2022年古希を迎え、そして現在も闘病を続ける坂本龍一。特設サイト「10 Favorites - Ryuichi Sakamoto | 私が好きな坂本龍一10選」にて、教授の音楽を愛する人々が独自の視点で1人10作品を紹介している。 第20回目は、藤原帰一氏による10選を公開。
2022.11.01
坂本龍一

今年の1月17日に70歳の誕生日、古希を迎えた坂本龍一。
現在も闘病を続ける坂本龍一を励ます意味で、レーベルcommmonsがアニバーサリー・サイトを立ち上げた。
タイトルは「10 Favorites - Ryuichi Sakamoto | 私が好きな坂本龍一10選」。教授の音楽を愛する人々が独自の視点で1人10作品を紹介する。
第20回目は、千葉大学特任教授 藤原帰一氏の登場。
「自分が生きている時代に新しい発見のある芸術が発表されるという喜び、その喜びを与えていただいた方として第一に挙げたいのが坂本龍一さんです。『千のナイフ』からずっと聞き続けてきたなんていうとなんだか自慢みたいですが、坂本さんと同じ時代を生きることができて幸せでした。」「坂本龍一さんは数多くの映画に作曲してきました。私はその映画を見て生きてきました。監督や俳優には失礼になりますが、そのなかには坂本さんの曲を聴きたいから見た作品もあります。」(抜粋)
熱いメッセージとともに、本日10選が公開された。
また現在は、大竹伸朗氏、稲垣吾郎氏、吉本ばなな氏、高谷史郎氏、高橋幸宏氏、浅田彰氏、水原希子氏、細野晴臣氏、中里唯馬氏、村上龍氏、LEO氏、UA氏、福岡伸一氏、U-zhaan氏、李 相日氏、池田亮司氏、藤原ヒロシ氏、若林恵氏、渡辺信一郎氏の選曲がメッセージとともに公開されている。
坂本龍一の音楽を愛する人々が選曲する「~私が好きな坂本龍一10選~」。
独自の視点から選ばれた作品群。それは新発見となり、新たな坂本龍一の音楽の旅へ誘う。
*特設サイト「10 Favorites - Ryuichi Sakamoto | 私が好きな坂本龍一10選」
URL: https://www.commmons.com/10favorites/
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Photo by zakkubalan ©2020 Kab Inc.
参考メモ:藤原帰一さんのメッセージ全文
「芸術って過去のもの、昔つくられた作品を追いかけるだけだという思い込みを持っていました。そんな古いのじゃダメだ、いまの時代の表現が必要なんだなんて気持ちが強く、そのために中学高校ではそれまで馴染んでいたクラシックに背を向けて、ロックばっかり聴いてました。ところが好きなロックを頭の中で転がすと、クラシックのバリエーションだったことに気づいてしまい、がっかりする。今を表現することなんて可能なんだろうかといつも疑っていました。
でも、同時代のアート、やっぱりあるんですね。自分が生きている時代に新しい発見のある芸術が発表されるという喜び、その喜びを与えていただいた方として第一に挙げたいのが坂本龍一さんです。『千のナイフ』からずっと聞き続けてきたなんていうとなんだか自慢みたいですが、坂本さんと同じ時代を生きることができて幸せでした。
とはいえ、私は音楽の素人です。ベストテンを選ぶなんて無理だ、講釈できる知識なんて持っていないという恐れでいっぱいなんですが、やってみましょう。
私が映画好きなため、坂本さんの数多い作品の中で、取り上げた多くは映画音楽です。これはどうにも面倒な分野でして、バーナード・ハーマンがかつて喝破したように、映画にどうして音楽が必要なのか、説明できる人はいない。ヒッチコックやオーソン・ウェルズの作品に作曲したハーマンがそう言うんですね。
監督のなかにはそんなのなくてもいいじゃないかと考える人もいます。自分の映画から音楽を排除する人も少なくありません。ところがそこが不思議なところでして、音楽なしの映画は、画面のつなぎが荒っぽく見える一方、感情移入の手がかりがなくて、見ているのが苦しい。はい、ヒッチコックの『鳥』だってそうでした。効果音だけの映画なので怖いことは怖いけど、出てくる人に感情移入ができないんです。
そこに音楽を加えると、映像をつないだだけの表現に、エモーション、感情の地形が生まれてくる。ぶつ切りだけの食材にソースを加えることによって、食べておいしいお料理ができると言えばいいでしょうか。
ここ、微妙なところでして、観客に泣かせるために弦楽が高鳴ったり、怖がらせるために不協和音を叩きつけたりすれば、エモーションを観客に強制することになってしまいます。観客も、そんな操作には容易に乗ってきません。また、エモーションを引き起こすなんて音楽の邪道だとさえ言えるでしょう。
それでも、エモーションなしに映画は成り立ちません。さらに言えば、映画音楽は現代音楽の主要なジャンルでもあります。プロコフィエフからフィリップ・グラスに至るまで、現代音楽の作曲家は映画音楽を作曲してきました。ニーノ・ロータのように、重要な作曲家でありながら映画音楽によって知られる人もいます。
なぜ映画に作曲するのか。そこにはお金になるからという理由があるのかも知れませんが、それだけじゃないでしょう。多くの聴衆に作品を届ける場として、映画音楽は重要だったんです。だって、ジョン・アダムズの作品をコンサートホールで聴く人ってどれほどいるでしょうか。
ただ、映画は監督の作品、また出演した俳優の作品として語られることはあっても作曲家の作品として語られることは少ない。いつ音楽が作曲されるかも大きなポイントでして、なかには脚本ができた段階から作曲家が作業を始めることもありますが、多くの場合、撮影が終わり、ラッシュができて、その映像に合わせて作曲される。でも、編集の終わったファイナルカットがラッシュと違うことはむしろ一般的ですし、せっかく作曲した場面が切られてしまうことさえあるでしょう。チームワークだからと言えばそれまでですが、作曲した側から見れば酷い仕打ちですね。労多くして功少ない作業かも知れません。
坂本龍一さんは数多くの映画に作曲してきました。私はその映画を見て生きてきました。監督や俳優には失礼になりますが、そのなかには坂本さんの曲を聴きたいから見た作品もあります。映画音楽を中心に坂本さんの軌跡を振り返ってみましょう。」