【SDGs】教えて、再生可能エネルギー。 ピコ太郎から安田先生への質問。
「SDGs」という言葉をご存じでしょうか?「Sustainable Development Goals」の略、「持続可能な開発目標」という意味です。簡単にいうと「地球のみんながよりよい暮らしを末永くしていくために、こういうことを考えていきましょう」という努力目標のことですね。このテーマは全部で17あるのですが、今回ここで取り上げるのは「エネルギー問題」になります。
まずは朝日新聞デジタル「SDGsACTION」でピコ太郎のプロデューサー古坂大魔王が、再生エネルギーの専門家で京都大学大学院経済学研究科特任教授 安田陽先生と対談しました!
古坂大魔王が専門家に根掘り葉掘り聞いてみた 「再エネってほんとに大丈夫ですか」
http://www.asahi.com/sdgs/article/art_00097/
でも、ちょっと難しいことも多かったので、SDGs推進大使を務めていたピコ太郎さんが代表して、「再生可能エネルギー」について疑問に思っていることを改めて安田陽先生に聞きました!
化石燃料を使い続けるとどうなってしまうのか、再生エネルギー問題に対して、私たちができることは何か。これを機に一緒に考えてみましょう。
<安田先生の回答>
20世紀の後半には『石油や石炭は有限で、このまま掘り続けるとあと何年で枯渇します』と言われていたんですが、その年数が、50年経った今でもほとんど変わっていません。新しく油田が見つかったり、もっと掘り出せる工法が開発されたりしているので、石油やガスが枯渇するという心配はあまりしなくてもよいでしょう。
しかし、本当の恐ろしさはそこではありません。地下に埋まっているものをどんどん掘り出して使っていくと、地上や上空の環境が変わってしまうんです。特に日本でも、今まで台風が来なかった地域にどんどん台風が来るようになったり、大雨がずっと停滞して洪水や土砂災害がたくさん起こったり、海外では山火事が起きたり、大寒波もありました。
(気候変動によって、もはや「100年に一度の災害」が毎年のように起きつつある)
温暖化といっても単に温まるだけではなく、メチャクチャ暑い地域が出ると思えばメチャクチャ寒い時期が来たりとか極端な気候になって、人が住めなくなってくるんです。そうやってジワジワと人類が追い詰められていって人が亡くなるという可能性も出てきますし、何兆円という被害が出てくるでしょう。
そうなると、例えば農作物が取れなくなって大規模な飢餓が起きたり、移民がたくさん増えて政治不安が増大したりと、悪いことだらけになります。それをお金に換算すると何百兆円というスケールになるということを、世界中の科学者がコンピューター・シミュレーションを駆使して警鐘を鳴らしているんです。そうやって、人類は滅亡に追いやられると。隕石が落ちて地球がなくなってしまうという“突然死”ではなく、ジワジワと寿命が削られていくという感じでしょうね。またそれが他人事ではなく、洪水で家が流されてしまうとか、そういうことが身近に起きる可能性がどんどん高まってくると。だから皆さんもこうしたことを身近に感じていただくことが、地球全体にとってもいいことなのかもしれません。
<安田先生の回答>
日本は20世紀の後半、バブル経済と言われていた頃には、再エネの分野でもうまくやっていた時期もありました。その頃には『ジャパン・アズ・ナンバー・ワン』というフレーズも盛んに耳にしました。でもそんな成功体験があるが故に、そこで味を占めてしまって、『このままでいいでしょう。我々はうまくやったんだから、そのやり方をできるだけ続けよう』ということで、20~30年間、あまり新しいことにチャレンジしてこなかったんです。それで、あっという間にいろんな国に抜かされてしまいました。
日本が優れた技術力を持っているのは確かだと思います。だけど、仕組みを変えてこなかった。それから、世界が変わっていることに気がついていない、あるいは気がつかないふりをしてきたというところが問題なんです。これは下手をすると、20~30年経つということは世代が一つ代わってしまうので、『日本は素晴らしい技術を持っている』というのも、そろそろ過去形になってしまいます。だから今が最後のチャンスなんです。日本の技術力も、世界が変わっている中で日本が変わらない限り、使えなくなってしまう可能性があります。
日本の栄光が過去形になりつつあるということは、今や本当にいろんな分野で言われています。そして、電力の分野ではそれが色濃いと思います。残念なことに、風力発電や太陽光発電に関しては、日本の有力企業が次々に撤退してしまっているという現状があります。もちろん、部品製造などで頑張っている小さい企業もあるとは思いますが、少なくとも世界のトップメーカーの中に、日本企業はほとんど入っていないんです。
そうした状況を打破するのに必要なのは、やはり国の政策も含めた仕組み作りだと思います。デンマークではオーステッドという電力会社としては比較的規模の小さな企業が風力発電の分野で大きく成長して、株価もどんどん上がっているんです。そのように、日本でも新しいことにチャレンジする人を支援するような仕組みを作ることが重要だと思います。
もう一つ大事なのは、市民が声を上げることです。市民が声を上げれば、メディアもそれに乗ってくるでしょうし、政治家も勉強して『一緒にやりましょうか』となってくると思います。逆に声が上がらなければ、みんな『面倒くさいから昔のままでいいや』ということになってしまいます。誰が悪いというわけではないんですが、日本はそこのパワーが、国全体として弱い印象があります。『このままでもしょうがないか』という感じで。
ただ、日本にはソフトのパワーとして、エンターテインメントとかアニメ、ゲームの分野では強みを持っています。これはとても重要だと思うんです。なぜかというと、これからの電力取引というのは、スマホを見ながら『今は電力が安いから乾燥機を動かそう』とか『電気自動車をチャージしよう』という風になって、また自動車をプラグでつないだらポイントがもらえるというようなゲーム的な要素が入ってくるようになります。そこに多くの人が楽しみながら参加してエネルギーの無駄遣いを減らしてCO²も減らして……ということができるようになってくるわけです。だから、必要なのはソフトウェアというよりもプラットフォームなんです。
プラットフォームというと、アップルやグーグルがすごく得意だと思いますが、そのように魅力のある、みんなが集まるようなものがあって、スマホだったり任天堂のSwitchだったりで電力のコントロールにみんなが貢献できたら面白いですよね。そういうソフトパワーは日本が本来得意とするところなので、電力業界と違うジャンルの人たちにアイデアを出していただけると、面白くなるんじゃないでしょうか。
今まで日本は物作りの分野で、安価で品質の高いものを作ってきましたが、もうそれだけでは通用しない世界なので、いかに多くの人に楽しみながら使っていただくか、しかも地球に迷惑をかけず、いいことをすると。そういう部分で、若いクリエイターや新規参入者の方々に、プラットフォームの力を期待したいです。そして、その時に年寄りが足を引っ張らないことが大事ですね(笑)
<安田先生の回答>
これはぜひ、コロナが明けたら、ピコ太郎さんに行っていただいてロケをしていただくといいですよね。ということで、2つの国を選びました。まずはアイスランドです。アイスランドには、地熱発電による広大な温水プールがたくさんあるんです。
(アイスランドの地熱発電による広大な温水プールを楽しむ人びと)
水着を着て入りますが、いわゆる露天風呂です。アイスランドはすでに再エネ100%を達成していて、水力が7割、地熱が3割なんです。ピコ太郎さんにもぜひ、こういった温水プールで再エネを体験していただきたいですね。
もう一つはデンマークです。デンマークは海の上に風力発電の風車がニョキニョキと立っていて、メチャクチャSFっぽい光景になっていますが、この風車はだいたい立ってから15年ぐらい経ってるんです。日本でSFだと思っているものは、ヨーロッパ、特にデンマークではだいたい20年ぐらい前には現実になってるんです。首都のコペンハーゲンで自転車で10分かそこら行くとこういうのが見られるので、ぜひTV番組でロケをしていただきたいですね。すごく身近ですから。
(海上風力発電の風車が並ぶデンマーク 撮影:安田陽先生)
私たち日本人は「外国」というと、やれアメリカだ、フランスだイギリスだと「大国」を思い浮かべますよね。でも、国だけじゃなくて会社でも組織でもそうですが、大きなところほど意思決定のプロセスが面倒くさくて、時間がかかるんです。なので、大きなところが有利かというとそんなことはなくて、小さいところの方が小回りがきいて意思決定が早くて、チャレンジ精神も旺盛だったりするので、実験的なことがやりやすいんです。彼らは、『EU全体とかアメリカとかはどうせグズグズするから、もう自分たちでやろう』となるんです。
日本に置き換えると、日本全体でいきなり再エネ100%にしようとすると難しいかもしれませんが、北海道だけとか、四国だけとか、そういう単位で進めてもいいわけです。上に挙げたのはたまたま小さな国でしたが、例えばアイルランドやポルトガルも面白い取り組みをしています。どの国も観光名所がたくさんある国ですが、そういう風に、小さな国だけど熱心に取り組んでいる国は、見に行かれると面白いと思います。
また、これから伸びてきそうな国を挙げるなら、まずドイツですね。それから中国。中国では国立の研究機関が、『2050年には再エネ90%を実現できる』と言っています。実際、太陽光も風車も生産量では世界ナンバー1で、原子力だ石炭だと言ってる時代ではなくなってきています。
<安田先生の回答>
黒潮による発電など海洋発電はいい方法だと思います。ただ、今のところそのポテンシャルはまだまだ未知数です。風力や太陽光はこの10~20年でかなり現実的になって、コストもだいぶ下がってきました。一方、黒潮を使った潮流発電は、まだ小規模な実証実験を始めている段階なので、10~20年後ぐらいに花開く技術だと思います。なので、2030~2040年頃には頑張っていただきたいですが、今のところはまだ何とも言えないところです。将来的には主役になり得るとは思います。
でも、実用化されるまで何にもしないというわけにもいきませんので、まずは風力とか太陽光で稼いでおくと。今あるそれらの技術で、1年間に日本全体で必要な電力の7~8倍は得られますが、海から得られるエネルギーというのは膨大なものがあると思われるので、黒潮のパワーが加われば、もっといい状況になるでしょうね。
この技術が実用化されたら、島国で海に囲まれている日本はすごくいい環境ということになります。『日本は狭い島国だから……』というネガティブな話ばかりが出てきますが、実は海に囲まれていることで、とてもよいことが多いんです。海に風車を並べて風で発電し、その下の海では海流で発電することも、将来的には可能になってきます。資源がいっぱい眠っている国なんですね。ただ難しいのは、発電というのは自然のエネルギーをおすそわけしてもらうわけなので、一番必要なのは性能のよさよりも、「壊れないこと」なんです。
そこにはすごく高い技術力が必要なので、これから10年20年、頑張って研究する必要があると思います。まさに次世代のエネルギーということですね。日本では佐賀大学や長崎大学が世界トップクラスの研究を行っていますので、頑張ってほしいと思います。
<安田先生の回答>
実際に発電をしたいというのであれば、太陽光が一番手軽です。屋根の上にソーラーパネルを設置すればできますから。でもやれることは他にもあって、自分で発電するだけじゃなくてもいいんです。例えば、再エネ発電所に出資することです。
例えばデンマークでは『市民風車』や『組合風車』というものが盛んで、企業の風車も「風車株」という形で周辺住民に出資を募らなければならないと法律で決められています。みんなが少しずつお金を出し合って風車を立てて、そこで作られた電力の売上から配当がもらえるんです。そういう風に投資とか出資、寄付といった形で発電に関わることはできます。
こうした出資や投資は日本ではまだあまり一般的ではありませんが、例えばソーラーパネルを家に設置しようとすると、やはりそれなりの費用が必要です。それよりも、再エネを推進している企業などを応援、援助をするという方が手っ取り早い方法です。風車だって、他人のものだったら回転音がうるさく感じられますが、自分が出資して配当につながるとなると、今度は『風車が静かだけど、ちゃんと回ってるのか?』となりますよね(笑)。『マイ風車』になるわけです。
私もデンマークに行った時は風車株を購入した現地の人に風車を見せられて、『これは僕の風車なんだ』と自慢されました。それぐらい風車が市民に身近になってて、うらやましいですね。日本はまだ仕組み作りができてないので、どうしても『風車が立ったらうるさくてけしからん!』という声が大きくなってしまいます。でもゲーム感覚だったり少額の出資だったりというように、もっと楽しめる形で関与の仕方ができればいいなと思います。
あとは、再エネについて検索して調べてみるとか、友達と話をするとか、そういうことからでいいんです。お昼ごはんを食べながら、再エネのこととかSDGsのことについて話してみると。そういうところから関心が生まれて、広がっていくわけですから。そうやって、より多くの人々にとって再エネが身近なものになってほしいと思います。
【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/sdgs/
【安田 陽先生 Twitter】
https://twitter.com/YohYasuda
【ピコ太郎(PIKOTARO)オフィシャルサイト】
https://avex.jp/pikotaro/
【-PIKOTARO OFFICIAL CHANNEL-公式ピコ太郎歌唱ビデオチャンネル】
https://www.youtube.com/channel/UCKpIOnsk-gcwHXIzuk24ExA
【ピコ太郎(PIKOTARO) Twitter】
https://twitter.com/pikotaro_ppap
- WRITTEN BY高崎計三
- 1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。