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【THREE1989】メジャーだからこそできた、CDの限界に挑戦『Director's Cut』

2021.11.03
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インタビュー
1989年生まれの3人によって結成されたTHREE1989(読み:スリー)が、メジャー1stフルアルバム『Director's Cut』をリリース。全26曲、CD容量の限界である74分というこのアルバムは、7つのパートに分かれた大作! 「7つのスクリーンがある映画館」に見立てられた、バラエティに富んだ作品になっています。Shohei(Vo)、Datch(DJ)、Shimo(Key)の3人に、アルバムの内容を含めてタップリお話を伺いました!



3人はなぜ「CDの容量の限界」に挑戦したのか?


──まずは、どうやって「ボーカルとDJとキーボード」という特徴的な編成に至ったのかという経緯についてお聞きしたいんですが。そもそも専門学校の同期なんですよね。

Shohei はい、そうですね。昔々の話なので……(笑)。

Datch もともとは、それぞれがシンガーソングライターという感じで活動してたんですけど、専門学校で僕が2人に「やろうぜ」って声をかけて結成したのがきっかけですね。ボーカルのShohei君はもう当初から歌がうまくて、自分とキーボードのShimoはどっちかというと曲作りの方が好きだったんですけど、Shimoは最初ギターを弾いていて、THREE1989になってからはキーボードを弾いてくれてるんです。当初はもう少し、EDM寄りというよりはエレクトロっぽい感じでやってたので、僕もDJというよりマニピュレーターみたいな感じで曲を出してて。それでライブをやっていく中で、ライブ感っていうところでスクラッチとかもちょっと取り入れた方がいいなという感じで、わりと「DJ」という形態になっていたという感じですね。

──では今のこの形になって、ざっくり言うと曲作りの役割分担というのはどんな感じになっているんですか?

Shimo もちろん3人それぞれ作詞作曲もできるんですけど、今は主にShoheiがやっていて、編曲が僕で、最後のミックスをDatchがよくやってくれますね。割合的にはそういう形が多いんですけど、今までにはDatchが書いた曲もありますし、いろんなパターンがあります。

──トラックの部分は、主にDatchさん、Shimoさんがそれぞれの持ち場で作られているという感じですか。

Datch 僕はコードとかというよりはビートとか跳ね感とか、楽器の鳴りとかを見るタイプなので、アレンジは主にShimoが率先してやってくれてます。

──今回、メジャーデビューということになります。今までもインディーズではアルバムなどリリースはされていましたが、メジャーデビューとなると違いましたか?

Datch 思ってたよりも、すごく自由にやらせていただいたなと思いますね。自分たちのわがままを、けっこう突き通していただいたなと感じてます。

──どのへんがわがままなのかは、作品の話の中で聞いていければと思うんですが(笑)、では今回のアルバムでは、やりたいことをガンガン出していったという感じだったんですか?

Shohei マックス出しましたね。今までの僕らの印象だと、メジャーではみんなで作っていくものだから、関わる人が増えて、意見をもらえる人も増えるってことだと思ってたんですよね。でも今回、チームの皆さんが僕らのやりたいことをすごく尊重してくれて、それに対するサポートもすごく力を貸してくれたっていうのが印象的ですね。

 



Datch やりたくても、規制があってやれない……みたいなストレスはゼロでしたね。お金の部分とか、今までできなかったことってあるじゃないですか。例えば26曲レコーディングなんて自分のポケットマネーでは絶対できないし、ミックスやマスタリングもできないし、川畑要さんとコラボなんて……って感じじゃないですか。それを、全部やらせてもらいました。

──なるほど。そういった中で作られた、このメジャーデビューアルバムなんですが、さっき言われたように26曲、74分収録。7つのチャプターに分かれていて、映画風な味付けと、まず要素がいろいろありますよね。これは全部最初からガッチリ決めて臨んだんですか?

Datch 最初は、映画をコンセプトにしようという感じでは全然なかったんです。でもいろいろ曲が上がってきて全体像が見えてきた中で、じゃあ、スクリーンがいくつもある映画館に入ってるという形だったら、一つのアルバムにまとまるんじゃないかという話の中で、最終的に「映画館」というコンセプトが出てきた感じですね。

Shohei 60曲ぐらいデモがあったんですけど、その中で、アルバムにどの曲を入れるかという点では甲乙つけがたかったんですよ。そこから、このパートとこのパートでつながるし、第2パート第3パートの曲はどれにするかとなった時に、「映画館と考えたらやりやすいね」みたいな。

Datch そうすると、アルバム発売前にリリースされていた曲とかも、また違う意味で生きてくるというか。前後でそのストーリー性を提示することによって、また違う部分が見えてくるみたいな感じで、いい意味で再リリースというか、ちゃんと意味が出るなと思って「映画館」というコンセプトにしようとなりました。

──それだけ候補曲がたくさんあって、甲乙つけがたかったから、収録時間の限界まで入れちゃおうという感じだったんですか?

Shohei なぜCDの限界に挑戦したかというとですね。僕たちがCDで育った世代だし、今後、CDというものがどう形を変えていくか分からない中で、メジャーファーストフルアルバムというものをCDとして出す意味というのを考えたんです。僕らがCDで育ったから、フルマックスに入れたいねという、そういうところから始まって、もしかしたら今後CDがなくなっていくかもしれない、そしたら俺たちが出すCDも最後になるかもしれない。だったらちゃんと歴史に残るもの出そうよというところもありました。ストリーミングだったらもっと曲数が増えてたかもしれないし、60曲全部入れてたかもしれないですけど(笑)。

──それはそれで、聴いてみたいような恐ろしいような(笑)。

Shimo 聴く人を選ぶ感じになっちゃいますね(笑)。

──同時に、これは「アルバム」という形式ならではの構成ですよね。でも今は配信がメインで、曲単位の聴かれ方が中心になっているので、簡単に言うと逆行しているのではと思うんですが。

Shohei 僕らとしては、全然逆行してはいないと思ってます。逆に言うと今回、いろんなジャンルの曲が入ってるんですよね。僕らのやりたいことが全部できたので、ストリーミングでいろんなプレイリストに僕らの曲が入ることによって、いろんな人たちが聴いてくれるだろうと。例えば中学生が、あるジャンルの音楽は好きだけど、こっちのジャンルは聴きませんと。だから僕らの曲の中でこれを選んで聴きますとかなってくれればいいし。そういう意味では、いろんなものを提示して一気に散布できるので、すごくいい作戦かなと思ってます。

──アルバムという形式で曲順とか流れにはこだわって作られてると思うんですが、それをバラしても大丈夫ということ?

Shohei バラしても全然大丈夫です。むしろ「ローファイ」「ヒップホップ」みたいなプレイリストに入るだけのInterludeとかもありますし、全然バラして聴いてもらって構わないです。まぁ、CDを買った人はちゃんと順番で聴いてほしいですけど。

──アルバムの中には「曲」としてクレジットされているものと「Interlude」としてクレジットされているものがありますが、「曲」でも短いものもあるし、「Interlude」でも歌詞がしっかり入っている「小曲」みたいなものもあればインストもあるし、ポエトリーリーディングもあって、「添え物みたいな感じとは全然違いますよね。

Datch そういう意味では、野球で言ったら全曲、マックス150kmのストレートを投げてます(笑)。

Shohei もちろんInterludeは、メインの曲に対しては添え物であるべきだと思うんですけど、そういう意味ではあえてちゃんと作ってるという感があるかもしれません。蛇足の部分にもちゃんと力を入れてるというか。

──アルバムの中では、離れたところにある曲が時系列ではつながっていたりもしますよね。アルバム全体で一つのストーリーもあるんでしょうか。

Shohei ストーリーは、一応あるにはあるんですけど、本当に聴いてくれた人が、勝手に答えを出してもらった方がいいかなと思ってますね。アルバムを作った大きなテーマとしては、イントロに続く「A. me too」という曲があるんですけど、これは「Answer. me too」の略語なんですね。「私たちもそうですよ」と。月並みな言葉で言うと、今までライブもできない中で、家族とかとも離れたりとか、ファンの人たちとも離れたけど、私たちもあなたのことを思ってるし、あなたも私たちのことをずっと思ってもらえたらうれしいなというか。

──なるほど。

Shohei だからアルバムとしては、映画館のトビラを開けると、7パートの部屋があると。これは物語としてはそれぞれ分かれているものなんですけど、全体で一つにつながっているメッセージとしては、コロナ禍とかで家族とかもみんな離れ離れになっちゃったりとか、人と人との距離が開けられたりする中で、でも昔、僕らが子供の頃って、お家で金曜ロードショーを家族みんなで見てたよねと。そういうところに立ち返って、「もう1回家族みんなで映画を見ようよ」とか、「もう1回みんなで一つの音楽を聴こうよ」とか、そういう温かさをちょっとでも出していけたらいいのかなと。そういうところにこの「映画館」と、このアルバムの大きなテーマというのが、詰まっている感じです。


夢が叶った! 川畑要との共演


──ここまでお聞きして改めて思うんですが、すごくサービス精神が旺盛ですよね、全体に。



Shimo でも、実際はけっこうエゴの部分が多かったかもしれないですね。とりあえず自分が満足するものと、他の2人が満足するものと、あとチームのみんなが満足するものという感じでどんどんフィルターを通していって、とりあえず26曲、自分たちが聴いて飽きないサウンドにしたいというのが大前提にあって。それは曲調だったり歌詞だったり、いろんな面でなんですけど、その中で何か一つでも被ってるようなものがあると、「ネタが切れたのかな」と思われるんじゃないかとか考えちゃうんですよね。でもとりあえずは、自分たちが満足するものを作ろうというのが、根底にはあった気がします。

Shohei でも確かに、結果的にはサービス精神かもしれないですね。26曲だもん(笑)。

──でも最初の「Action! - Intro」からして、サービス精神の塊ですよね(笑)。

Datch あれが一番、個人的に時間がかかりました(笑)。

Shimo 今回、7パートあるじゃないですか。各パートごとに一応、15秒から30秒ぐらいの尺でテーマソングみたいなものを作ったんですよ。その完成されたものにナレーションを足して、そこからDJがパーツを組み立てていくというか。

Datch あえて崩すというか、できた絵をちぎって別の絵にするというか。

Shimo そういうのが、何か面白いなと思って。僕は横尾忠則さんが好きなんですけど、彼の「多元宇宙論」という絵があるんです。それは、5~6枚の完成された絵を全部ちぎって重ね合わせたもので。それぞれの絵には何の意味もないんですけど、全体では宇宙を表しているんですね。「Action! - Intro」を作ってる時に美術館に行ってすごく感化されて、「こういうのをやりたい」と思って提案しました。

──なるほど。しかも「Action! - Intro」には英語と日本語、両方のアナウンスが入ってますよね。そこがまたサービス精神だなと(笑)。

Datch やっぱり今は海外の人も聴くから、日本語だけで話してもダメだなと思って、Shimoに英語を入れてもらいました。

──オープニングが全体の予告編的になっているというところまでは他でもあると思うんですが、そこで内容を全部説明してくれるというのはなかなかないなと(笑)。しかも英語でそれらしくというだけでなく、日本語も交えて。

Shimo 確かに(笑)。

Shohei やっぱり僕らからすると聴いていただくものだし、74分という時間を使ってもらうわけじゃないですか。だからそこはちゃんとしたいなというのはありました。日本人の礼を重んじるところを表現できたと思います。

──そのイントロの後に「A. me too」という、しっかりとした歌ものが突如来るのがまた意表を突かれますが、ここでグループの姿勢を示すという感じなんでしょうか。

Shohei そうですね、確かに今の僕らの芯の部分というか、もう本当にやりたいこと、素の僕らを出せたかなという曲ですね。僕で言うと、やっぱり歌が大好きだし、コーラスワークが大好きだし、2人も今作りたいビートをそこに差し込んでくれて、一番表現したいものを表現した形ですね。

──5曲目の「ココロゴト feat.川畑要」では、CHEMISTRYの川畑さんをフィーチャリングゲストに迎えています。これはどういう経緯で?

Shohei 2017年に僕らがインディーズでアルバムを出した時に、交流があった方がいたんですけど、僕らが「CHEMISTRY大好きです」って話をしたら、ライブに連れて行ってくれたんですね。そこから交流が始まって、今では先輩後輩として普通に遊びに行くみたいな感じになったんですけど、今回僕らが「メジャーで1stアルバムを出します、よかったらご一緒してほしいです」と言ったら「もちろん!」と言ってくれて実現に至りました。

──楽曲の制作はどのように進んだんですか?

Shohei DatchとShimoの2人がまずトラックを作っていて、「このトラック、川畑さんに合うんじゃない?」という話をしてたんですね。で、川畑さんと電話でどういう曲にするかという話をしていて、そこから枝分かれしていった話の中で、「“欲望”と“守るべきもの”」みたいなテーマの話になって。男には守らなきゃいけないものと、でもやっぱり選びたいというものと、三つ目の選択肢ってあるよねと。でも、それをなかなか選べない自分たちもいるよね、みたいなところから、今回の「ココロゴト」という、心の中の自分との対話みたいなものが出てきました。それで、いざ選択を迫られた時に自分はどうするのか、みたいなところを書いていこうと。

──なるほど。

Shohei レコーディングに関しては、川畑さんはすごく芯が太い声で、僕はけっこうサラッと歌う方なので、それをミックスするDatchが、バランスを整える上で一番大変だったかなと(笑)。

Datch 面白かったですね。歌い方一つで、その言葉の持つ意味合いが変わってくるんですよ。表情が変わるという意味で、2人の「柔」と「剛」みたいな対比があって。川畑さんの声はすごく男らくて、「体から鳴ってる音」みたいな感じで。Shohei君の場合はどちらかというと繊細に歌う感じだったので、その二つの響きの使い方が面白かったなと。曲により深みが増した感じがしますね。

──今、Shoheiさんからは「大変だったのではということでしたが、実際大変ではあったんですか?

Datch そうですね。やっぱり、聞いた時のボリューム感は一緒でも、鳴り方が違うと、大きさが違うように聞こえてしまうので。だから2人の声をちょっとトラックになじませるのには、ちょっと苦労しました。でも川畑さんに聴いてもらった時に「よかった」という声もいただけて、逆に2人のカラーの違いを出せてよかったと思います。

──川畑さんからは、アーティストとしての姿勢など学ぶところも大きいですか。



Shohei まさにそうですね。今回の「ココロゴト」という曲も、表のテーマとしては男女の恋愛の話なんですが、真のテーマは「三つ目の選択肢」ということで。僕らが30代になる時とかも、川畑さんにいろいろ「30代になってから、なかなか新しい選択をするのが億劫になっちゃうんですよね」みたいな相談したりしてたんですよ。そうすると、川畑さんは「40代の俺たちでも、やっぱり50代の人の背中を追ってるよ」みたいな話をしてくれて、「いやいや、まだまだだろう。頑張れよ」と。そんな言葉をもらったりしていたのが、けっこうテーマにもなってて。そういう三つ目の選択肢に億劫にならずに、どんどん挑戦していけばいいんじゃない?みたいなことを提示する、メタファーみたいなところもあって、背中をずっと見せてもらっているところを曲にしたというのもありますね。

──では本当に、メジャーでの1stということを機に、待望のコラボができたと。

Shohei 待望でしたね! ずっとやりたかったんですけど、そのきっかけもなかったし。本当に「憧れのアーティストvs僕ら」みたいな時期だったらもっとよかったんですけど、どんどん仲良くなっていくうちに、声をかけるタイミングってなかなか難しくなったりしていくじゃないですか。そこにメジャーの1stというきっかけをもらえたから、よかったのかなと思います。夢が叶った感じですね。


実際のアルバム収録曲は35曲?


──8曲目が「恋の嵐」。竹内まりやさんのカバーですが、この曲を取り上げた理由は?

Shohei この1曲前に「紫陽花」という曲があるんですが、この曲を作った後に、僕が別で、いろんな曲の世界を妄想するみたいなラジオ番組をやってるんですよ。5分の曲の中で、歌詞の背景はどんな感じだったんだろうみたいな妄想をする感じで。それで何かいい曲ないかなって探してた時に、ストリーミングで「恋の嵐」にパッと触れる機会があったんです。そういえばお母さんが、僕の小さい頃に車の中で山下達郎さんとか、久保田利伸さん、竹内まりやさんとかを聴いてたなあと思って。それでちゃんと歌詞を紐解いていくと、「紫陽花」っていう曲の、逆に答え合わせをしてくれてるような歌詞の内容だったりしたんです。


──答え合わせ、ですか。

Shohei 「紫陽花」というのは男女の別れの物語なんですが、夏に向かって男の人が旅立っていくと。「恋の嵐」も同じようなシチュエーションなんですけど、もっと女の人の心情を詳しく表しているような感じだったので、「この女の人の答え合わせをしてくれてるなあ!」ということでぜひカバーしたいと思い、実現しました!

──今回、すごく大胆なアレンジになってますよね。そのアイデアも最初からあったんですか?

Shohei どうだったかな? 曲調というか、雰囲気はTHREE1989っぽくしようねという概略は決めていて、ちょっとアンビエントな感じでいこうという話がShimo君から出て。

Shimo この原曲のよさって、ちょっと悲しい歌詞なんだけどコーラスは明るかったりして、悲しい中でも自分を元気付けてるというところだと思ったんです。そういう明るい面がほしかったので、アンビエントだけじゃ足りないなというので、ホーンセクションを足したりとか、サビの部分では華やかにしてみようと感じにしました。でも、やっぱりカバーをするというのは難しかったですね。自分たちの曲じゃないものを自分たち用に染めるというのは、今までもやってきてたことではあったんですけど、公に、曲としてリリースさせてもらえるというのは初めてだったので。何かいろんな緊張感がありました。

──9曲目が「異国のCM- Interlude」というタイトルと思って聴いたら、中身は日本のCMという(笑)。

Shimo ツッコミどころが満載ですね(笑)。

Shohei パラレルワールドなのかもしれないですね。日本だけど日本じゃないというか、別の次元の日本というか。映画とかで、変なところに飛ばされてるんだけど、なぜか言葉が通じるみたいなのってあるじゃないですか。

Datch ほんやくコンニャク的な(笑)。

──でもこれも、CMごとに曲を作ってるわけですよね。

Datch 実際、こういう曲も合わせたら、アルバム全体で35曲ぐらいあるよね(笑)。

Shimo この「異国のCM」の一番最後に入ってる、化粧品のCMの曲があるんですけど、あれも「Ambitious Flavor」といって、ワンコーラスはちゃんと出来てた曲なんですよ。

──そうなんですか!

Shimo 歌詞もちゃんとあるんです。だから、あそこで使ったのはなかなかの思い切りやったなと思います。またいつか、ちゃんと曲としてリリースしたいですね。

Shohei そういうのもあります。今回のアルバムには断片だけ入ってるけど、ちゃんと今後リリースしたいねと話してるものとか。



──そこから「夏ぼうけ」につながっていくわけですが、これはタイトルから入ったんですか?

Shohei どうだったかな? 「夏ぼうけ」っていうタイトルは、後からですね。この言葉がサビを書いていくうちに出てきて。できた経緯を話すと、銭湯に行ってて、シャワーを浴びてたらAメロの始まりの「きっと誰かが蛇口を ギュッと締め切ったから 急に夏が降らなくて 僕らはもうお手上げさ」という歌詞がバーッと出てきたんです。コロナ禍で夏がなくなったみたいな時だったので、神様とかそういう存在の人たちが、夏の蛇口を締め切ったのかなと。本当に夏を全然楽しめてなかったので、「夏」と「待ちぼうけ」を足して、ちょっと盆踊り的な「夏ぼうけ、夏ぼうけ」ってちょっと日本の古き良きメロディみたいなのが思い浮かんできたと。

──今サラッと言われましたけど、何で銭湯に行ってたんですか?

Shohei 曲が出来なかったからですね。僕、サウナが大好きで、週3ぐらいで行くんですけど。この時も2曲出来なくて、もうとりあえずサウナに行こうと。

──「夏ぼうけ」という言葉がすごく印象的ですが、これが浮かんだ瞬間に「やった!」みたいな感じはなかったですか?

Shohei イチかバチかでしたね。そういう日本語のパンチラインをサビに使うのって、けっこう紙一重だと思うんですよ。聴く人が聴くとダサイなと思っちゃう可能性もありますし。でも、いい塩梅を生み出せたなっていうのはちょっと思いました。挑戦的ではありましたけど、ここだったらちょうどいいかなというか。今までだったら、英語の言葉に変えたいなって思うようなラインですけど。「夏ぼうけ」で行かせてくれって2人に言ったら、「いいんじゃない?」って返ってきたので、じゃあいいのかなと。

──他のお2人は、抵抗はなかったですか?

Shimo 挑戦ということで。

Shohei ちょっと抵抗あるじゃないですか(笑)。

Shimo 何か判断できないものってあるけど、「ヨシ!」と思ってやるべきだなというのはあるんですよね、何事も。そういう意味で「いいんじゃない?」と。

Shohei すごい、子育ての名言みたい(笑)。

Datch 「1回やってみたら?」みたいな(笑)。

──この「夏ぼうけ」から「君のウインクが欲しい」は、このアルバムの中ではわりと珍しく、アッパーな曲が続きますね。

Shohei そういうパートですね。アルバムが長いので、このへんはアップビートにして、ノリノリで聴いてほしいという感じにしました。「異国のCM」でテレビをつけて、全然面白いのやってないなあ、「夏ぼうけ」しちゃってるな、好きな人に電話してみようかな、出ないなー、みたいな、ちょっと悶々とした情景が表現できたかなという感じですね。

Shimo 「夏ぼうけ」も「君のウインクが欲しい」も、ワクワクするような曲、ワクワクするようなパートにしたいなというのはありましたね。このパートはそういう映画ということで。

──でも、そこから急に冬パートに行きますよね。時系列的に、季節の流れがあるのかなと思ったら、急に飛ぶという。

Shohei 妄想の中で、「夏ぼうけ」と「君のウインクが欲しい」の主人公が例えば男の人だとして、その後の「Christmas Delivery - Interlude」という曲が、完全につながってるじゃないですか。そこは元々本当に「君のウインクが欲しい」の一部だったんですよ。歌詞の最後に「配達のお兄さん 幸せの住所 教えて クリスマスには程遠いけど」と歌っていて、そこから妄想の中でクリスマスに飛んでいくみたいな、切り替えのフェードという感じで。

──12曲目の「Christmas Delivery - Interlude」から15曲目の「Private Castle」までがクリスマス・パートという感じですが、このパートは他と比べて曲数が多いですよね。

Shimo アルバムが出るのが11月というのもあって、タイミングもピッタリだなと。僕らは今までわりと夏の曲が多かったんですけど、冬の曲はあまりなかったので、そこでバリエーションを増やしたいという思いもありました。



幅広いフィーチャリング・アーティストが参加!


──16曲目の「Stay Gold」は、資料ではInterludeではなく「ショートバラード」となっています。

Shohei まあ、Interlude扱いのショートバラードというか。この曲に関しては、この長さがちょうどいいなっていう表現方法ですね。本当はもっと長くした方が、聞きごたえとしてはあるかもしれないですけど、この曲が持つ意味としては「一番だけ」というのがベストだったかなと。

──18曲目が「甘い降伏 feat.Tomoaki Baba」。サックス奏者のTomoaki Babaさんとの共演ですが、資料には「盟友」とありますね。

Shohei 「盟友」はちょっと盛りすぎたかもしれないですけど(笑)、昔やってたバンドがあって、その時にサックスのサポートをしてくれていたんですよ。当時彼はニューヨークにずっと住んでいて、ちょうど帰国したタイミングだったので、一緒にやろうよと。当時から、「THREE1989と一緒にやりたいな」みたいな話をずっともらってたんですけど、コロナをきっかけに彼が日本に帰ってきたので、せっかくだからアルバムで一緒にやろうよというところからスタートしました。

──サックスのためにあるような曲になってますよね。

Shohei そうですね。本当の意味で「フィーチャリング」という感じです。Maxwell(アメリカのネオソウル・シンガー)みたいな感じを出したいねと話して。

Datch デモで出した中でも、一番サックスに合いそうな曲だったんですよね。一番色気のある曲だったので、「この曲が合うんじゃないか」と話して。

Shohei 実際に、彼のサックスがすごくハマったのはうれしかったですね。

──で、次の19曲目が「愛の処方箋 feat.asmi」なんですが……いただいた資料には全曲についてかなり詳細な説明がある中、彼女については「大阪で出会ったシンガーasmiちゃん」と、急にザックリした紹介になってるんですが(笑)。

Shohei 確かにザックリしてますね(笑)。2020年の秋に、大阪でホテルでのライブイベントというのがあって、終わって会場を出たらギターを背負った女の子がいたんですよ。彼女はそのイベントの対バン相手だったんですけど、「THREE1989好きです!CD聴いてください!」ということでCDをいただいて、帰りの車で聴いたら「メッチャ声かわいい!」ってなって。本当に聴いたことがないような癒しボイスだったので、その声と僕の声が混ざり合ったらどんなケミストリーを生むのか、みたいな単純な興味もありましたし、本当に一瞬でその声の虜になったので、一緒にやりたいなと思ったんです。

──運命的な出会いだったんですね。

Shohei ホントに、これも何かのご縁というか、今までのコラボアーティストは過去に出会ってた人たちばっかりだったんですけど、新しい風を入れていきたいなというところで、一緒にやりたいという話をして。「大阪で出会ったasmiちゃん」はそんな感じです(笑)。

──先ほどのサックスと同じで、これもまたすごくハマってますよね。

Shohei ハマりましたね! 「現代版ロンリー・チャップリン」を作りたかったんですよ。

──ああ、なるほど!

Shohei デュエットソングって、今ほとんどないじゃないですか。そういうものを若者に知ってもらうというか、歌ってるのは現代の僕らなんだけど、古き良き日本の歌謡シーンを再現するというか。で、ハマるとこういう音色が出るんだよという、そういうところを表現したかった曲ですね。

Datch わりとそれぞれの譜割りも長いし、2人の間を生かした曲になってます。

──そこから「S.O.S - Skit」からの「SAKASAMAの世界 feat.あっこゴリラ, ケンチンミン」で賑やかな感じになっていきますが、これはこれでまたハマっているという。

Shohei そうですね、本当にフィーチャリング・アーティストみんなの個性が全部出たなというか。「S.O.S - Skit」ではそれぞれが本当に普段通りのしゃべり方でやってくれたんですけど、そういう、アーティストの普段通りのしゃべり方をCDで聞く機会ってあんまりないと思うんですよね。だから余計に、「SAKASAMAの世界」に対して入り込めるというか。例えばラッパーというものにちょっと抵抗がある人にも、「こういう人なんだ」というところから入れるから、スッと入ってこれるかなと思います。

Datch K-1で言うたら、「煽りV」みたいなね。

──試合前に選手のキャラクターや見どころを紹介する映像ですね。

Datch アレがあるから、試合がより楽しめるのと一緒で。

──このアルバムは曲数が多いこともあって、川畑さん、サックスのBabaさん、大阪であったasmiちゃん、それからあっこゴリラさんとケンチンミンさんと、フィーチャリング・アーティストもけっこういて、それぞれ全然タイプが違いますよね。でもそれぞれハマっているということは、THREE1989の曲が、そもそもすごく懐が深いのかなと思ったんですが。

Shohei ああ、そうかもしれないですね。「幅が広い」というのはけっこう言われたこともあるんですけど、悪く言うと「軽い」と見られがちじゃないですか。でも「懐が深い」と言っていただけると、すごくしっくりくる感じはしますね。

──もちろん、各曲でそれぞれのためにやってはいるものの、ただ相手に合わせただけじゃないというか。

Shohei そうですね。本当に色を見極めて、一緒にやったら、もっといいものがどう生まれるかというところを意識してやりました。どれも楽しかったですね。

Shimo 確かに、みんな本当に個性も違うし世代も違ってて、それも面白かったですね。やりとり一つとっても、それぞれ全然違ったし。


次は……「サブスクの限界」に挑戦!?



──23曲目の「Winter Groove」なんですが、これも資料には「スキーのCMソングのような」と書かれてるんですが。

Shohei ああ、「JR SKI SKI」ですね。曲ができた時に、「あ、これはJR SKI SKIみたいになったらいいな」と思って。

──ではレコーディングやアレンジでも、そこを意識はされたんですか。

Shohei 意識は……したね(笑)。

Datch 僕らは全員が曲を書けるので、1週間でテーマを5個ぐらい挙げてそれぞれが曲を作ろうってやってた時期があるんですよ。確かそのテーマの一つに「JR SKI SKI」があって。

Shohei そうだ!そうだったね。セルフ書き下ろしですね(笑)。

Datch 「甘い降伏 feat.Tomoaki Baba」もそのうちの一つで、「ボジョレー・ヌーボー」がテーマで。

──「ボジョレー・ヌーボー」はまだしも、「JR SKI SKI」をテーマに曲を競作するバンドというのも珍しいですよね(笑)。で、25曲目が「エゴイスティック渋谷」。アルバムの中でもこの曲には一番気持ちが強く込められているという印象を受けました。

Shohei まさにそうですね。2021年を象徴する感じというか……日記に近いかもしれないですね。僕らはずっと渋谷で活動してきたて、これまでの渋谷を知っている人種だし、これからの渋谷をまたさらに知っていくような人種だと思っているので、現代の歴史書じゃないですけど、未来の人たち、僕らの孫とかがこの曲を聞いた時に、「こういう時代の渋谷があったんだ」とか、「じいちゃんたちはそういう生き方をしてたんだ」とか、そういうのを手に取ってもらえたらうれしいし、今残すべき曲かなと思って書きました。

──この曲が実質的なラストソングという位置に置かれているというのも、そういう意図からということですね。

Shohei はい、本当に、ここに伝えたいことが詰まってるという感じですね。


──で、「走馬灯 - Outro」で締めなわけですが……これだけのアルバムを作って、達成感というか、やり切った感があるのでは?

Shohei 枯渇しますね(笑)。でも、逆にこれをやりきったからこそ見えたものがあって。4曲目の「裸」という曲でも歌っていることなんですけど、僕らは今まで、継ぎ足し継ぎ足しで、オシャレなものだったりカッコいい言葉とか、そういうものを“ガワ”にどんどんはめていったと思うんですよね。それがだんだん時を経て活動していくうちに、今はけっこう自分の言葉で歌詞を書けたりしてるんですよ。「カッコいい言葉だから使おう」とか「カッコいいメロディだからはめ込もう」じゃなくて、本当に内から生まれたものをはめていけてるので、そういう“ガワ”をだんだん外していくことが、もしかしたらTHREE1989の本当の形なんじゃないかなみたいに思った節があって。でもこのアルバムを作り終えた時に、「あ、まだちょっと“ガワ”あるな」と思ったんですよ。

──ほう。

Shohei だから、これからはその“ガワ”をもっと外したTHREE1989を、どんどん出していけたらいいなという感じで、次のタームは見えてるかなと思ってます。

──以上、アルバム全体を語っていただきました。そしてこれだけのアルバムを引っ提げて、11月下旬に東名阪ライブがあります。どんな感じになりそうですか?

Shohei 名古屋ではOrland、大阪ではNeighbors Complainと、大好きなバンドと対バンなんですよ。本当に、名古屋と大阪でそれぞれ一番だと思うファンク、ソウルミュージックのバンドなので、そこと対バンできることにはすごくワクワクしますし、それが本当の意味での「対バン」かなと。それこそK-1じゃないですけど、「対戦」というか。

──正面からぶつかり合うということですか。

Shohei よくあるような、親和性があるアーティストといいイベントを作っていこうというものではなくて、「どっちがいい?」って純粋にお客さんに問えるような、ちょっとバチバチした、男臭いものをやれたらいいなと思ってます。

──ファイナルの東京については?

Shohei 東京はワンマンなので、「聴く映画」というこのアルバムのコンセプトをちゃんと消化して、「見る映画」……と言ったら、言葉としては当たり前になっちゃうんですけど(笑)、見世物として答え合わせをしてもらったりとか、また違う聴き方、生本来の聴き方を味わってもらって、生で受け取ってもらえたら、凄いうれしいなと思ってます。

──そして、この先はどうしていきたいですか?



Shimo とりあえず出し切って、次につながるようなことをいろいろやっていきたいなと思ってます。今回、いろんな方とフィーチャリングでやらせてもらって、まだまだ自分たちの知らない一面というのがあるなと感じたんですね。だからどんどん挑戦していきたいです。音楽的にもそうだし、ちょっと挑戦したライブもしていきたいです。11月27日の東京ワンマンも、けっこう挑戦になりそうですが。

Shohei 僕は何がやりたいという具体的なことは、今はない感じなんですよね。

Datch 僕もピンポイントで「これ」というのはないかな。今はけっこう、やりたいことをやり尽くした感があって。

Shohei 一旦ね。

Datch でも何かまた、「こういう音楽いいな、やりたいな」というような感覚はもう出てきてるとは思うんですけど。

Shohei 常々「こういうのがやりたいね」というのが思い浮かんだら、みんなにシェアはしてますからね。

Shimo 次はサブスクの限界行ってみる? CDの限界はもうやったから。

Datch サブスクの限界ってどこにあるんだろう?

Shohei 500曲じゃきかないでしょ?

Datch サーバをパンクさせるまでやりますか(笑)。

──では、次の限界が見つかったらまたお話を伺いたいと思います(笑)。ありがとうございました!

撮影 長谷 英史




『Director's Cut』 2021.11.03 ON SALE
 


「THREE1989 1st Album Director's Cut Release Tour 2021」

11月20日(土) 名古屋JAMMIN’ 開場17:00 開演17:30
ゲスト:Orland
問合せ:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100(月~日10:00~18:00)

11月21日(日) 大阪Music Club JANUS 開場17:00 開演17:30
ゲスト:Neighbors Complain
問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888

11月27日(土) 東京 WWW X 開場16:30 開演17:30
ゲスト:あっこゴリラ、ケンチンミン
問合せ:WWW X 03-5458-7688

[チケット料金]
(名古屋公演、大阪公演) 自由(整理番号付入場券) : 4,000円 / 別途ドリンク代要
(東京公演) 自由(整理番号付入場券) : 4,500円 / 別途ドリンク代要
※当日券は500円アップになります。
チケット:一般発売中


【THREE1989 Official Website】
https://www.three1989.tokyo

【THREE1989 Twitter】
https://twitter.com/three1989tokyo

【THREE1989 Instagram】
https://www.instagram.com/three1989tokyo/

【THREE1989 YouTube Official Channel】
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高崎計三
WRITTEN BY高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。

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