尿1滴でがんを発見! 画期的ながん検査システム「N-NOSE」とは?
6月27日、エイベックス本社で、ある記者会見が行われました。そこで発表されたのは、合同会社「AVEX & HIROTSU BIO EMPOWER LLC.」と、一般社団法人「Empower Children」の設立について。
合同会社の主な目的は、がんの検診率向上と画期的ながん検査システム「N-NOSE(エヌ・ノーズ)」を普及させ、その存在を広く啓発すること。そして一般社団法人では、小児がんの子供たちとその家族の支援を行っていくといいます。
エンターテインメント企業であるエイベックスが、なぜそのような事業に関わるのでしょうか?
そもそも「N-NOSE」っていったい何?
コラムではちょっとお久しぶりの柏崎桃子さんが自らも子を持つ親である立場から、合同会社代表・保屋松靖人さんにいろいろと伺いました!
きっかけは我が子ががんにかかったこと
柏崎 最初に今回のお話をいただいた時に、「ん? エイベックスさんがどうしてがんに関わる仕事をするの? そういう会社だったっけ?」って思っちゃったんですよ。まだよく分かってないところもあるんですけど(笑)。
保屋松 そうなりますよね(笑)。もともとのきっかけは、個人的なことだったんですが……5年前に、私の息子が小児がんにかかったんです。
柏崎 そうだったんですか。
保屋松 1年半ぐらい入院や通院を重ねて、いろんな意味で負担を強いられました。その時に、病室には同じような境遇の子供たちもいっぱいいることを目の当たりにしたんです。ちょうど同じ病室に、息子と同じぐらいの年齢の白血病の女の子がいたんですが、その子がたまたま当時私が担当していたアーティストのファンで、息子も私の職業を分かっていたので、サインもらってきてくれるように頼んでみるなんて言ったらしくて。そのアーティストも息子のことを知ってくれていたので、公私混同で大変申し訳ないのだけど……「こういう子がいるので、サインにひと言添えてもらえないか」とお願いしたら、快諾してくれました。
白血病は血液のがんですから、抗がん剤治療を施すんですが、これは大人でもかなり体への負担が大きいんです。それまで、その子は抗がん剤治療がイヤでイヤで、常に拒否していたんですが、そのアーティストからのサインに「早くよくなって、僕たちのコンサートを見に来てください」と書いてあったことで、治療を嫌がらなくなったんです。「病気を治してコンサートに行くことが目標になった」と言ってくれました。
柏崎 そんなことがあったんですね。私も子供がいて、幸い命に関わるような病気はせずに大きくなったんですが、親としてよく分かります。
保屋松 私はアーティストのマネージメントに20年以上従事していて、自分の携わっているエンターテインメントを通じて何かできないかという思いがずっとありました。ヒットを作る、人気者を作るということを目的としながらも、その先にあるミッションとして、社会に何かを残せないのかと考えた時に、この経験は大きなヒントになりました。エンターテインメントの存在意義は、こういうところにあるのではないかと。それで、何か形にできないかということで、チャリティコンサートなど、いろんな形を模索していたんです。
息子は幸い退院することができましたが、その後5年間は経過を見て、そこで再発しなければ完治ということになります。その日々の中で、いろいろなご縁があって、生物学者で線虫の研究に長年携わられてきた、広津先生と出会いました。そして、早期にがんを発見できる、「N-NOSE」という技術の存在を知ったんです。「N-NOSE」というのは、線虫を利用してがん患者かそうでないかを見分けることができる、世界初の画期的な生物診断システムなんです。
柏崎 「N-NOSE」……ですか。線虫が、どうやってがん患者を見分けるんですか?
保屋松 実は線虫というのは地球上に1億種類以上いると言われているんですが、そのうちのある種類の線虫は、体長1ミリという小さい身体ながら、犬よりも優れた嗅覚を持っているんです。
柏崎 犬って、人間よりもかなり鼻がいいんですよね? その犬より優れているってすごいですね!
保屋松 そしてその線虫は、がん患者の尿に含まれるがん特有の物質の臭いを好んでいて、がん患者の尿を垂らすと喜んで寄っていくんです。逆にがん患者でない人の尿からは、嫌がって離れていくんですよ。
柏崎 線虫ちゃん、好みがマニアックすぎ(笑)。でも、そのマニアックな好みが役に立つわけですね?
保屋松 その通りです。この線虫の習性を利用することで、たった一滴の尿からがん患者かそうでないかを見分けることができるんですね。しかも、従来のがん検診はステージ3とか4とかの、ある程度進行したがんにしか有効ではなかったんですが、「N-NOSE」ではステージ0~1の初期がんにも有効なんです。
柏崎 じゃあ、がんを早く見つけられるということですね?
保屋松 はい。これは特に小児がんに対して効果が大きくて、私もそうでしたが、まさか子供ががんにかかるなんて普通は思わないですよね。だから検診を受けさせるという習慣もありません。でも、毎年2,000~2,500人の子供ががんと診断されているという現実があります。しかも、そのほとんどが進行して自覚症状が出てから発見されるので、先天異常や事故死などを除けば、がんは子供の死亡原因の第1位になっているんです。
柏崎 そんなに……。それは知りませんでした。
保屋松 今はがんの治療法や薬はどんどん進歩していて、がんでも早期発見さえできれば7割近く完治できるようになってきています。多くの人はがんと聞くと「死」を連想しますが、今や、がんは治る病気になりつつあるんです。その早期発見のために有効なのが「N-NOSE」というわけです。「N-NOSE」は今までになかった、がんの一次スクリーニング検査になりうる、唯一の検査なんです。
すごいことだらけの「N-NOSE」!
柏崎 「N-NOSE」には、他にも利点があるんですか?
保屋松 利点はたくさんあります。まず第一に、簡便だということです。尿1滴で検査できるので、本人の体に負担をかけることが全くありません。現在のがん検査というと、腫瘍マーカーやマンモグラフィ、CTスキャンなどがありますが、どれも半日近く拘束されますよね。
柏崎 しかも、マンモグラフィは痛いんですよね! あれはどうにかならないかって、いつも思うんですけど!
保屋松 腫瘍マーカーも血液検査ですから、注射器で血を抜かないといけない。CTスキャンはごく微量とはいえ放射能を浴びることになりますから、そうそうしょっちゅうできるものでもない。そう考えると、「N-NOSE」の簡便さが分かると思います。
次に、安価であるということです。線虫は飼育コストがほとんどかかりませんから、原価がかからない分、検査料も安く抑えることができます。現在のガン検査は胃とか肺とか、部位ごとに検査しなければならないので、手間も費用もかかりますよね。全部調べようと思ったら、数万円から数十万円かかってしまいます。ですが「N-NOSE」では一度の検査で全身の18種類のがんに対応しているので、実用化されれば数千円で受けることができるようになるんです。
柏崎 いいところだらけじゃないですか!
保屋松 それだけじゃありません(笑)。一番の利点は、高性能だということです。従来の検査では、ステージ0~2の早期がんを発見できる確率は約28%。高い費用と手間をかけて病院で検査を受けても、7割以上はがんが見つからないまま進行してしまうんです。それが、日本でがん検査の受診率が上がらない理由の一つではないかと思っています。
しかし「N-NOSE」では、まだ臨床試験の段階ではありますが、約1000近い症例において、がんの早期発見の感度および特異度が約90%と極めて高精度であることが、最新の臨床研究の結果より示されています。この検知率の高さが、「N-NOSE」の最大の強みですね。
柏崎 線虫ちゃん、すごすぎる!(笑) それを発見した広津先生もすごいですね!
保屋松 先生がもし、がんを専門に研究されていたら、ここには辿り着いていなかったのではないか思います。20年以上線虫の研究をされていたんですが、「がん探知犬」という、がんの臭いをかぎ分ける犬の存在からヒントを得て、「犬にがんの臭いが分かるんだったら、もっと優れた嗅覚を持つ線虫にも同じことができるんじゃないか」という仮説から、この研究に入られたんです。
機械による検査だと、高精度に見分けられるようにするためには、どんどん機械に設備投資をしていかなければなりませんでした。そうなると、性能も上がるけど検査料も高くなってしまう。でも「N-NOSE」は、生物がもともと持っている力を利用した技術です。がん探知犬も生物ですが、犬を何十万頭も飼育するのは現実的ではないですよね。でも線虫なら、たくさん増やすことが比較的手軽にできる上に、コストもかからないんです。
柏崎 でも、そんなことを世間に発表したら、みんなそのへんから線虫ちゃんを捕まえてきて、オシッコをかけちゃうのでは?
保屋松 線虫なら何でもいいというわけではありません。前にも言ったように地球上には約1億種以上の線虫がいますが、その中でもある特定の種類の線虫を、特定の環境と特定の条件の下に置かないと、こういう動きにはならないんです。そこが、広津先生が長年、線虫のことだけを研究してきた成果ということで、すでにその技術は特許も取得しています。
実用化は2020年初頭。2025年には日本人の半分が受けられる!?
柏崎 もう、すぐにでも受けたいです! どこに行けば受けられるんですか?
保屋松 実用化には、もう少し時間がかかる予定です。今は、「N-NOSE」の解析センターが全国に4個所あります。そこでは、研究員が手作業でがん患者の尿検体に線虫をかけ合わせて、その動きを見て判断しています。ですから現状では、年間に一人の検査員が検査した場合、約750検体しか対応できません。
これを効率化するには、自動化しなければなりません。そこで4年前に日立製作所と実用化に向けての研究合意をしていて、昨年に試作機が、そしてつい最近、より高速化・効率化した2号機が完成しました。これによって、1台当たり年間2万5000検体に対応できる予定です。2020年1月にはこれが10台ほど出来上がって、全国の解析センターに設置される予定ですので、その年には25万人の人が検査を受けられる計算になります。当然、検査を受けたいという人はどんどん増えることが予想されるので、2年目以降は解析センターの場所と機械の台数を増やして、5年目になる2025年には全国で6,000万人が受けられるようにしようという計画で進めています。
柏崎 日本の人口の半分が受けられるということですね。それは待ち遠しいです! 私は去年、とても大切な友達をがんで亡くしているんです。もっと早く見つかっていれば、もしかしたら助かったんじゃないかと、今でも毎日思います……(涙で声を詰まらせる)。早く広まって、がんで苦しむ方が減るようになるといいなと思います。
保屋松 少しでも早くこの機械を完成させようと、今、多くの人たちのご協力を得て動いているところです。そのためには資金も必要で、今回発足した合同会社「AVEX & HIROTSU BIO EMPOWER LLC.」では、その資本金を集める営業活動も行っています。うまくいけば、実用化が早まる可能性もあるかもしれません。そういった部分でも、私たちがお手伝いできればと思っています。さらに、「N-NOSE」の素晴らしさも世界中に広げていきたいと思っています。
柏崎 そうなると、もっと多くの人に「N-NOSE」のことを知ってもらう必要がありますね。
保屋松 おっしゃる通りです。そこに、エイベックスが関わる意義があると思っています。今回、一般社団法人「Empower Children」も同時に設立したのですが、こちらは小児がんの子供たちとその家族の金銭的支援や社会的支援を行うことを目的としていて、「小児がん」啓発のためのチャリティコンサートを開催したり、賛同してくれるアーティストが医療施設に訪問したりということも考えています。今も国を挙げてがん検診の啓発活動を行っていますが、国内においてはなかなか検診率が上がっていないのが現状です。そこもエンターテインメントの力を通じて、変えていければと思っているんです。
柏崎 「N-NOSE」という素晴らしい技術が、アーティストさんが間に入ることで、より広がっていきそうですね。ただ検査の良さをアピールするだけでは、若者はなかなか食いつかないかもしれないし、「自分はがんになんかならない」と思っている人が大多数でしょう。でも、アーティストさんが広めてくれることで、「あの人がやるんだったら私も」とか「友達にも教えてあげよう」となって、爆発的に広がるかもしれないですよね。そうなれば、アーティストさんもうれしいはずですよ。
保屋松 海外と比べて、日本のエンターテインメント業界はよくも悪くも「芸能界」という大きな枠の中で、アーティストが自分の意思だけで寄付やボランティアなどのチャリティ活動を積極的に行うことが難しい仕組みになっていると個人的に感じています。私も震災や災害の時に、アーティストから「義援金を集めて届けたい」という声をもらっていたんですが、やはり色々なところに確認を取りながら進めなくてはならないため、どうしてもスピードが遅くなってしまう。そのたびに、もどかしさを感じることが多々ありました。アーティストがもっとレスポンスよく積極的にチャリティー活動などに参加できる環境も、この活動を通じて、作っていけたらなと思っています。
柏崎 ライブ会場の入口とかで検査の手続きができるようになればいいですね。
保屋松 そうですね。それから、献血車のように「N-NOSE」の解析機を載せた車を用意して、全国の小中学校を回るキャラバンのようなことができたらとも思っています。N-NOSEのような素晴らしい技術をより多くの人々に届けるためには、同じ想いを持って「これを広めたい」と賛同してくれる人々と共に、連携を取りながら様々なやり方で働きかけていかないと、と思っています。幸い、エイベックス・グループには、様々な強みやリソースがありますで、まずはそこから協力を仰ぎたいなと思っています。理想としては……私は新卒採用の面接を担当することもあるのですが、10年~15年先に、「自分は小児がんだったんですが、御社の活動で救われました。だから御社で働いて恩返しをしたいんです」という志望動機を語る学生さんが現れたりしたら、それこそ本当にこの会社やエンターテイメントの存在意義になると思うんです。そういうところを目指して、取り組んでいけたらいいなと思っています。
柏崎 本当のエンターテインメントのあり方って、「誰かを喜ばせたい」というのが基本ですからね。私にも何かできることがあったら、ぜひ協力させていただきたいです!
【AVEX & HIROTSU BIO EMPOWER LLC.】
http://avex-hirotsubio.jp/
【一般社団法人 Empower Children】
http://empower-children.jp/
【柏崎桃子(ももち) オフィシャルブログ】
http://ameblo.jp/19790731-lover/
【柏崎桃子(ももち) 公式Twitter】
https://twitter.com/EzwebPink
合同会社の主な目的は、がんの検診率向上と画期的ながん検査システム「N-NOSE(エヌ・ノーズ)」を普及させ、その存在を広く啓発すること。そして一般社団法人では、小児がんの子供たちとその家族の支援を行っていくといいます。
エンターテインメント企業であるエイベックスが、なぜそのような事業に関わるのでしょうか?
そもそも「N-NOSE」っていったい何?
コラムではちょっとお久しぶりの柏崎桃子さんが自らも子を持つ親である立場から、合同会社代表・保屋松靖人さんにいろいろと伺いました!
きっかけは我が子ががんにかかったこと
柏崎 最初に今回のお話をいただいた時に、「ん? エイベックスさんがどうしてがんに関わる仕事をするの? そういう会社だったっけ?」って思っちゃったんですよ。まだよく分かってないところもあるんですけど(笑)。
保屋松 そうなりますよね(笑)。もともとのきっかけは、個人的なことだったんですが……5年前に、私の息子が小児がんにかかったんです。
柏崎 そうだったんですか。
保屋松 1年半ぐらい入院や通院を重ねて、いろんな意味で負担を強いられました。その時に、病室には同じような境遇の子供たちもいっぱいいることを目の当たりにしたんです。ちょうど同じ病室に、息子と同じぐらいの年齢の白血病の女の子がいたんですが、その子がたまたま当時私が担当していたアーティストのファンで、息子も私の職業を分かっていたので、サインもらってきてくれるように頼んでみるなんて言ったらしくて。そのアーティストも息子のことを知ってくれていたので、公私混同で大変申し訳ないのだけど……「こういう子がいるので、サインにひと言添えてもらえないか」とお願いしたら、快諾してくれました。
白血病は血液のがんですから、抗がん剤治療を施すんですが、これは大人でもかなり体への負担が大きいんです。それまで、その子は抗がん剤治療がイヤでイヤで、常に拒否していたんですが、そのアーティストからのサインに「早くよくなって、僕たちのコンサートを見に来てください」と書いてあったことで、治療を嫌がらなくなったんです。「病気を治してコンサートに行くことが目標になった」と言ってくれました。
柏崎 そんなことがあったんですね。私も子供がいて、幸い命に関わるような病気はせずに大きくなったんですが、親としてよく分かります。
保屋松 私はアーティストのマネージメントに20年以上従事していて、自分の携わっているエンターテインメントを通じて何かできないかという思いがずっとありました。ヒットを作る、人気者を作るということを目的としながらも、その先にあるミッションとして、社会に何かを残せないのかと考えた時に、この経験は大きなヒントになりました。エンターテインメントの存在意義は、こういうところにあるのではないかと。それで、何か形にできないかということで、チャリティコンサートなど、いろんな形を模索していたんです。
息子は幸い退院することができましたが、その後5年間は経過を見て、そこで再発しなければ完治ということになります。その日々の中で、いろいろなご縁があって、生物学者で線虫の研究に長年携わられてきた、広津先生と出会いました。そして、早期にがんを発見できる、「N-NOSE」という技術の存在を知ったんです。「N-NOSE」というのは、線虫を利用してがん患者かそうでないかを見分けることができる、世界初の画期的な生物診断システムなんです。
柏崎 「N-NOSE」……ですか。線虫が、どうやってがん患者を見分けるんですか?
保屋松 実は線虫というのは地球上に1億種類以上いると言われているんですが、そのうちのある種類の線虫は、体長1ミリという小さい身体ながら、犬よりも優れた嗅覚を持っているんです。
柏崎 犬って、人間よりもかなり鼻がいいんですよね? その犬より優れているってすごいですね!
保屋松 そしてその線虫は、がん患者の尿に含まれるがん特有の物質の臭いを好んでいて、がん患者の尿を垂らすと喜んで寄っていくんです。逆にがん患者でない人の尿からは、嫌がって離れていくんですよ。
柏崎 線虫ちゃん、好みがマニアックすぎ(笑)。でも、そのマニアックな好みが役に立つわけですね?
保屋松 その通りです。この線虫の習性を利用することで、たった一滴の尿からがん患者かそうでないかを見分けることができるんですね。しかも、従来のがん検診はステージ3とか4とかの、ある程度進行したがんにしか有効ではなかったんですが、「N-NOSE」ではステージ0~1の初期がんにも有効なんです。
柏崎 じゃあ、がんを早く見つけられるということですね?
保屋松 はい。これは特に小児がんに対して効果が大きくて、私もそうでしたが、まさか子供ががんにかかるなんて普通は思わないですよね。だから検診を受けさせるという習慣もありません。でも、毎年2,000~2,500人の子供ががんと診断されているという現実があります。しかも、そのほとんどが進行して自覚症状が出てから発見されるので、先天異常や事故死などを除けば、がんは子供の死亡原因の第1位になっているんです。
柏崎 そんなに……。それは知りませんでした。
保屋松 今はがんの治療法や薬はどんどん進歩していて、がんでも早期発見さえできれば7割近く完治できるようになってきています。多くの人はがんと聞くと「死」を連想しますが、今や、がんは治る病気になりつつあるんです。その早期発見のために有効なのが「N-NOSE」というわけです。「N-NOSE」は今までになかった、がんの一次スクリーニング検査になりうる、唯一の検査なんです。
すごいことだらけの「N-NOSE」!
柏崎 「N-NOSE」には、他にも利点があるんですか?
保屋松 利点はたくさんあります。まず第一に、簡便だということです。尿1滴で検査できるので、本人の体に負担をかけることが全くありません。現在のがん検査というと、腫瘍マーカーやマンモグラフィ、CTスキャンなどがありますが、どれも半日近く拘束されますよね。
柏崎 しかも、マンモグラフィは痛いんですよね! あれはどうにかならないかって、いつも思うんですけど!
保屋松 腫瘍マーカーも血液検査ですから、注射器で血を抜かないといけない。CTスキャンはごく微量とはいえ放射能を浴びることになりますから、そうそうしょっちゅうできるものでもない。そう考えると、「N-NOSE」の簡便さが分かると思います。
次に、安価であるということです。線虫は飼育コストがほとんどかかりませんから、原価がかからない分、検査料も安く抑えることができます。現在のガン検査は胃とか肺とか、部位ごとに検査しなければならないので、手間も費用もかかりますよね。全部調べようと思ったら、数万円から数十万円かかってしまいます。ですが「N-NOSE」では一度の検査で全身の18種類のがんに対応しているので、実用化されれば数千円で受けることができるようになるんです。
柏崎 いいところだらけじゃないですか!
保屋松 それだけじゃありません(笑)。一番の利点は、高性能だということです。従来の検査では、ステージ0~2の早期がんを発見できる確率は約28%。高い費用と手間をかけて病院で検査を受けても、7割以上はがんが見つからないまま進行してしまうんです。それが、日本でがん検査の受診率が上がらない理由の一つではないかと思っています。
しかし「N-NOSE」では、まだ臨床試験の段階ではありますが、約1000近い症例において、がんの早期発見の感度および特異度が約90%と極めて高精度であることが、最新の臨床研究の結果より示されています。この検知率の高さが、「N-NOSE」の最大の強みですね。
柏崎 線虫ちゃん、すごすぎる!(笑) それを発見した広津先生もすごいですね!
保屋松 先生がもし、がんを専門に研究されていたら、ここには辿り着いていなかったのではないか思います。20年以上線虫の研究をされていたんですが、「がん探知犬」という、がんの臭いをかぎ分ける犬の存在からヒントを得て、「犬にがんの臭いが分かるんだったら、もっと優れた嗅覚を持つ線虫にも同じことができるんじゃないか」という仮説から、この研究に入られたんです。
機械による検査だと、高精度に見分けられるようにするためには、どんどん機械に設備投資をしていかなければなりませんでした。そうなると、性能も上がるけど検査料も高くなってしまう。でも「N-NOSE」は、生物がもともと持っている力を利用した技術です。がん探知犬も生物ですが、犬を何十万頭も飼育するのは現実的ではないですよね。でも線虫なら、たくさん増やすことが比較的手軽にできる上に、コストもかからないんです。
柏崎 でも、そんなことを世間に発表したら、みんなそのへんから線虫ちゃんを捕まえてきて、オシッコをかけちゃうのでは?
保屋松 線虫なら何でもいいというわけではありません。前にも言ったように地球上には約1億種以上の線虫がいますが、その中でもある特定の種類の線虫を、特定の環境と特定の条件の下に置かないと、こういう動きにはならないんです。そこが、広津先生が長年、線虫のことだけを研究してきた成果ということで、すでにその技術は特許も取得しています。
実用化は2020年初頭。2025年には日本人の半分が受けられる!?
柏崎 もう、すぐにでも受けたいです! どこに行けば受けられるんですか?
保屋松 実用化には、もう少し時間がかかる予定です。今は、「N-NOSE」の解析センターが全国に4個所あります。そこでは、研究員が手作業でがん患者の尿検体に線虫をかけ合わせて、その動きを見て判断しています。ですから現状では、年間に一人の検査員が検査した場合、約750検体しか対応できません。
これを効率化するには、自動化しなければなりません。そこで4年前に日立製作所と実用化に向けての研究合意をしていて、昨年に試作機が、そしてつい最近、より高速化・効率化した2号機が完成しました。これによって、1台当たり年間2万5000検体に対応できる予定です。2020年1月にはこれが10台ほど出来上がって、全国の解析センターに設置される予定ですので、その年には25万人の人が検査を受けられる計算になります。当然、検査を受けたいという人はどんどん増えることが予想されるので、2年目以降は解析センターの場所と機械の台数を増やして、5年目になる2025年には全国で6,000万人が受けられるようにしようという計画で進めています。
柏崎 日本の人口の半分が受けられるということですね。それは待ち遠しいです! 私は去年、とても大切な友達をがんで亡くしているんです。もっと早く見つかっていれば、もしかしたら助かったんじゃないかと、今でも毎日思います……(涙で声を詰まらせる)。早く広まって、がんで苦しむ方が減るようになるといいなと思います。
保屋松 少しでも早くこの機械を完成させようと、今、多くの人たちのご協力を得て動いているところです。そのためには資金も必要で、今回発足した合同会社「AVEX & HIROTSU BIO EMPOWER LLC.」では、その資本金を集める営業活動も行っています。うまくいけば、実用化が早まる可能性もあるかもしれません。そういった部分でも、私たちがお手伝いできればと思っています。さらに、「N-NOSE」の素晴らしさも世界中に広げていきたいと思っています。
柏崎 そうなると、もっと多くの人に「N-NOSE」のことを知ってもらう必要がありますね。
保屋松 おっしゃる通りです。そこに、エイベックスが関わる意義があると思っています。今回、一般社団法人「Empower Children」も同時に設立したのですが、こちらは小児がんの子供たちとその家族の金銭的支援や社会的支援を行うことを目的としていて、「小児がん」啓発のためのチャリティコンサートを開催したり、賛同してくれるアーティストが医療施設に訪問したりということも考えています。今も国を挙げてがん検診の啓発活動を行っていますが、国内においてはなかなか検診率が上がっていないのが現状です。そこもエンターテインメントの力を通じて、変えていければと思っているんです。
柏崎 「N-NOSE」という素晴らしい技術が、アーティストさんが間に入ることで、より広がっていきそうですね。ただ検査の良さをアピールするだけでは、若者はなかなか食いつかないかもしれないし、「自分はがんになんかならない」と思っている人が大多数でしょう。でも、アーティストさんが広めてくれることで、「あの人がやるんだったら私も」とか「友達にも教えてあげよう」となって、爆発的に広がるかもしれないですよね。そうなれば、アーティストさんもうれしいはずですよ。
保屋松 海外と比べて、日本のエンターテインメント業界はよくも悪くも「芸能界」という大きな枠の中で、アーティストが自分の意思だけで寄付やボランティアなどのチャリティ活動を積極的に行うことが難しい仕組みになっていると個人的に感じています。私も震災や災害の時に、アーティストから「義援金を集めて届けたい」という声をもらっていたんですが、やはり色々なところに確認を取りながら進めなくてはならないため、どうしてもスピードが遅くなってしまう。そのたびに、もどかしさを感じることが多々ありました。アーティストがもっとレスポンスよく積極的にチャリティー活動などに参加できる環境も、この活動を通じて、作っていけたらなと思っています。
柏崎 ライブ会場の入口とかで検査の手続きができるようになればいいですね。
保屋松 そうですね。それから、献血車のように「N-NOSE」の解析機を載せた車を用意して、全国の小中学校を回るキャラバンのようなことができたらとも思っています。N-NOSEのような素晴らしい技術をより多くの人々に届けるためには、同じ想いを持って「これを広めたい」と賛同してくれる人々と共に、連携を取りながら様々なやり方で働きかけていかないと、と思っています。幸い、エイベックス・グループには、様々な強みやリソースがありますで、まずはそこから協力を仰ぎたいなと思っています。理想としては……私は新卒採用の面接を担当することもあるのですが、10年~15年先に、「自分は小児がんだったんですが、御社の活動で救われました。だから御社で働いて恩返しをしたいんです」という志望動機を語る学生さんが現れたりしたら、それこそ本当にこの会社やエンターテイメントの存在意義になると思うんです。そういうところを目指して、取り組んでいけたらいいなと思っています。
柏崎 本当のエンターテインメントのあり方って、「誰かを喜ばせたい」というのが基本ですからね。私にも何かできることがあったら、ぜひ協力させていただきたいです!
【AVEX & HIROTSU BIO EMPOWER LLC.】
http://avex-hirotsubio.jp/
【一般社団法人 Empower Children】
http://empower-children.jp/
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- WRITTEN BY高崎計三
- 1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。