんか」と言われて。いつか機会があったらやってみたいなとはずっと思ってたんですけど、まさかこんな早く来るとはと思って、即決で「やります」って答えました。
──ご自分も音楽をされてるんですよね?
青羽 はい。いわゆるDTM、デスクトップミュージックを触っていて、作詞も何となく昔やってみたりしていたので、その経験が繋がるっていうのがすごくうれしいですね。真下さんもちょっとDTMをやっていたという話を聞いて、「そんなことあるのか」って驚いたんですよ。小説家を2人呼んできたら、2人とも音楽作れたみたいな(笑)。そのへんが最初の時点から偶然にもすごくうまく噛み合いながら始まったなあという印象があります。
──Shunさんは?
Shun 僕はもともと、avexの「Rupo Time」というアーティストグループにお誘いいただいてしばらく活動しているんですね。それを監督されている方から声をかけていただいたんですが、今までは音楽やYouTube活動を、空いた時間に趣味でやっていたという感じだったので、プロジェクトという形で何か作り出していくというのが、正直最初はあんまり想像できなくて。やると決める前はワクワクと同時に、「何をしてるんだろう」みたいな感覚があったんですけど、ただめったにない機会というか、新しい経験ができると思いました。プロジェクト自体もゼロから作り出していくというような要素があったので、楽しそうだなと思って参加しました。
──最初、4人が揃って顔合わせという機会はあったんですか?
Shun 最初、僕と青羽さんは対面でお会いしたんですよね。
青羽 そうそう。Shunがたまたま大阪に来るタイミングがあったので、「じゃあ会いに行くわ」ということで。その時はお互いに「どんなやつが来るんだろうな」と思ってたんですが、そこでけっこう打ち解けたかなという印象があります。そこからは曲を作るにあたって、歌詞とかアイデアとかをやりとりしてます。
真下 みさきさんとは距離的にけっこう離れているので、打ち合わせとかはすべてリモートでした。初めて直接お会いしたのは、1曲目のレコーディングの時ですよね。
みさき そうですね。
真下 アオニジさんは同学年でお互いに年が近いんですけど、アカウソは5~6歳離れているんですよ。それだけ離れている人とお仕事でご一緒することもあまりなかったので、距離感を掴みつつやっていたというか。お会いするたびに「あ、どうも!」って毎回やってるんです(笑)。みさきさんは顔出しされていないので、配信とか聞いていて、声やしゃべり方がすっごくかわいい方だなって思ってたんですけど、直接お会いしてもかわいらしい方で。レコーディングでしかお会いできないのがちょっと寂しいんですけど、レコーディングが毎回楽しみです。みさきさんはどうですか?
みさき 私はメチャクチャ人見知りなので、自分から話題を持ち出すことが苦手で、なかなかうまく話せなくて。でも仲良くなりたいなっていう気持ちはメチャクチャあります(笑)。
──告白タイムになってますが(笑)。
青羽 尊いですね(笑)。
──アオニジチームとアカウソチームでは、活動の仕方もけっこう対照的なんですね。
青羽 ちょうどこの前、真下さんとお会いする機会があったんですが、その時にもお互い進め方が違うという話はしましたね。こっちはわりと歌詞とかをShunと僕の2人で考えて、「これできました!」と言ってバーン!と渡してるような感じなんですよ。
真下 こちらは、作曲のオーダーとかは私の独断でやってしまっていたなあという感じです。歌詞ができたら、avexさんと講談社さんの担当者も入っているLINEグループにノートで歌詞を貼り付けて、「どうですか?」ってやってるんです。青羽さんとお会いした時にアオニジの進め方を聞いて、私は誰かと話し合って歌詞を作れる感じがしないので、全然違うなと。ノートでコメントをいただいて、何度も直しはするんですけど
みさき いえいえ、全然です(笑)。私が書けるような歌詞ではないし、難しい言葉がたくさん並んでて、私が口出しする隙もないというか……。素晴らしい歌詞を毎回いただいて、不満なんて全くないです。
真下 私も直接は怖くて聞けないので、取材の場で聞くという(笑)。LINEのグループでも、「みさきさんは歌いづらいところはないですか」とか、メンションつけて聞いたりしても「全然大丈夫です!」っていう感じなんですよ。心配性なので、「本当に大丈夫なんだろうか?」といつも思ってて。「実はここが歌いづらいとかないですか」みたいな感じで、けっこうしつこく歌詞の修正を毎回してますよね。
みさき そうですね、いつもありがとうございます。
お互いの世界との関連はどう作っていった?
──小説の全体像としては、アオニジとアカウソで登場人物が重なってますよね。そういった設定は最初にある程度決めたという感じなんでしょうか?
青羽 もともと企画をいただいた時に、登場人物と人間関係も提案してもらったんです。そこから手を加えていって、完成した叩き台を見ながら、お互い組み立てて、何とか整合性が取れました。いろいろ話し合いながら作っていったという感じです。
真下 小説を書く時って、あらすじみたいなものを最初に編集者さんに提出して、それを直していって執筆に入るということ形を取ることが多いんですけど、今回も基本はそんな感じで、その中で青羽さんと私の作品世界がつながっているので、人物像がズレたら大変だよねっていうことで、打ち合わせをしたり、いただいたあらすじとかに「ここってどういうことですか?」みたいなコメントをお互い付け合ったりして、調整していきました。全5話なんですけど、そのうち4話分、だいたい全体のあらすじみたいなものを、それぞれ考えて最初に持ち寄ったという感じですかね。順番的には、青羽さんの方が先にあらすじを書いてくださったので、それを読んで、こことここの人物をつなげたら面白くなりそうとかを私の方でも勝手に考えてみた感じです。
青羽 うまくやっていただきました(笑)。
──作家陣はそういう感じでお互いの世界を関連させながら進める必要があったと思いますが、歌の方はまた別ですよね?
Shun そうですね。みさきさんと直接何かやりとりするっていうことは、全くなかったですね。わりと自由に歌わせていただいているので、何かを調整するということは、ほとんどないです。
青羽 だいぶ毛色も違う感じに仕上がりましたよね。
──小説から曲にしていく行程は、それぞれでかなり違う感じなんですね。
真下 時期的には、小説が完成するのは歌詞ができるより後になることが多いですかね。作曲のオーダーをするための歌詞をまず書いて、それから小説を書いているうちに曲が来るので、そこで歌詞の最終調整をして……という感じなので、「小説ができてから曲」とか「曲ができてから小説」というのではなくて、同時進行でやっている感覚ですね、こちらは。アオニジはどうですか?
青羽 僕らは最初に、歌詞ではなくて僕がコンセプトの文章みたいなものを少し渡して、イメージを伝えます。例えばちょうど出たばかりの3曲目「途方」は、「バイクで走っている感じ」「流れ去っていく感じ」みたいなコンセプトをまず渡しました。その作業と並行して小説を書いて、だいたい小説書き終わった頃かちょい後ぐらいに曲が届くので、その曲を聴いて歌詞を付けているという感じですね。真下さんは最初からフルの歌詞を渡してるんでしたっけ?
真下 そうですね。「こういう楽曲」というオーダーと、歌詞をフルでお渡ししています。ただ、曲の幅を歌詞が狭めてはいけないので、「音の数とかは全く気にしないで進めてください」ということで。だから詩みたいなものを1曲分になるくらいの長さでお渡ししてる感じですね。なので、曲ができてからはもともとお渡ししていた詩と音数を合わせる作業みたいな感じです。
青羽 なるほど。僕は歌詞よりはソフトなもの、詞よりはもっと短いものを出してます。結局はその短いものを使って作り直せばいいかということになるんですけど、最終的には全然違うものになるっていう(笑)。イメージは共有してるんですけどね。Shunとは、最初のやりとりを歌詞にして、「この歌詞を歌える?」って聞いてる感じです。
Shun その後はもう完全に僕がレコーディングをして、完成を待ってもらうと。
青羽 そうそう。「頑張れー」って祈ってます(笑)。
──みさきさんの場合は、曲が完成した段階でやってきて、という感じですか?
みさき 真下さんに一度、仮で歌ってもらったものを送ってもらって、それを聴きながら練習してます。
真下 フルで音数を調整した歌詞ができたら、みさきさんには本当に申し訳ないくらい下手な音源をお送りして、そこで調整したりとか、その後みさきさんに仮で歌ってもらって、それを送ってもらって聴いて、というやりとりをやってます。
青羽 仮歌は僕も歌って送るんですけど、聞き直すたびにダメージ受けますよね(笑)。自分で歌ったものをShunに渡して、Shunから返ってきたのを聴くと、愕然とします。「歌うまいヤツはうまいな!」っていう、当たり前のことを思うんですけど(笑)。
真下 やっぱりサビは高過ぎて出ないので、サビで急に1オクターブ下げるみたいな感じでお送りしているので、それを聞きながら練習するのは大変だなと思います。
みさき いや(笑)、本当にありがたいですよ。私はデモに歌詞を合わせるのが苦手なんですけど、真下さんが歌っていただいたものがメチャクチャ分かりやすくて、頭に入りやすいんですよ。
──制作の過程は、思った以上に分かれていないというか、「はい、小説!」「はい、次は曲!」みたいな感じではないわけですね。
真下 そうですね。小説の楽曲化、楽曲のノベライズとかではなく、完全に同時に作ってますね。楽曲を作る人と小説を作る人が共通してる部分があるというのは、珍しいんじゃないかと思います。
青羽 小説と曲の重ね方がすごく難しいし面白いんですけど、単純にストーリーを拾ってくるというよりは、何かもっと精神的な部分を如実になぞった歌詞を作っているなという印象があって、これは一緒に作らなければできないと思いますね。
作詞から小説へのヒントを得ることも
──ここまで3作発表されていますが、3作やってきて作り方が変化した部分というのはありますか?
青羽 僕は、すごく試行錯誤が続いている感じがあって。最初は小説家が歌詞を作るというところがあったから、普通の歌詞よりは意味というか、メッセージじゃないけど、中身をしっかり作った方がいいのかなとも思ってたんです。でも今は少しずつ……もちろん最初から意識はしていたけど、音楽とのなじみというか、楽曲としての歌詞の力みたいなものを探しつつ作っていますね。意味合い的なところと、その楽曲に合わせた音としての気持ちよさみたいなところの兼ね合いを、うまいこと探して作っているというか。だからやっぱり、小説の作業とは全然違うなということを学習しながらやっている印象です。
──なるほど。
青羽 真下さんは、最初から音との関わりをメチャクチャ意識していたって話を聞きましたよね。みさきさんの声は鼻音がいいから、それを意識して作ったという話を聞いて、「ヤバい! 俺も声音とかちゃんと考えなきゃ!」と思ってメッチャ参考にしました(笑)。
真下 小説家の方が書いた歌詞って、これまでもいろいろあったと思うんですけど、どちらかというと現代詩に近いものを出されている方が多いなという印象を受けていて。そういうやり方も面白いだろうなとは思ったんですけど、ここではどちらかというと、小説家として歌詞を書くというよりも、小説家の自分と切り離して、作詞家として書くというか。小説のための言葉ではなく、歌詞のための言葉、歌のための言葉を作ろうということは、1曲目から意識していました。
──しかも、先ほど鼻音の話がありましたが、音も意識されていると。
真下 みさきさんの声のよさというのは、YouTubeとかTikTokとかで見られるものがすごくたくさんあったので、YouTubeに上がっているものは全部聞いて、「この音がいいんだな」とか自分なりに研究していました。それで1曲目ができてくると、自分の詞をこう歌ってくれるんだっていうある種のフィードバックが得られるので、1曲目より2曲目の方がいいものができてるなという感じはありますし、毎回毎回レコーディングとかで新鮮な驚きがあるので、それをまた生かしてやっているという感じです。逆に言うと、詞を書いているのは作詞家としてなので、小説家じゃない視点から言葉を見ているというところで、詞から小説のヒントを得たりということもけっこうあるんですよ。
青羽 詞から小説ですか。
真下 たとえば「手紙」だと、1番のBメロ(大人たち「いじめはない」お揃いの黒い服で一礼)は、曲ができる前、詞だけの段階では出てこなかったフレーズなんです。このフレーズによって曲の世界や、主人公の世界への向き合い方がカチッと決まった感じがしました。こういう感じで意味優先でなく音優先で出てきた言葉にヒントをもらうことが何度もあったので、これは面白いなと思っています。
──Shunさんから見て、ここまで3曲やってきて変化は感じられますか?
Shun 最初はとりあえず何も分からないので、一緒に作ったものをとりあえず歌ってみようという感じだったんですけど、2、3曲目は歌う前に青羽さんから小説をもらうので、それを読んで人物に重ね合わせるというか、ちょっとその雰囲気を感じながら、浸りながら歌うという感じに、だんだんとなってきました。
──やはりイメージしやすくなりますよね。
Shun そうですね。「途方」は特にそうなんですけど、音が浸る感じなので、そういうところをイメージしながら歌いました。
──みさきさんの場合はどうですか?
みさき 1曲目の時はレコーディングをすること自体が2回目で、まだ何も分からなかったんですけど、3曲目になってくると歌うことに慣れてきたし、歌詞の意味をちゃんと考えながら、歌うことができるようになりました。
真下 レコーディング直前までほんわかした口調で話されてるんですけど、ブースに入るとあの歌声が出てくるので、「別人?」みたいな。ブースに入った瞬間、本当に「口から音源」なんですよ。毎回毎回、感動してます。
みさき いえいえ!(照)
真下 歌手の方って、歌う前にボイトレとか発声練習みたいなのをされるのかなと思ってたんですよ。でもそういうのはなくて音合わせぐらいで、「今日もよろしくお願いしまーす」って言ってブースに行くといきなり「あの歌声」が出てくるので、すごいなと思いますね。
みさき 歌うとなったら自分の世界には入れるというか、歌うことだけは自信があるので。しゃべるのはヘタすぎて、全くしゃべれないんですけど(笑)。
ロードノベルの面白さを生かした「途方」
──では、それぞれの3曲目、3作目に関して伺いたいと思います。まずはアオニジの「途方」から。映画研究部が出てくることで、小説の中でも映画のタイトルとかが出てきますが、その意味で、今回の作品にはロードムービーのイメージがあるのかなと思ったんですが。
青羽 それは明らかに意識しています。小説を作っていくうえで、最後に何かゴールというか、何らかのオチが必要なんですね。だから一つのゴールに向かってずっと走り続けるというロードムービーのフォーマットはすごくいいなと以前から思っていて、今回、ちょっとやってみるかと。実際、僕がバイクに乗るので、そこで見た景色とかも入れることができて、自分としては非常に新しい小説を書けたなという気がしています。
──学生の登場人物が多くて、ご自身も現在学生ですが、自分自身を投影してるような登場人物というのは、作中にいるんでしょうか?
青羽 いろんな面からですけど、全ての主人公に投影されてしまっている気がしています。今回であれば、主人公は留年してなかなか抜け出せないという状況ですよね。僕は留年こそしてないんですけど、学生っていう生活の中に、そのまま、内々のちょっと閉じたところにたゆたっているような感覚は確かにあって、その感覚を引っ張り出して大きくしたようなところはありますね。
──全5話の中での第3話の位置づけ、テーマというと?
青羽 第1・2話にはかなり切迫した、ヒリヒリした感情があって。第1話では、何もうまく行動できない自分みたいなもの、第2話は逆に少し乱れている自分であったり、ちょっと荒いものがあった。でも第3話は少し静かに淡々と、でもちょっと疑問が残り続けるみたいな感じで。全体通しても、かなり読み心地がいいというか、気持ちいいというか、そういう章になっているなと思います。すごくいい位置にあるなあと、個人的には思ってますね。
──Shunさんは、この第3話を読まれての印象は?
Shun 青羽さんも言われたとおり、落ち着いているというか、自分の雰囲気にも合ってるなと思いました。ゆっくり浸って回想してというのが、すごくシンプルに「好きだな」と思いました。全体の中では中休みというか、楽曲の流れとしても、ちょっと中休みをしようかなという感じになっているので。
青羽 テンションの中休みという感じですよね。
──そうした印象から歌に落とし込む上で思ったことは?
Shun 今回は本当に登場人物に重ねつつ、僕は「無理しない」というのがモットーなんですけど、無理しない感じで歌うというか。ありのままにサーッと歌うというか、そういう部分を意識しました。サビとかがちょっと難しかったので、けっこう苦戦はしたんですけど、姿勢としてはありのままでいけたと思います。
青羽 聴いてて、今回はすごくハマってるなという感じ
──この曲のリリックビデオはいかがですか?
青羽 ビジュアルが完璧ですよね。いつもいとうあつきさんに絵を描いてもらってるんですけど、ラフの時点で唸りましたね。海の景色、その端をバンディッドが疾走してるところが非常によくて、ありがたいなと思いましたね。本当に僕らの想像したものがいろんな人のおかげでどんどん形になっていくっていうところには、感動しっぱなしです。
──そもそも小説自体が情景をイメージしやすい描写になっていると感じました。
青羽 やっぱりロードノベルってすごいなって思いましたね。僕はいろんなところにバイクで行くのが好きなんですけど、景色もあるし、フィールドが勝手に物語を進めてくれるし、すごく豊かなものになったなと思いました。
──Shunさんは?
Shun 僕が絵を描いたりとかできないので、単純な感想として「すごいなあ」っていうのはいつも思うんですけど、今回はその人が淡々と自分自分の世界を進んでいってる感じがイメージできて、すごくいいなと思いました。
シンガーの生態について、実際にシンガーに取材!?
──では次は、アカウソの「手紙」について伺います。今回の主人公である文さんのディテールがすごく細かく描かれていますが、これはみさきさんに取材した成果でしょうか?
真下 そうですね。私はギターを弾いたことがなくて、ギター関連のことがよく分からなかったんですね。普段小説を書くときははいろいろな人のTwitterとかを見てディテールを考えるんですけど、今回は「みさきさんに聞けるじゃん!」と思って、LINEで質問を5~6個しました。「チューニングって、カードチューナーとか使うんですか」とか「弾き終わったあと弦は緩めますか?」とか「今のギターは1台目ですか?」とか「レンタルのスタジオは使いますか?」とかいろいろ聞いたら、20分後ぐらいにすぐ質問に全部答えてくださって。それでだいぶ固まったというか、書きやすくなりました。
──みさきさんの協力あってこそなんですね。
真下 作中のシンガーとかアイドルとかって、神聖なものとして描かれることが多いのかなと思うんですけど、今回はちゃんと人間として書きたいなと思っていて。ディテールがちゃんとできていれば、そこの説得力は持たせられるのかなと。今回は作中曲という形になっていることもあって、いろいろ質問させてもらいました。
みさき 小説を読んだら、私が質問に答えたことがそのまま反映されていて、ちょっと自分に重ねて読めました。私も文さんみたいに自分の実体験しか歌うことがなくて、誰かのために曲を書いたことはないんですよ。この「手紙」という曲は、誰かに届けるために新しいことに挑戦していて、私も自分の活動に取り入れたいことがあって面白かったです。
──別に、文さんのモデルがみさきさんというわけではないんですよね?
真下 そうですね。取材はしましたけど、モデルはみさきさんではないです。文の歌詞の雰囲気とかも全然みさきさんとは違いますし、歌に対するスタンスとかも文はけっこうドライですし。細部に説得力を持たせたくてみさきさんに取材をしたという感じなので、みさきさんからするとちょっと不思議な気持ちになる小説かもしれないですね。
──文さんが作った曲ということで作中曲が存在するわけですが、でも実際それを歌うみさきさんは、文さんとはシンガーとしてのタイプなども違うとと思うんですが、そのギャップは実際に曲が完成して、どう感じられましたか?
真下 文は普段はけっこうドライな感じの曲を歌っているシンガーで、そんな彼女が誰かに宛てた感情的な曲を歌うのにチャレンジするというお話だと思うんですけど、そういう意味で言うとみさきさんは歌に感情を乗せるの
みさき 私はふだん、恋愛の曲とかしか歌わないので、こういう歌詞の曲は新鮮で、感情を込めるのがちょっと難しかったんですけど、文さんと同じで新しいことに挑戦できて、楽しく歌えました。
──完成した曲について、真下さんはどう感じましたか?
真下 最初に歌詞をお渡しする段階で、音がないまま歌詞を作るとリズムもおかしくなってしまうので、自分で作曲とまでは言わないですけど、ピアノで適当に出た音を軽く当てておくことが多いんですね。その段階から考えるとだいぶドラマチックになったというか、人の感情を揺さぶる曲になったなと思いました。実際、作詞の作業がけっこう大変だったんですけど、劇中で「たった1人に向けた曲」として登場する歌が、みさきさんの歌い方によって、ちゃんと誰かにまっすぐ届く曲になったのかなと思いました。
──ではお互いに対する印象を伺います。真下さん、アオニジの「途方」についての印象は?
真下 第1話、第2話と見てきて、この第3話の曲はテンポ感がゆったりしていて、曲だけで聴いた時に「これは詞をつけるのが大変だろうな」と思ってたんですよ。たゆたう感じのイメージなので、何か韻を踏みまくってもうまくいかないだろうし。その中で青羽さんの詞が今までとは変わったなと思ったんです。今まではけっこう、鬱屈した感情を吐き出すイメージだったのが、今回はけっこう透明感のある描写が増えているなと。無限に聴いていられる系の楽曲になってるなと思いました。
青羽 いやもう、その通りですというか(笑)。すごく作り方が変わる曲であったことは間違いないですね。本当に音楽にノりながらというか、たゆたいながら浮かびながら、言葉を入れてって。もう何周も何周も聴いて、鼻歌から言葉を拾い上げていくような作業でした。
──逆に青羽さんから見た「手紙」に対する印象は?
青羽 「そうくるか!」とまず思って。しっとりとした曲調になるのかなと思ったら、かなりパキパキとした音が来て、最初ちょっと驚いたんですけど、でもこれは一つの正解だなとすごく思ったんですよ。重すぎないというか、ちゃんとノリよく駆動してはいるんですけど、ただ、言葉が死んでないというか。今回の歌詞って、人のが題材だし、すごく難しいところだったとは思うんですけど、そこをうまく曲に乗せていて、どっちも死んでない。重すぎでもなく、かといって簡単に過ぎ去っていくものでもなくっていうのが、すごくうまいし、そしてみさきさんの声ともちゃんと合っていた。
真下 楽曲のオーダーをお伝えする時に、ちゃんと歌詞を伝えられる曲にはしたいけれど、しんみりとした曲調だと、本当に聴いている人がただただ暗い気持ちになってしまうので、「明るめの曲でお願いします」と伝えたんです。既存のバンドの曲とかもリファレンスでお送りして。でもそのために軽く見えてしまっても困るなということで、歌詞の調整には苦労したので、青羽さんの感想はすごくうれしいです。
──Shunさんはいかがですか?
Shun 自分たちの曲と似てるのかなって勝手に想像していたので、意外とキャッチーというか、「テンポいいんだ!」と、最初は思いました。でも今までのテンポのよさとは違って、どこかで落ち着きは共有していたような気がしました。
──ではみさきさんの「途方」への印象は?
みさき 私は正直、あのメロディーがメめちゃくちゃ好きで、一言で言うと、めちゃくちゃエモいなって。Shunさんの歌声で歌詞がスッと入ってくる感じがすごく素敵で。ドライブ中に聞きたいなと思いました。
アカウソとアオニジ、作品群の楽しみ方とは?
──このプロジェクトは現時点でお互いの第3話まで公開されています。小説としては、やっぱり第1話から読み進めた方がいいんでしょうか?
青羽 まあ、ちょうど今は第1話から無料公開中ですしね(笑)。いやでも、途中からでもいいんじゃないですか。どこからでも入っていけるものという気はしています。
真下 好きなところから読んでも成り立つように作っていると思うので。オススメは確かに第1話からかもしれないですけど、例えば第3話だけ読んでも成立するものにはなってると思います。
青羽 一つ一つちゃんと完結してますもんね。
──確かに、全体で世界はつながっているけれど、どこからでも入れるように計算されていますよね。「ここでつながるのか」というのもあるし、「何かの話を踏まえているんだろうな」と思うことはあっても、それを知らないまま読み進めても問題はないし。
青羽 やっぱり楽曲が1曲1曲あるから、一つ一つの話が独立した力を持っているのかなあという気はしますね。
真下 楽曲制作を通して、登場人物の一人一人に深く入り込んでいけたなという感じはありますね。私は連作短編を書くのは初めてだったんですけど、一人一人の生活が小説の後も地続きであるんだろうなという作りになっているとは思います。連載ではないので、何も知らない人が途中から読んでも楽しめるような作りにというのは、最初に意識したところでした。
──しかも、それを2人がかりでやられているわけですからね。
真下 両方読むと、「こんなことができるんだ!」って、驚いてもらえるだろうなという自信はあります。
青羽 僕と真下さんの2つの世界があって、さらに両方を全部見ていけば、最後にたぶんもっと大きな世界が出てくるなという感じはしますね。
──その意味でもこれから物語終盤の展開も曲とともに楽しみなんですが、最後にこの作品群をどういう楽しみ方をしてほしいかというのも含めて、読者へメッセージをお願いします。
Shun 僕自身、音楽を聴いたりとか、本を読んだりする時って、浸りたい時が多いんですよ。それぞれ浸りたい時って違うと思うんですけど、そういう時のお供みたいな感じで、音楽と小説を合わせて楽しんでいただけたらいいかなとは思いますね。
みさき 楽曲の感想をくれるファンの方の中で、「小説を読んで聴いたらもっといい曲に聞こえた」と言ってくれる人がいるので、ふだん小説を読まない人でも、この曲を聴いて「どういうストーリーなんだろう」というのが気になって小説を読み始めたらハマるみたいな。私はそんなに小説を読んでなかったんですけど、このプロジェクトを始めて小説を読んでみて「小説って面白いな」って思い始めたので、音楽しか聴かない人でも、小説を読んで楽しんでもらえたらいいなと思いました。
青羽 今、みさきさんが言ってくれたように、小説というのはちょっと皆さんから遠いところにあるイメージなのかなという気がしています。そこに音楽という入口を通じて入ってもらえるというのは僕らにとってはすごく大きな機会だし、その相乗効果で見えてくるものも面白いと思っています。それに加えて、さっき言った通り音楽も小説も同時に作っていて、予定調和的なところがないというか、その都度その都度、本当に試行錯誤しています。だから、最後まで驚きのある話、予想しないところに広がっていく話になるんじゃないかなと。そういうところも見ていただけると、とてもうれしいですね。
真下 これをきっかけに小説に興味を持つとか、これをきっかけに音楽に興味を持つとか、そういうつながりができていったら面白いと思います。正しい読み方、正しい聴き方というのはないですけど、まず曲だけ聴いても面白い、いいものにはなっていると思うし、小説を読んで改めて曲を聴くと、聞こえ方が変わったりとか、小説を通して新しい見方ができるのが面白いところでもあるのかなと思うので、「そこもつながるんだ!」みたいなところを楽しんでいただけたらなと思います。
茜さす日に嘘を隠して/手紙
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青く滲んだ月の行方/途方
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- WRITTEN BY高崎計三
- 1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。