手塚治虫のダークな世界観を荻田浩一が美しくハードに描出したミュージカル『アラバスター』。公演アーカイブ配信・実況版CD販売が決定!
2022.07.14

人間の深い闇を描いた手塚治虫の異色作「アラバスター」。幼い頃からこの原作に心惹かれていた演出家・荻田浩一が舞台化したミュージカル『アラバスター』が、7月10日(日)に梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで大千穐楽を迎えた。6月25日(土)~7月3日(日)に行われた東京芸術劇場プレイハウスでの公演を経て、1日限りの大阪公演にエネルギーをぶつけ、役として生き抜いた実力派キャストたち。その夜の大千穐楽公演の模様を、スペシャルカーテンコールを含めリポートする。なお、今作の実況版CDの販売と、7月25日(月)~7月31日(日)の舞台配信も決定したのでぜひ注目してほしい。
「アラバスター」は手塚治虫自身が“嫌悪する作品”として挙げているほど、ダークな色合いが濃いSF犯罪サスペンス(1970年~1971年に「週刊少年チャンピオン」で連載)。一方で、江戸川乱歩作品のグロテスクな世界観や、手塚氏の傑作「ブラック・ジャック」を想起させるニヒルなキャラクター像など底知れぬ魅力があり、今の時代の多様な価値観や問題を浮き彫りにする鋭さも秘めている。
タイトルの「アラバスター」は、黒衣の下に半透明の体を隠し、無差別なテロを繰り返す男のことを指す。復讐心から美しいものへの憎悪を募らせる、異形の怪人を演じるのは、ミュージカル経験豊富なLE VELVETSの宮原浩暢。地鳴りのように響く、太く低い歌声や、血管が浮き出た肌に眼がギラリと光る不気味な表情はまさに悪魔のよう。特にヒロイン・亜美への執着を見せる終盤の演技には、抑えきれない熱情と、引き返すことのできない人間の業と哀しさが溢れていた。
アラバスターとはまた違う意味で、サイコパスな悪のキャラクターが登場するのが、この作品の奥深いところ。自らの美しさに陶酔する究極のナルシストで、「醜いやつを始末すればスッキリする」と捜査官らしからぬ信条を持つロック・ホーム。矢田悠祐が説得力ある美貌を生かし、激しいナンバーもしっかりものにしながら振り切って演じた。
そして眼球以外は透明という、生まれながらに哀しい宿命を背負ったヒロインの亜美は、アニメ「るろうに剣心」(緋村剣心役)の声優などを務め、多彩な声色や傑出した歌唱力を持つ元宝塚歌劇団月組トップスターの涼風真世が、声のみで演じ切った。少女の細やかな心情を息遣いにまで感じさせる表現力と、歌声から見えてくる切ない表情や怒り。純真無垢な亜美が物語の流れによって複雑に変化していく様も、まるでそこに姿が見えるかのように感じ取れた。
さらに「亜美の影」役として、穴沢裕介がコンテンポラリーダンスを取り入れた繊細な動きで彼女の感情を紡ぎ、ピンスポットやボード、映像なども使った多層的な演出で亜美の存在を描写する。この荻田浩一の演劇的なチャレンジはとても興味深く、亜美はもちろん、彼女に関わる全てのキャストたちが亜美を抱きしめたり、触れたりする細やかな芝居をすることで、観ている側の想像力を無限に広げ、異次元の世界へとつれていってくれた。
また11名という少数精鋭のキャストたちが、その歌唱力を駆使して奥村健介が生み出すダイナミックなオリジナル楽曲を次々と歌い上げ、そこで芝居が積み重なっていくのも圧巻。パワフルなロックから、心を癒すような優しいバラードまで、何度も味わいたくなる旋律に、歪んだ愛や憎悪をはらんだ荻田の深遠な歌詞がピタリと合わさり、快感さえ覚えた。
大千穐楽では、ゲン役の古屋敬多(Lead)、亜美の義母・小沢ひろみ役のAKANE LIV、亜美の義理の兄・小沢力仁役の馬場良馬など、それぞれの想いのベクトルが一層強まってぶつかり合い、舞台上に“熱”が充満しているようだった。さらに何役も担う、治田敦、田村雄一、遠藤瑠美子、岩橋大という頼もしいキャストたちのエネルギッシュな歌声と演技が加わり、「真の美しさとは何か」という命題がしっかりと胸に刻まれた。
大千穐楽にはスペシャルカーテンコールが行われ、ここでも姿を現さず“透明”に徹した涼風真世など11名のキャストが、感謝の気持ちを伝えた。宮原浩暢は感極まって涙を見せるなど、それぞれの想いが溢れる時間となった。(下記、キャストコメント)
岩橋 大(男・ウェイター役)
「このご時世のなか、東京公演から全公演完走できたことが嬉しく、ホッとしております。稽古場で顔合わせをしてから今日まであっという間で、本当に寂しいです。稽古も本番も挑戦挑戦の日々で、貴重な充実した時間を過ごすことができました。このカンパニーと、『アラバスター』という作品とはしばしのお別れですが、また再会できると信じ、これからも精進してまいりたいと思います。」
穴沢裕介(亜美の影役)
「大好きなメンバーが誰一人欠けることなく、ここに立っていることを本当に幸せに思います。ご覧の通り目隠し、女装、コンテンポラリーダンスという新しいジャンルにトライさせていただきました。視界は……前髪を下ろしてそのまま歩いているぐらいと思ってください。ダンス的には自分の身体しか頼れない瞬間、目で結構バランスをとっているんだなと思う瞬間があって、ダンサーとして新しい扉を開けたかなと。この経験を糧に次の作品に向けて頑張っていきたいと思います。」
遠藤瑠美子(八橋令子・亜美の母・モデル・ウェイトレス役)
「今はただただ寂しいです。『こんなに穏やかな人が集まる!?』というぐらい、カンパニーの雰囲気がとても平和で、なのにこの作品の内容というコントラストが本当に面白い毎日でした。演出の荻田さんがあったかい大きな愛でカンパニーを包んでくださり、スタッフさんたちが安全に健康に進めていけるよう注意を払ってくださいました。たくさんのスタッフと役者が集まって作った作品を、その日お越しのお客様と同じ場所で共有するのがやはり演劇の醍醐味で、それをできたことが幸せでした。」
田村雄一(刑事・神父・弁護士・警備員役)
「僕は千葉県出身ですが、学生時代は大阪芸術大学で過ごし、実はここ、シアター・ドラマシティが初舞台です。授業の一環で、シェイクスピア作品を学生だけで作り上げたことを、ここに立つといつも思い出します。今日は大千穐楽ということで、皆さんすごい気迫。宮原さんはじめ、袖でも話しにくいほど集中していました。『パワーを全部出し切ってやろう!』みたいなところに、学生時代の勢いを思い出し、やっぱり芝居っていいな、楽しいなと思いました。ぜひ再演があると嬉しいです。」
治田 敦(老人・老刑事役)
「いろんな作品に出させていただいていますが、こんな簡単な衣装は初めてで(笑)、これをベースに鬘をかぶったり、いろいろ羽織ったりと(早替えが)大変でしたが、なかなか楽しい作品でした。私は劇団四季出身ですがここだけの話、大阪が大好きで吉本(興行)に行きたかった。吉本の“ダブルテンポ”というテクニックに惹かれまして。ダブルテンポとは、例えば馬場ちゃんがいつの間にか殺人鬼か何かに変わっていたら、「おぉ!」と2回見るというやつです。私今回の演技で、登場したときダブルテンポを使っているんですよ。これからも芝居を続け、技を身につけ、皆さまに楽しんでいただきたいと思います。」
AKANE LIV(小沢ひろみ役)
「小沢ひろみは亜美の生みの親ではないですが、育ての親で『亜美を生んだ!』という気持ちで演じていたので、明日から亜美の声を聞けないと思うと本当に寂しくて……。千穐楽で演じながら、こんなに寂しいなと感じるのが久々で、そういう作品に出会えて幸せだなと思っています。この作品を荻田先生が本当に愛していて、稽古場からその愛をすごく感じ、私も2カ月でこんなにこの作品を好きになるとは思わなかったぐらい魅了され、クセになっています。皆さまも同じだと思うのですが、CDも配信もありますので、ぜひ何度もこの作品を楽しんでいただけたらと思います。」
馬場良馬(小沢力仁役)
「このご時世こうやって幕が開き、千穐楽で挨拶できることは役者冥利に尽きます。何よりたくさんのお客様に観ていただけて嬉しく思います。僕自身あまりミュージカルをやったことがなく、皆さんに迷惑をかけたり苦労をしたのですが、荻田先生の愛も含め、キャストの皆さんの愛が深く、優しさに満ち溢れていて、なんとか千穐楽まで力仁として演じることができました。今日楽屋で『イカ焼きの差し入れがある!』と騒いでいるのを見たとき、『あぁ、この座組って素敵だな!まだまだこの座組で公演やりたいな!』と。『アラバスター』はちょっとまがまがしい世界観ですが、再演があったら美味しいものをみんなで食べながら、それを活力に全国公演ができたらと思います。応援のほどよろしくお願いします!」
矢田悠祐(ロック・ホーム役)
「まずは千穐楽を無事に迎えることができ、僕は大阪出身なので大阪公演をすることができ、とても嬉しいです。まさかこんな悪魔みたいな人間で帰ってくるとは思わなかったですが(笑)。 悪意の塊みたいな人間をやっていたら、作品が終わったときには“すごく清らかな人間になっているのじゃないか説”を東京公演で唱えたんですけど、今仏のような気持ちです。こんな悪意の塊を演じて、デトックスされました。CDが発売されるので、僕のとんでもない歌詞で歌っている曲もありますし、それを聴いて皆さんもデトックスしていただければ、そして楽しんでいただければなと思います。」
古屋敬多(ゲン役)
「本日は誠にありがとうございました。本当にこのカンパニーが大好きになり、いい人たちに囲まれて幸せを感じる毎日でした。スタッフの方もすごく心配りをしてくださり、感謝しております。お客様の毎日の拍手、『その音はやっぱりいいな~!』と、そのたびに幸せを感じておりました。そして、亜美を毎日愛せて幸せでした。これは僕が10年ぐらいやっているのですが、幸せをひと言で表すこと(ポーズと掛け声)がありまして、最後皆さんもぜひご一緒に。ハピネ~ス!」
宮原浩暢(アラバスター役)
「本当にいいカンパニーで、とても支えてもらいました。稽古場から僕の中で気負いや焦りもあったのですが、みんなの居方がとても穏やかで協力的で、この作品がどんどん良くなっていくのを感じました。この仲間と一緒に作品を作れて良かったなと思います。『アラバスター』という作品は、ヒロインが透明人間、アラバスターも半透明という、奇々怪々な作品ではありますが、温かい仲間と素晴らしい演出家、ご尽力いただいたスタッフ関係者の方々、そして東京初日から大阪大千穐楽までお越しいただいたお客様、皆さんのおかげで無事に今日を迎えることができました。またいつか出会える日が来るかもしれません。その日まで心の中に刻んでいただけたら、これ以上幸せなことはありません。本日は誠にありがとうございました。」
涼風真世(亜美役)
「ミュージカル『アラバスター』大千穐楽、ご観劇誠にありがとうございました。コロナ禍の公演、制作スタッフの皆さまのおかげで無事に終わることができました。この作品、どのような舞台になるのか期待と不安のなか、的確に導いてくださった演出の荻田さん、大好きです! 音楽の奥村さん、大好きです! 共演者の皆さま、大好きです! 公演スタッフの皆さま、ミュージシャンの皆さま、本当にありがとうございます。今日で終わってしまう、叶うなら『時間よ、止まれ!』と心が叫んでいます。亜美として生きた時間、忘れません。本当にありがとうございました。そして毎日ご観劇いただきましたお客様、大大大大大好きです! ハピネ~ス!」
最後はバンドメンバーも並んで挨拶し、たった4人であのサウンドを生み出していたことに驚かされる。そして観客がスタンディングオベーションで応えるなか、熱い舞台の幕が下りた。「美と醜」の定義を覆すような斬新な手塚治虫の原作に、細かな工夫を凝らした荻田浩一の演出が冴え、何度もループしたくなる本作。実況版CDは7月15日(金)~7月31日(日)まで受付予定。ミュージカル『アラバスター』本編の配信は、7月25日(月)18:00~7月31日(日)22:00まで行われる。詳細は公式ホームページへ。
取材・文/小野寺亜紀
■ミュージカル「アラバスター」配信詳細
・販売期間:7月15日(金)頃より受付開始予定です。
・配信期間:7月25日(月)18:00~7月31日(日)22:00
・チケット代:4,800円(税込)
・配信プラットフォーム:Z-aN https://www.zan-live.com/
※販売の詳細は、後日ミュージカル『アラバスター』の公式HPならびにTwitterにてお知らせいたします。
※チケットプレイガイドにてご購入いただいたシリアルコードを指定のページにご入力(認証)後、視聴ボタンを押下してから24時間見放題でご視聴いただけます。
※紛失等によるシリアルコード再発行や変更、返金等の対応は出来かねます。
■ミュージカル「アラバスター」実況版CD販売情報(完全受注生産)
・価格:8300円(税込/送料込)+プロダクションノート付
・受注販売期間:公式HPにて7月15日(金)頃~7月31日(日)予定
※受付開始日は改めてミュージカル「アラバスター」公式HPならびにTwitterにてお知らせいたします。
・商品発送:2022年9月中に発送予定
【ミュージカル「アラバスター」公式サイト/公式ツイッター】
公式サイト: http://musical-alabaster.com/
公式Twitter:@mu_alabaster