【この曲作ったの誰?】J-POPヒット作品からウルトラマン、仮面ライダー音楽までをも手掛けるavex所属のクリエイターセクション「Blue Bird's Nest」が目指す音楽制作の未来とは?
avex所属のクリエイター・セクション「Blue Bird's Nest」にはたくさんのクリエイターの方々が関わっています。その中で、ats-(佐藤あつし)さん、清水武仁さん、渡辺徹さんの3人は各々が関わる作品のCD総売り上げ枚数が4000万枚を越えるなど、それぞれがトップクリエイターとして活躍されているのですが、特別な案件に携わる際にats-,清水武仁&渡辺徹として臨む事もあり、過去には浜崎あゆみやAAA、水樹奈々の楽曲、『仮面ライダーエグゼイド』の劇伴BGMや『仮面ライダービルド』の挿入歌など、その実績は多岐に及んでいます。今回、そのチームが手がけたのが『ウルトラマンZ』の新エンディングテーマで畠中祐が歌う「Promise for the future」。3人にそれらの制作秘話をお聞きすると同時に、新たに立ち上がった「Blue Bird's Nest」のサイトについても伺いました!
「ats-,清水武仁&渡辺徹」チーム結成につながったコンセプトとは……
──まずは自己紹介からお願いします。
ats- ats-です。90年代にバンドのボーカルとしてデビュー後、ソロ活動を経てavexでは「HΛL」のキーボーディスト佐藤あつしとしてデビューして、解散後はBlue Bird's Nestのクリエイターとして活動しています。浜崎あゆみさん、ELT、AAAなどの楽曲に関わらせていただいています。
清水 清水武仁です。僕もバンドでギターとしてデビューして、ギターやアレンジで活動した後、プロデュースチーム「HΛL」でクリエイターとして活動しています。基本、このユニットの中で僕がやっているのはプログラミングとか、ギターを弾いたりしています。Blue Bird's Nestには2012年ぐらいからクリエイターとしてお世話になっています。
渡辺 渡辺徹です。主に作曲・編曲をさせていただいています。avexの作曲家になりたくて活動を始めたのですが、avexひと筋で、今年で16年になります。
──この3人でお仕事をされることが多いと思うんですが、そうなった経緯というのは?
清水 『仮面ライダーエグゼイド』の劇伴のお話があった時に、プロデューサーの岩渕(優輝)から「この3人が、個々ではなく一つのユニットとして見える形でやってみたら面白いんじゃないか」という発想があったんですね。3人でやると言っても、よってたかって一つの曲を作るのではなくて個々が作ったりと、いろんなバリエーションが取れるわけです。それぞれが独立したクリエイターなので。もちろん、3人がまとまって一つの曲を作り上げるパターンもありますし。
渡辺 事前に複数のライダーが反目し合いながらも共闘していくという事を聞いていたので僕たち個々でクリエイターとして活動している人間が、ユニットっぽく動くことで番組のコンセプトとも合うんじゃないかというのがきっかけだったんですよね。
ats- 一人一人、個人でやるのもいいんですが、この3人が集まった時の化学反応というか、融合されてどうなるかというのが面白かったのでこれは3人でやると音楽的な刺激が生まれるんじゃないかなという案件があると以後集まるようになっています。
──それぞれ、他のお二人が持つ強み、個性というのはどういうものだと思われていますか?
ats- まず清水さんは、役割的には非常にビューティーなものを作られる方で、美しいものを上乗せしてくれる役割だと感じてます。きらびやかさといったものを表現してくださる方なので、そういうものが必要な時には絶対的に清水さんにお任せしています。渡辺さんは、僕から見ると非常にポップで明るいイメージなんですね。僕自身がダークなもの、ダーティーで重めなものを作りがちなので、お二人の作ってくださる音源のおかげですごく助かってますね。
清水 僕からすると、お二人ともすごく個性を強く持ってらっしゃるんですよ。だから、このユニットで音楽を作る時に、自分の立ち位置を見やすいんですよね。この中で自分の役割というか、できること、やらなきゃいけないことというのがすごく分かりやすいので、僕にとってはすごくやりやすいです。ats-さんはすごくブレない、芯のある音を作られる方で、徹ちゃんはats-さんが言った「ポップ」とか「明るい」というのに近い印象を僕も持ってますね。「ここはこうだよね」ってことに対して、すごく勘のいい音楽を作られる印象というか。
渡辺 ats-さんはやっぱりダークで重くてカッコいい世界観の、攻撃的な音楽が素晴らしいなと思ってます。清水さんは繊細で美しいアレンジだったり旋律だったりを作られる方という印象ですね。
──この個性が揃うと、ヒーローが活躍するような作品の劇伴は作りやすいんでしょうね。
ats- はい。正義だとか悪とかのイメージの音楽を一人で作っていくのはすごく難しいし、一つ間違えると同じような感じというか、正義なのに悪に聞こえたり、悪なのに正義に聞こえたりしがちなんですね。でもこの3人でやるとバッツリ分かれて、正義と悪の対比だったり、寂しさや悲しさ、うれしさといった心情がキレイにまとまるので、本当にやりやすかったですね。
──3人で作られる際は、どのような流れで?
ats- 枠組みは誰かが作ります。誰が、というのは決まってないんですけど。その流れに準じて、「こういう音がほしいです」「こういう風に弾いてほしいです」というリクエストをそれぞれに出し合って作ることが多いですね。そのまとめ役も特に決まっているわけではなくて、その曲調によって得意な人がいるので「●●さんに任せよう」という話になり、その人がまとめるという感じですね。
──劇伴の場合、特に仮面ライダーだと長丁場でもあり、ストーリーも複雑ですよね。それは全編を把握された上でのお仕事なんですか?
ats- たぶん、全編見ていないと分からないですね。ヒーローも敵側もどんどん成長していって、展開が変わっていくので、そのための挿入歌だったり劇伴音楽だったりするわけですよね。だから全体のストーリーを知っていないとできないので、全員でちゃんと見て作りますよ。
──ということは、1シリーズやるにはやはり1年間かかるわけですね。
ats- そうですね。だいたい前半と後半に分かれていることが多くて、台本を全部いただいて「登場人物はこう」「ストーリーの流れはこう」「こういう変身の仕方をします」というのをだいたい把握した上で作っていきました。僕自身はあれほどまで長丁場で関わったのは初めてでしたね。
清水 僕もあそこまで長期間関わった案件というのは、それまでなくて。映画音楽のBGMとかはありましたけどね。
渡辺 僕もそうですね。映像に音楽をつけるという経験はありましたけど、ここまで長い時間をかけて関わったのは初めてでした。
──同じチームで浜崎あゆみさん、AAAなどのアーティスト楽曲を制作されたこともありましたが、やはり全然違いますか?
ats- 全然違いますね。アーティスト楽曲の場合、アーティスト側から「こういう世界観を描きたい」という発注があって、それを踏まえた上で作ることも多いですから。劇伴などの場合は、ある程度こちらから先に「一度、全部出します」という形が多いので、逆と言えば逆ですね。また、挿入歌は挿入歌で違いますからね。そういう意味では勉強になりました。
──挿入歌というのも独特のものがありますよね。オープニングやエンディングともまた違ったもので。
ats- 長いシリーズの中でも転換期に挿入歌が流れることが多いんですよね。だからストーリー的にもすごく重要なんですよ。AXL21の時は作品に合わせて僕らが歌い手をX21から選ばせて頂いたりもしたのですが、お話が大きく転換する時、大きく変わっていくというところの曲を担当させていただいたので、大事な役割をさせていただいたなと思います。
熱い魂溢れる「Promise for the future」
──というところで、今回は同じチームで9月26日からオンエアされる『ウルトラマンZ』の新エンディングテーマ「Promise for the future」を制作されたということですね。ウルトラマンは長く世界中で愛されているコンテンツですが、個人的な関わりという点ではいかがですか?
ats- ウルトラマンシリーズは、小学生になる前から見てましたね。ウルトラマンや怪獣のソフビ人形を集めて遊んでいました。時代的には『ウルトラセブン』から『ウルトラマンレオ』あたりまでが大好きで、かなり熱かったですね。
清水 僕はats-さんと同い年なので、子供の頃は同じように見てました。今、『ウルトラマンZ』をじっくり見てみるとCGなども効果的に使われていて今はこうなってるんだねって驚いたという(笑)。しかしそうやって、子供の頃に見ていた作品に関われるというのはうれしいことですよね。今回の楽曲は、徹ちゃんの作曲なんです。
渡辺 僕は、叔母が『ウルトラマンタロウ』の再放送を録画してくれていて、それを見たのが初「ウルトラマン」体験でした。そのころから主題歌とかにも何となく注目するようになっていて、『ウルトラマンタロウ』の主題歌はわりと歌謡メロな感じなんですけど、音楽クリエイターとして様々なジャンルを手掛けているものの、結局自分が戻ってくる先は歌謡メロが入っているような楽曲なんですね。だから、そういう幼い頃に自然と耳にしていた作品にルーツがあるのかなと思いますね。
──では、今回の「Promise for the future」もそういった要素がベースに?
渡辺 ヒーローものらしく少し歌謡的なテイストを織り交ぜつつ、楽曲の最後にキメフレーズを取り入れたいと思いました。今回だとサビの最後の「ウルトラマンFighting Soul」という箇所ですね。メロディーを6連譜にする事で力強さを表現出来たと思います。僕の楽曲で行くという事になり僕らのプロデューサーと編曲をどうしようかとなった時に、今回の『ウルトラマンZ』は3枚のメダルを使って「ウルトラフュージョン」、いわゆる変身をするんですね。その3枚のメダルにはレジェンド・ウルトラマンたちの能力が宿っていて、その組み合わせでタイプチェンジするんです。そこで「3」というキーワードがあるよというのを彼から聞いて、たまたまその頃、来年春の別の大型案件をこの3人で進めていたので、『ウルトラマンZ』もこの3人でやったらどうだろうという話になったんです。
清水 3枚のメダルが、僕ら3人とリンクしたわけですね(笑)。
──言うまでもないでしょうが、ヒーローものならどれも同じように作ればいいというわけではないですよね。
ats- もちろんです(笑)。いざ音楽を作るとなると、そのヒーローが地上で戦うのか宇宙に飛び出すのかということ、「地上感」と「スペーシー感」は、非常に重要なんですよね。「どこで戦っているのか」とか「サイズはどれぐらいなのか」とか、スピード感、非現実感といったものも含めて、音楽上では非常に重要になってきます。
──今回はウルトラマンゼットの声を担当されている畠中祐さんがボーカルということですね。
清水 畠中さんにはスタジオでもお会いしたね。
ats- ちょうどこの取材の前にも、そんな話をしてたんですよね(笑)。「誰に会えたらうれしいか」という話で、僕の場合は違うジャンルの方とお会いするとすごく高まると言ってたんですね。畠中さんは声優さんで、ウルトラマンゼットの声も担当されているので、お会いした時には「あっ、ウルトラマンの人だ!」ってすごく感動してワクワクしました。
渡辺 今回は畠中さんが歌われるという前提だったので、それもイメージして作りました。Aメロがアレンジ含めてちょっと暗めの世界を表現して、Bメロでは切なさを演出しつつ、サビでドーン!といく、という感じの楽曲を作ろうとざっくり思ってたんですね。それに当たって、畠中さんの力強い声を意識しました。
清水 畠中さん自身、すごくいろんなタイプの楽曲を歌われている方なんですよね。今回はエンディングなんですけど、わりと音像がエンディングにしては派手めで。でも制作側からは「もっと!」っていうリクエストもあったりして。そういう意味では、畠中さんの歌という華があって、我々がそれに合うような装飾をうまく作れたかな、というところですね。
渡辺 僕自身、エンディングということをそこまで大きく意識はしていませんでしたからね。
清水 ats-さんはシンセ・ソロを弾いてるんですよ。
ats- いえいえ、恐縮です(笑)。間奏で強いヒーローをイメージしたシンセ・ソロを弾かせていただいております。アーティストの作品で過去にソロを入れさせて頂いたものとのアプローチの違いもなども聴き比べると面白いかもしれませんね。ミックスも僕らの作品には欠かせないstudio formの森元浩二.さんが担当されていて熱い仕上がりになっています。
渡辺 ヒーローものの楽曲って、普段の僕らの活動からは思いもよらない層に届いていたりするんですよね。AXL21との「Ready Go!!」の時に実感したのですが例えばヒーローショーで流れることで家族で聴いてもらえたり、海外のファンがYouTubeで「自国語で歌ってみた」みたいなことをやるじゃないですか。そういう影響はうれしいですね。
ats- 年齢や国という枠組みを越えて沢山の方に作品を聴いて頂けるのは我々音楽家にとっては最大の喜びですからね。
「Blue Bird's Nest」サイトが目指すものとは?
──さて、皆さんが参加されているBlue Bird's Nestなんですが、クリエイターズオフィスとしてはもうけっこうな活動期間なんですよね?
ats- 今の形になる前、前身の頃から考えると、かなり長いですね。僕が呼んでいただいたのが、HΛL解散から1年後ぐらいで、2003~2004年あたりだったと思います。当時はtearbridge productionという名称でした。そう考えると歴史も長いし、僕としては、スター・クリエイターが過去も現在も多く在籍するというイメージです。
渡辺 先ほどウルトラマンのメダルの話をしましたが、それこそBlue Bird's Nestはレジェンド・メダルの宝庫なんですよ(笑)。ats-さん、清水さんはもちろんですが僕がアマチュアの頃から憧れていた五十嵐充さん、菊池一仁さん、その次の世代ではBOUNCEBACKさんとか……
ats- 星野靖彦さんとかね。
渡辺 そうですね。まさにそういう方たちが、僕にとってはレジェンドですね。
──そして今回、Blue Bird's Nestのサイトが立ち上がったということですね。このサイトの目的、役割というのは?
ats- クリエイターって、一般の方々にはなかなか知られていないというか、曲は知られても、誰が作ったかというのはあまり意識されていないことも多々あるんですよね。だから、それがちゃんとひと目で見られるサイトを作りませんか?という流れから生まれたものです。これでやっと、認識してくださる方も増えてくるのかなと。僕たちからしても、他のクリエイターの方の作品一覧が見られるというのはすごく面白いんですよ。ご本人のことは知ってるけど、これまでどういう作品を作ってこられたんだろう?というのもよくあるので、それが確認できるというのはいちファンとしてもすごくありがたいです。
清水 このサイトって、すごくいろんなところからたどれるので、ありがたいです。リリースの日付なんかも詳しく調べて載せていただいているし、僕自身としては見る側としても本当に役に立ってますね。また、自分の作品を振り返ってみたりもできるし。
ats- アーカイブとしても素晴らしいですよね。
渡辺 各クリエイターの実績をあそこまで網羅したものって、確かに今までなかったですよね。だからすごくありがたいですし、リスナーの皆さんにも便利に使っていただければと思います。また、友人と話していても「あの曲は誰が作った」とかって、そんなに興味を持っている人は少ないんですよ。でも、「君の好きな曲はこれとこれでしょ? 実はその2曲は同じ人が作ってるんだよ」とかって話になったら面白いじゃないですか。そういう点で興味を持ってもらって、サイトをグルグル回ってくれたらいいなと思います。
──「そこまで気にするのはマニアの世界」というイメージもあるので、そこがもっと身近になるといいですよね。
ats- そうなんですよ。みんな、好きな曲なら「誰が作ったのか」というのも気になるはずなんです。でも、検索でただその名前を知るだけだと面白くないですけど、このサイトでそのクリエイターがどういう人かまで見られたら、もっと面白いじゃないですか。その意味でもありがたいですね。
清水 これまではそれぞれが個人商店みたいな色合いが強かったんですよね。それがこのサイトでまとまることによって、これからチームBlue Bird’s Nestは沢山の方達に音楽を届けるぞという我々とスタッフとが一丸になっての決意表明になればいいなということですよね。さっき徹ちゃんが「レジェンド」って言ってましたけど、かつては確かにスター・クリエイターと言われるような人たちがいたんですよ。そういう存在も、また新たに出てくるようになればいいなと思いますよね。
ats- このサイトから「こういう企画をやりますよ」と募集をかけて、まだ音楽を始める前の人たちも参加できたり、プロじゃなくてもいいというような企画を出したりということもできるなという予感がしてますね。
──なるほど。では、これからクリエイターになりたいという方へのお誘いも含めて、メッセージをいただければ。
ats- これから通信が5G、6Gとなっていって、音楽シーンはその後に変わっていくんだろうなと、漠然と思ってたんです。でももうすでに大きく変化してきていて、みんながコンサート会場に行かなくても、スタジアムに行かなくても、お家にいるままで、360度見渡せるようなコンテンツが、すぐにでも出てきそうな時代が来ているんです。だから僕たちも含めてこれからのクリエイターの方たちは、それを作っていく役割があると思うんですが、そういう面白いアイデアをいっぱい持って、いろんな方向にアンテナを張って、それこそ360度見渡して、面白い音楽なり映像なりを作っていくという役割があると思うんです。エンタメはこれから本当に面白くなっていくので、見逃さずにチェックしていてほしいですね。
清水 この先クリエイターとしてやっていきたいという人は、今あるものを追っかけているだけでは、なかなか難しいんだろうなと思ってるんですね。古い言い方ですけど、仕事ってセンスでやるものなんだろうなというのが僕の中の自負にあって、だとしたら「こうであるべき」「こうでなきゃ」みたいな固定観念は、自分で持つものじゃないんじゃないかという気がしてるんですね。だから、クリエイターとしてやっていきたいと思う人は、何かを作りたいというブレない気持ちを根源に持ちつつ、人がやってないこと、こうしたら面白いんじゃないかというアイデアを、臆病にならずに踏み出していくべきなんですよ。それができる人が新しい時代を作っていけるんじゃないかと思うので、皆さん、一緒に頑張りましょう。
渡辺 いろいろなものがものすごいスピードで進歩・進化していってて、これからそのスピードはもっと速くなると思うんですけど、それに置いていかれないようにアンテナを張りつつ、新しいものを常に取り入れて自分自身の音楽性を進化させ、今後も沢山の作品を発表発信できたらと思ってます。同じようにそれがやりたいと思っている人たちにとって、Blue Bird's Nestのサイトも、その手助けの一つになればいいなと思っています。
撮影 長谷英史
Blue Bird's Nest オフィシャルサイト
https://bluebirdsnest.avex.jp/
「ats-,清水武仁&渡辺徹」チーム結成につながったコンセプトとは……
──まずは自己紹介からお願いします。
ats- ats-です。90年代にバンドのボーカルとしてデビュー後、ソロ活動を経てavexでは「HΛL」のキーボーディスト佐藤あつしとしてデビューして、解散後はBlue Bird's Nestのクリエイターとして活動しています。浜崎あゆみさん、ELT、AAAなどの楽曲に関わらせていただいています。
清水 清水武仁です。僕もバンドでギターとしてデビューして、ギターやアレンジで活動した後、プロデュースチーム「HΛL」でクリエイターとして活動しています。基本、このユニットの中で僕がやっているのはプログラミングとか、ギターを弾いたりしています。Blue Bird's Nestには2012年ぐらいからクリエイターとしてお世話になっています。
渡辺 渡辺徹です。主に作曲・編曲をさせていただいています。avexの作曲家になりたくて活動を始めたのですが、avexひと筋で、今年で16年になります。
──この3人でお仕事をされることが多いと思うんですが、そうなった経緯というのは?
清水 『仮面ライダーエグゼイド』の劇伴のお話があった時に、プロデューサーの岩渕(優輝)から「この3人が、個々ではなく一つのユニットとして見える形でやってみたら面白いんじゃないか」という発想があったんですね。3人でやると言っても、よってたかって一つの曲を作るのではなくて個々が作ったりと、いろんなバリエーションが取れるわけです。それぞれが独立したクリエイターなので。もちろん、3人がまとまって一つの曲を作り上げるパターンもありますし。
渡辺 事前に複数のライダーが反目し合いながらも共闘していくという事を聞いていたので僕たち個々でクリエイターとして活動している人間が、ユニットっぽく動くことで番組のコンセプトとも合うんじゃないかというのがきっかけだったんですよね。
ats- 一人一人、個人でやるのもいいんですが、この3人が集まった時の化学反応というか、融合されてどうなるかというのが面白かったのでこれは3人でやると音楽的な刺激が生まれるんじゃないかなという案件があると以後集まるようになっています。
──それぞれ、他のお二人が持つ強み、個性というのはどういうものだと思われていますか?
ats- まず清水さんは、役割的には非常にビューティーなものを作られる方で、美しいものを上乗せしてくれる役割だと感じてます。きらびやかさといったものを表現してくださる方なので、そういうものが必要な時には絶対的に清水さんにお任せしています。渡辺さんは、僕から見ると非常にポップで明るいイメージなんですね。僕自身がダークなもの、ダーティーで重めなものを作りがちなので、お二人の作ってくださる音源のおかげですごく助かってますね。
清水 僕からすると、お二人ともすごく個性を強く持ってらっしゃるんですよ。だから、このユニットで音楽を作る時に、自分の立ち位置を見やすいんですよね。この中で自分の役割というか、できること、やらなきゃいけないことというのがすごく分かりやすいので、僕にとってはすごくやりやすいです。ats-さんはすごくブレない、芯のある音を作られる方で、徹ちゃんはats-さんが言った「ポップ」とか「明るい」というのに近い印象を僕も持ってますね。「ここはこうだよね」ってことに対して、すごく勘のいい音楽を作られる印象というか。
渡辺 ats-さんはやっぱりダークで重くてカッコいい世界観の、攻撃的な音楽が素晴らしいなと思ってます。清水さんは繊細で美しいアレンジだったり旋律だったりを作られる方という印象ですね。
──この個性が揃うと、ヒーローが活躍するような作品の劇伴は作りやすいんでしょうね。
ats- はい。正義だとか悪とかのイメージの音楽を一人で作っていくのはすごく難しいし、一つ間違えると同じような感じというか、正義なのに悪に聞こえたり、悪なのに正義に聞こえたりしがちなんですね。でもこの3人でやるとバッツリ分かれて、正義と悪の対比だったり、寂しさや悲しさ、うれしさといった心情がキレイにまとまるので、本当にやりやすかったですね。
──3人で作られる際は、どのような流れで?
ats- 枠組みは誰かが作ります。誰が、というのは決まってないんですけど。その流れに準じて、「こういう音がほしいです」「こういう風に弾いてほしいです」というリクエストをそれぞれに出し合って作ることが多いですね。そのまとめ役も特に決まっているわけではなくて、その曲調によって得意な人がいるので「●●さんに任せよう」という話になり、その人がまとめるという感じですね。
──劇伴の場合、特に仮面ライダーだと長丁場でもあり、ストーリーも複雑ですよね。それは全編を把握された上でのお仕事なんですか?
ats- たぶん、全編見ていないと分からないですね。ヒーローも敵側もどんどん成長していって、展開が変わっていくので、そのための挿入歌だったり劇伴音楽だったりするわけですよね。だから全体のストーリーを知っていないとできないので、全員でちゃんと見て作りますよ。
──ということは、1シリーズやるにはやはり1年間かかるわけですね。
ats- そうですね。だいたい前半と後半に分かれていることが多くて、台本を全部いただいて「登場人物はこう」「ストーリーの流れはこう」「こういう変身の仕方をします」というのをだいたい把握した上で作っていきました。僕自身はあれほどまで長丁場で関わったのは初めてでしたね。
清水 僕もあそこまで長期間関わった案件というのは、それまでなくて。映画音楽のBGMとかはありましたけどね。
渡辺 僕もそうですね。映像に音楽をつけるという経験はありましたけど、ここまで長い時間をかけて関わったのは初めてでした。
──同じチームで浜崎あゆみさん、AAAなどのアーティスト楽曲を制作されたこともありましたが、やはり全然違いますか?
ats- 全然違いますね。アーティスト楽曲の場合、アーティスト側から「こういう世界観を描きたい」という発注があって、それを踏まえた上で作ることも多いですから。劇伴などの場合は、ある程度こちらから先に「一度、全部出します」という形が多いので、逆と言えば逆ですね。また、挿入歌は挿入歌で違いますからね。そういう意味では勉強になりました。
──挿入歌というのも独特のものがありますよね。オープニングやエンディングともまた違ったもので。
ats- 長いシリーズの中でも転換期に挿入歌が流れることが多いんですよね。だからストーリー的にもすごく重要なんですよ。AXL21の時は作品に合わせて僕らが歌い手をX21から選ばせて頂いたりもしたのですが、お話が大きく転換する時、大きく変わっていくというところの曲を担当させていただいたので、大事な役割をさせていただいたなと思います。
熱い魂溢れる「Promise for the future」
──というところで、今回は同じチームで9月26日からオンエアされる『ウルトラマンZ』の新エンディングテーマ「Promise for the future」を制作されたということですね。ウルトラマンは長く世界中で愛されているコンテンツですが、個人的な関わりという点ではいかがですか?
ats- ウルトラマンシリーズは、小学生になる前から見てましたね。ウルトラマンや怪獣のソフビ人形を集めて遊んでいました。時代的には『ウルトラセブン』から『ウルトラマンレオ』あたりまでが大好きで、かなり熱かったですね。
清水 僕はats-さんと同い年なので、子供の頃は同じように見てました。今、『ウルトラマンZ』をじっくり見てみるとCGなども効果的に使われていて今はこうなってるんだねって驚いたという(笑)。しかしそうやって、子供の頃に見ていた作品に関われるというのはうれしいことですよね。今回の楽曲は、徹ちゃんの作曲なんです。
渡辺 僕は、叔母が『ウルトラマンタロウ』の再放送を録画してくれていて、それを見たのが初「ウルトラマン」体験でした。そのころから主題歌とかにも何となく注目するようになっていて、『ウルトラマンタロウ』の主題歌はわりと歌謡メロな感じなんですけど、音楽クリエイターとして様々なジャンルを手掛けているものの、結局自分が戻ってくる先は歌謡メロが入っているような楽曲なんですね。だから、そういう幼い頃に自然と耳にしていた作品にルーツがあるのかなと思いますね。
──では、今回の「Promise for the future」もそういった要素がベースに?
渡辺 ヒーローものらしく少し歌謡的なテイストを織り交ぜつつ、楽曲の最後にキメフレーズを取り入れたいと思いました。今回だとサビの最後の「ウルトラマンFighting Soul」という箇所ですね。メロディーを6連譜にする事で力強さを表現出来たと思います。僕の楽曲で行くという事になり僕らのプロデューサーと編曲をどうしようかとなった時に、今回の『ウルトラマンZ』は3枚のメダルを使って「ウルトラフュージョン」、いわゆる変身をするんですね。その3枚のメダルにはレジェンド・ウルトラマンたちの能力が宿っていて、その組み合わせでタイプチェンジするんです。そこで「3」というキーワードがあるよというのを彼から聞いて、たまたまその頃、来年春の別の大型案件をこの3人で進めていたので、『ウルトラマンZ』もこの3人でやったらどうだろうという話になったんです。
清水 3枚のメダルが、僕ら3人とリンクしたわけですね(笑)。
──言うまでもないでしょうが、ヒーローものならどれも同じように作ればいいというわけではないですよね。
ats- もちろんです(笑)。いざ音楽を作るとなると、そのヒーローが地上で戦うのか宇宙に飛び出すのかということ、「地上感」と「スペーシー感」は、非常に重要なんですよね。「どこで戦っているのか」とか「サイズはどれぐらいなのか」とか、スピード感、非現実感といったものも含めて、音楽上では非常に重要になってきます。
──今回はウルトラマンゼットの声を担当されている畠中祐さんがボーカルということですね。
清水 畠中さんにはスタジオでもお会いしたね。
ats- ちょうどこの取材の前にも、そんな話をしてたんですよね(笑)。「誰に会えたらうれしいか」という話で、僕の場合は違うジャンルの方とお会いするとすごく高まると言ってたんですね。畠中さんは声優さんで、ウルトラマンゼットの声も担当されているので、お会いした時には「あっ、ウルトラマンの人だ!」ってすごく感動してワクワクしました。
渡辺 今回は畠中さんが歌われるという前提だったので、それもイメージして作りました。Aメロがアレンジ含めてちょっと暗めの世界を表現して、Bメロでは切なさを演出しつつ、サビでドーン!といく、という感じの楽曲を作ろうとざっくり思ってたんですね。それに当たって、畠中さんの力強い声を意識しました。
清水 畠中さん自身、すごくいろんなタイプの楽曲を歌われている方なんですよね。今回はエンディングなんですけど、わりと音像がエンディングにしては派手めで。でも制作側からは「もっと!」っていうリクエストもあったりして。そういう意味では、畠中さんの歌という華があって、我々がそれに合うような装飾をうまく作れたかな、というところですね。
渡辺 僕自身、エンディングということをそこまで大きく意識はしていませんでしたからね。
清水 ats-さんはシンセ・ソロを弾いてるんですよ。
ats- いえいえ、恐縮です(笑)。間奏で強いヒーローをイメージしたシンセ・ソロを弾かせていただいております。アーティストの作品で過去にソロを入れさせて頂いたものとのアプローチの違いもなども聴き比べると面白いかもしれませんね。ミックスも僕らの作品には欠かせないstudio formの森元浩二.さんが担当されていて熱い仕上がりになっています。
渡辺 ヒーローものの楽曲って、普段の僕らの活動からは思いもよらない層に届いていたりするんですよね。AXL21との「Ready Go!!」の時に実感したのですが例えばヒーローショーで流れることで家族で聴いてもらえたり、海外のファンがYouTubeで「自国語で歌ってみた」みたいなことをやるじゃないですか。そういう影響はうれしいですね。
ats- 年齢や国という枠組みを越えて沢山の方に作品を聴いて頂けるのは我々音楽家にとっては最大の喜びですからね。
「Blue Bird's Nest」サイトが目指すものとは?
──さて、皆さんが参加されているBlue Bird's Nestなんですが、クリエイターズオフィスとしてはもうけっこうな活動期間なんですよね?
ats- 今の形になる前、前身の頃から考えると、かなり長いですね。僕が呼んでいただいたのが、HΛL解散から1年後ぐらいで、2003~2004年あたりだったと思います。当時はtearbridge productionという名称でした。そう考えると歴史も長いし、僕としては、スター・クリエイターが過去も現在も多く在籍するというイメージです。
渡辺 先ほどウルトラマンのメダルの話をしましたが、それこそBlue Bird's Nestはレジェンド・メダルの宝庫なんですよ(笑)。ats-さん、清水さんはもちろんですが僕がアマチュアの頃から憧れていた五十嵐充さん、菊池一仁さん、その次の世代ではBOUNCEBACKさんとか……
ats- 星野靖彦さんとかね。
渡辺 そうですね。まさにそういう方たちが、僕にとってはレジェンドですね。
──そして今回、Blue Bird's Nestのサイトが立ち上がったということですね。このサイトの目的、役割というのは?
ats- クリエイターって、一般の方々にはなかなか知られていないというか、曲は知られても、誰が作ったかというのはあまり意識されていないことも多々あるんですよね。だから、それがちゃんとひと目で見られるサイトを作りませんか?という流れから生まれたものです。これでやっと、認識してくださる方も増えてくるのかなと。僕たちからしても、他のクリエイターの方の作品一覧が見られるというのはすごく面白いんですよ。ご本人のことは知ってるけど、これまでどういう作品を作ってこられたんだろう?というのもよくあるので、それが確認できるというのはいちファンとしてもすごくありがたいです。
清水 このサイトって、すごくいろんなところからたどれるので、ありがたいです。リリースの日付なんかも詳しく調べて載せていただいているし、僕自身としては見る側としても本当に役に立ってますね。また、自分の作品を振り返ってみたりもできるし。
ats- アーカイブとしても素晴らしいですよね。
渡辺 各クリエイターの実績をあそこまで網羅したものって、確かに今までなかったですよね。だからすごくありがたいですし、リスナーの皆さんにも便利に使っていただければと思います。また、友人と話していても「あの曲は誰が作った」とかって、そんなに興味を持っている人は少ないんですよ。でも、「君の好きな曲はこれとこれでしょ? 実はその2曲は同じ人が作ってるんだよ」とかって話になったら面白いじゃないですか。そういう点で興味を持ってもらって、サイトをグルグル回ってくれたらいいなと思います。
──「そこまで気にするのはマニアの世界」というイメージもあるので、そこがもっと身近になるといいですよね。
ats- そうなんですよ。みんな、好きな曲なら「誰が作ったのか」というのも気になるはずなんです。でも、検索でただその名前を知るだけだと面白くないですけど、このサイトでそのクリエイターがどういう人かまで見られたら、もっと面白いじゃないですか。その意味でもありがたいですね。
清水 これまではそれぞれが個人商店みたいな色合いが強かったんですよね。それがこのサイトでまとまることによって、これからチームBlue Bird’s Nestは沢山の方達に音楽を届けるぞという我々とスタッフとが一丸になっての決意表明になればいいなということですよね。さっき徹ちゃんが「レジェンド」って言ってましたけど、かつては確かにスター・クリエイターと言われるような人たちがいたんですよ。そういう存在も、また新たに出てくるようになればいいなと思いますよね。
ats- このサイトから「こういう企画をやりますよ」と募集をかけて、まだ音楽を始める前の人たちも参加できたり、プロじゃなくてもいいというような企画を出したりということもできるなという予感がしてますね。
──なるほど。では、これからクリエイターになりたいという方へのお誘いも含めて、メッセージをいただければ。
ats- これから通信が5G、6Gとなっていって、音楽シーンはその後に変わっていくんだろうなと、漠然と思ってたんです。でももうすでに大きく変化してきていて、みんながコンサート会場に行かなくても、スタジアムに行かなくても、お家にいるままで、360度見渡せるようなコンテンツが、すぐにでも出てきそうな時代が来ているんです。だから僕たちも含めてこれからのクリエイターの方たちは、それを作っていく役割があると思うんですが、そういう面白いアイデアをいっぱい持って、いろんな方向にアンテナを張って、それこそ360度見渡して、面白い音楽なり映像なりを作っていくという役割があると思うんです。エンタメはこれから本当に面白くなっていくので、見逃さずにチェックしていてほしいですね。
清水 この先クリエイターとしてやっていきたいという人は、今あるものを追っかけているだけでは、なかなか難しいんだろうなと思ってるんですね。古い言い方ですけど、仕事ってセンスでやるものなんだろうなというのが僕の中の自負にあって、だとしたら「こうであるべき」「こうでなきゃ」みたいな固定観念は、自分で持つものじゃないんじゃないかという気がしてるんですね。だから、クリエイターとしてやっていきたいと思う人は、何かを作りたいというブレない気持ちを根源に持ちつつ、人がやってないこと、こうしたら面白いんじゃないかというアイデアを、臆病にならずに踏み出していくべきなんですよ。それができる人が新しい時代を作っていけるんじゃないかと思うので、皆さん、一緒に頑張りましょう。
渡辺 いろいろなものがものすごいスピードで進歩・進化していってて、これからそのスピードはもっと速くなると思うんですけど、それに置いていかれないようにアンテナを張りつつ、新しいものを常に取り入れて自分自身の音楽性を進化させ、今後も沢山の作品を発表発信できたらと思ってます。同じようにそれがやりたいと思っている人たちにとって、Blue Bird's Nestのサイトも、その手助けの一つになればいいなと思っています。
撮影 長谷英史
Blue Bird's Nest オフィシャルサイト
https://bluebirdsnest.avex.jp/
- WRITTEN BY高崎計三
- 1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。