Acid Black Cherry
4th ALBUM 『L—エルー』全曲ストーリーライナーノーツ
2015.07.31
Acid Black Cherryの楽曲は、単体でも力強い魅力を放っているのはもちろんだが、アルバムの中に収録され、1曲1曲がコンセプトストーリーとリンクしていくことで、単体で聴いたときとは、まったく別の表情に変化するというのも大きな特徴である。
ここでは、通常の全曲紹介ではなく、ストーリーブック『L-エル-』のストーリーに沿って、全曲を紹介していこうと思う。
① Round & Round」
『L-エル-』を一つの映画に例えるとするならば、間違いなくこの楽曲は映画の序章。主人公であるエルの幼馴染みでもあるオヴェスが、エルを想う場面からこの物語は始まっていく。
間奏の泣きのギターソロは、往年のハード・ロックを思わすモノ。ゆったりと進んでいく混沌とした重く厚みのあるロックは、バンド歴約20年のyasuの実力を物語る深みであると言える。
②「liar or LIAR?」
波乱の人生の幕開けを思わす激情的なロックナンバー。
愛を求めるエル。ただ愛してほしいと願うエル。
「liar or LIAR?」は、そんなエルの心情を描いた葛藤を思わす1曲。
アルバムをラウドでロックな印象に牽引している硬派な1曲と言える。
③「エストエム」
楽曲としては、まさに、これぞyasu節な1曲。
『L-エル-』を引っさげての全国ツアーでも、やはり1番の人気曲となったこの曲は、激しく畳み掛けられるAメロのタイトなロック感と、ハードさを活かしたメロディアスなサビが魅力。サビはyasuならではの絶対的な個性を感じる譜割で構成されている。
エルの出逢った一つの愛の形を描いた1曲。身体の痛みこそが真実の愛と感じることや、暴力の後に見せられる相手の究極の優しさや弱さを真実の愛だと思い込んでしまう恋愛心理が見事に描かれた歌詞にも注目してもらいたい。
④「君がいない、あの日から…」
この楽曲は、2011年の3月11日に起こった東日本大震災を思って作られた18枚目のシングル曲。
しかし。アルバムでは、エルが居なくなった街でエルを想うオヴェスの心情を唄った曲として伝わってくる1曲でもある。
この楽曲が作られたときは、『L-エル-』のストーリーはまだ存在していなかったが、アルバムの中に収録されたこの楽曲は、このストーリーを予期していたかのように、見事にストーリーの中に溶け込んでいる。
⑤「L-エル-」
イントロを置かず、ギターの音色に乗せた、“エル、おはよう”という問いかけを唄い出しとするこの楽曲は、アルバムのコンセプトストーリーを作るずっと以前からあった曲。ゆえに、エルという名前も、もともとはエルの物語とは関係なく、〝愛する人〟という意味合いを含ませた“LOVE”の“L”を抜き取った記号的なものだったというが、まさに、この曲があったからこそ、今回のコンセプトアルバム『Lーエルー』が誕生したといっても過言ではない重要な楽曲である。歌詞の内容は、愛する人との運命的な出会いに感謝し、愛する人と一生添い遂げようとする男の想いを綴ったモノ。アルバムの中では、エルを純粋に思い続け、真っ直ぐな愛を傾けるオヴェスの純粋な愛の形と、精神的な幸せが満ち溢れたオヴェス目線の楽曲として置かれているが、yasu曰く、歌詞中の“エル”の部分は、自分の愛する人の名前に置き換えて歌ってもらえたら嬉しいとのこと。
優しく、柔らかな音色で届けられるこの楽曲は、ロックというジャンルを超えた、出逢えた奇跡と幸せを唄った胸を打つ1曲だ。
⑥「Greed Greed Greed」
この曲は、2013年8月7日にリリースされた16枚目のシングル曲。
ベースのスラップ(ベースの弦を強く弾く奏法)を前面に押出した楽曲を作りたいという本人の意向から生まれた楽曲であったが、アルバムでは前曲「L-エル-」の穏やかな流れを打ち砕き、大きく場面を切り換えていく。
“ありきたりでいい、普通の愛が欲しい——”と願うエルに襲いかかる“愛の痛み”が、バンドサウンドを構成するそれぞれの楽器の激しい主張と個性のぶつかり合いによって、見事に表現されている1曲でもある。
⑦「7colors」
yasuの中で“禁断のリズム”であったという、Acid Black Cherryには珍しい跳ね感あるポップな1曲。
オヴェスが初めて恋をした、無邪気に笑い、キラキラとした光を放つエルのイメージを想像することが出来る楽曲だ。
⑧「~Le Chat Noir~」
わずか20秒ほどのインストゥルメンタル。グランドキャバレーを思わすライヴ空間をパッケージしたこのインストは、物語を「黒猫~Adult Black Cat~」の世界観へと繋げる、色濃い繋曲。
聴き手を、より深く物語りの中に誘い込み、物語の中の空気や匂いや体温までもを、実にリアルに想像させる役割りを担っている。
⑨「黒猫~Adult Black Cat~」
2013年11月20日にリリースされた17枚目のシングル曲。
華やかなホーンがバンドサウンドと絶妙なセッションを生み出す、大人なシャッフルナンバーだ。そして、この曲のもう一つの魅力として注目すべきは歌詞である。デビューシングル「SPELL MAGIC」の6年後を描いたような、遊び心溢れる内容は、ファンならば必ずニヤッとするポイントだろう。「SPELL MAGIC」で、男に弄ばれ、傷つき、捨てられた主人公の女性が、6年後に発売されたシングル「黒猫~Adult Black Cat~」 では、誰もが振り返るいい女に成長し、その変貌した姿で男を見返す、という痛快な内容になっているのだ。もちろん、そこを知らずしても充分楽しめる楽曲であるが、そこを知って聴くことによって楽しみが倍増するという、サブカルチャー的な魅力がこの楽曲には仕組まれているといえる。
また、今作は、特にアルバムver.としてアレンジを変えておらず、シングルのときと歌詞もサウンドも一緒であるのに、ストーリーブックの中では、エルの重要な分岐点を描くシーンの楽曲として、新たな息吹を吹き込まれた作品となっているのも特徴的だ。
⑩「versus G」
ディープなギターの刻みがアクセントとなったヘヴィ・ロック。
この曲もまた、メロディに乗る歌詞の譜割がyasuならではの個性を感じる天才的なハマりを魅せる。
Adult Black Catでの思いがけない出逢いに、求めていた“愛”を見つけようとするエル。しかし、そんなエルの願いはまたしても音を立てて崩れ落ちていく。そんな激動の人生をサウンド化したかのような激しく攻め立てられる1曲。
⑪「眠れぬ夜」
Acid Black Cherryの一つの基軸と言っても過言ではない、歌謡曲要素をふんだんに含んだ邦楽ロック。
切なさを駆り立てられるマイナーでメロウなギターフレーズを軸としたドラマティックな曲構成は、yasuが得意とするところ。
“幸せ過ぎることを怖く想う”という哲学的な恋愛心理は、物語の中で描かれている、エルが出逢ったごくごく普通の小さな幸せを、エルがどれほど大切にしていたかを思わせるモノ。“傷つきたくないから愛さない”という歌詞は、yasuが歌詞としてよく用いる“逆説”を描いた裏腹な感情である。
この「眠れぬ夜」は、曲調的に別れ唄のような暗さと温度感を持つ楽曲であるが、切なくも深い愛を感じさせられる究極のラヴソングだと言える。
⑫「INCUBUS」
2014年10月22日にリリースされた19枚目のシングル曲。
yasuのルーツを感じる、アラビア音階を用いた妖しげな雰囲気を漂わせるヘヴィ・ロックだ。愛することに疲れた女性が、投げやりに夢魔(INCUBUS)に愛を求める様が描かれた歌詞は、Acid Black Cherryというプロジェクトのコンセプトの原点である、人間の隠しきれない本能(エロ)が赤裸々に描かれたモノだと言えるだろう。
シングル曲ではあるが、アルバム曲としてのこの曲の役割りは、やっと掴んだエルの小さなの幸せが、悪夢のような一瞬の出来事により奪い去られていくという物語の場面を見事に演出。幸せを奪われたエルの悲しみと、投げやりな怒りを感じる1曲となって生まれ変わっているのが、実に印象的である。
⑬「Loves」
唯一、ストーリーが出来上がってから作られたという、お話の最後を締めくくる優しい1曲。
オヴェスがエルに向けて問いかける唄い出しから始まるこの曲は、物語のすべてを振り返るモノ。出逢い・涙・愛・奇跡——。エルと同じ時代に生まれた奇跡を幸せに想うと唄われるオヴェスの言葉に対し、途中、エルの言葉として唄われる歌詞が被せられていくのだが、そこでは、このアルバムを通して伝えたかった【何をしてもらったか、ではなく、何をしてあげたか】というyasuからのメッセージが、柔らかな曲調と共にじんわりと心に染み渡る。
⑭「& you」
1曲目の「Round & Round」が映画の序章なら、鮮やかな音色で構成された広がりのある楽曲「& you」はまさにこの映画のエンディングロール的な位置にある曲といえる。
Writer 武市尚子
ここでは、通常の全曲紹介ではなく、ストーリーブック『L-エル-』のストーリーに沿って、全曲を紹介していこうと思う。
① Round & Round」
『L-エル-』を一つの映画に例えるとするならば、間違いなくこの楽曲は映画の序章。主人公であるエルの幼馴染みでもあるオヴェスが、エルを想う場面からこの物語は始まっていく。
間奏の泣きのギターソロは、往年のハード・ロックを思わすモノ。ゆったりと進んでいく混沌とした重く厚みのあるロックは、バンド歴約20年のyasuの実力を物語る深みであると言える。
②「liar or LIAR?」
波乱の人生の幕開けを思わす激情的なロックナンバー。
愛を求めるエル。ただ愛してほしいと願うエル。
「liar or LIAR?」は、そんなエルの心情を描いた葛藤を思わす1曲。
アルバムをラウドでロックな印象に牽引している硬派な1曲と言える。
③「エストエム」
楽曲としては、まさに、これぞyasu節な1曲。
『L-エル-』を引っさげての全国ツアーでも、やはり1番の人気曲となったこの曲は、激しく畳み掛けられるAメロのタイトなロック感と、ハードさを活かしたメロディアスなサビが魅力。サビはyasuならではの絶対的な個性を感じる譜割で構成されている。
エルの出逢った一つの愛の形を描いた1曲。身体の痛みこそが真実の愛と感じることや、暴力の後に見せられる相手の究極の優しさや弱さを真実の愛だと思い込んでしまう恋愛心理が見事に描かれた歌詞にも注目してもらいたい。
④「君がいない、あの日から…」
この楽曲は、2011年の3月11日に起こった東日本大震災を思って作られた18枚目のシングル曲。
しかし。アルバムでは、エルが居なくなった街でエルを想うオヴェスの心情を唄った曲として伝わってくる1曲でもある。
この楽曲が作られたときは、『L-エル-』のストーリーはまだ存在していなかったが、アルバムの中に収録されたこの楽曲は、このストーリーを予期していたかのように、見事にストーリーの中に溶け込んでいる。
⑤「L-エル-」
イントロを置かず、ギターの音色に乗せた、“エル、おはよう”という問いかけを唄い出しとするこの楽曲は、アルバムのコンセプトストーリーを作るずっと以前からあった曲。ゆえに、エルという名前も、もともとはエルの物語とは関係なく、〝愛する人〟という意味合いを含ませた“LOVE”の“L”を抜き取った記号的なものだったというが、まさに、この曲があったからこそ、今回のコンセプトアルバム『Lーエルー』が誕生したといっても過言ではない重要な楽曲である。歌詞の内容は、愛する人との運命的な出会いに感謝し、愛する人と一生添い遂げようとする男の想いを綴ったモノ。アルバムの中では、エルを純粋に思い続け、真っ直ぐな愛を傾けるオヴェスの純粋な愛の形と、精神的な幸せが満ち溢れたオヴェス目線の楽曲として置かれているが、yasu曰く、歌詞中の“エル”の部分は、自分の愛する人の名前に置き換えて歌ってもらえたら嬉しいとのこと。
優しく、柔らかな音色で届けられるこの楽曲は、ロックというジャンルを超えた、出逢えた奇跡と幸せを唄った胸を打つ1曲だ。
⑥「Greed Greed Greed」
この曲は、2013年8月7日にリリースされた16枚目のシングル曲。
ベースのスラップ(ベースの弦を強く弾く奏法)を前面に押出した楽曲を作りたいという本人の意向から生まれた楽曲であったが、アルバムでは前曲「L-エル-」の穏やかな流れを打ち砕き、大きく場面を切り換えていく。
“ありきたりでいい、普通の愛が欲しい——”と願うエルに襲いかかる“愛の痛み”が、バンドサウンドを構成するそれぞれの楽器の激しい主張と個性のぶつかり合いによって、見事に表現されている1曲でもある。
⑦「7colors」
yasuの中で“禁断のリズム”であったという、Acid Black Cherryには珍しい跳ね感あるポップな1曲。
オヴェスが初めて恋をした、無邪気に笑い、キラキラとした光を放つエルのイメージを想像することが出来る楽曲だ。
⑧「~Le Chat Noir~」
わずか20秒ほどのインストゥルメンタル。グランドキャバレーを思わすライヴ空間をパッケージしたこのインストは、物語を「黒猫~Adult Black Cat~」の世界観へと繋げる、色濃い繋曲。
聴き手を、より深く物語りの中に誘い込み、物語の中の空気や匂いや体温までもを、実にリアルに想像させる役割りを担っている。
⑨「黒猫~Adult Black Cat~」
2013年11月20日にリリースされた17枚目のシングル曲。
華やかなホーンがバンドサウンドと絶妙なセッションを生み出す、大人なシャッフルナンバーだ。そして、この曲のもう一つの魅力として注目すべきは歌詞である。デビューシングル「SPELL MAGIC」の6年後を描いたような、遊び心溢れる内容は、ファンならば必ずニヤッとするポイントだろう。「SPELL MAGIC」で、男に弄ばれ、傷つき、捨てられた主人公の女性が、6年後に発売されたシングル「黒猫~Adult Black Cat~」 では、誰もが振り返るいい女に成長し、その変貌した姿で男を見返す、という痛快な内容になっているのだ。もちろん、そこを知らずしても充分楽しめる楽曲であるが、そこを知って聴くことによって楽しみが倍増するという、サブカルチャー的な魅力がこの楽曲には仕組まれているといえる。
また、今作は、特にアルバムver.としてアレンジを変えておらず、シングルのときと歌詞もサウンドも一緒であるのに、ストーリーブックの中では、エルの重要な分岐点を描くシーンの楽曲として、新たな息吹を吹き込まれた作品となっているのも特徴的だ。
⑩「versus G」
ディープなギターの刻みがアクセントとなったヘヴィ・ロック。
この曲もまた、メロディに乗る歌詞の譜割がyasuならではの個性を感じる天才的なハマりを魅せる。
Adult Black Catでの思いがけない出逢いに、求めていた“愛”を見つけようとするエル。しかし、そんなエルの願いはまたしても音を立てて崩れ落ちていく。そんな激動の人生をサウンド化したかのような激しく攻め立てられる1曲。
⑪「眠れぬ夜」
Acid Black Cherryの一つの基軸と言っても過言ではない、歌謡曲要素をふんだんに含んだ邦楽ロック。
切なさを駆り立てられるマイナーでメロウなギターフレーズを軸としたドラマティックな曲構成は、yasuが得意とするところ。
“幸せ過ぎることを怖く想う”という哲学的な恋愛心理は、物語の中で描かれている、エルが出逢ったごくごく普通の小さな幸せを、エルがどれほど大切にしていたかを思わせるモノ。“傷つきたくないから愛さない”という歌詞は、yasuが歌詞としてよく用いる“逆説”を描いた裏腹な感情である。
この「眠れぬ夜」は、曲調的に別れ唄のような暗さと温度感を持つ楽曲であるが、切なくも深い愛を感じさせられる究極のラヴソングだと言える。
⑫「INCUBUS」
2014年10月22日にリリースされた19枚目のシングル曲。
yasuのルーツを感じる、アラビア音階を用いた妖しげな雰囲気を漂わせるヘヴィ・ロックだ。愛することに疲れた女性が、投げやりに夢魔(INCUBUS)に愛を求める様が描かれた歌詞は、Acid Black Cherryというプロジェクトのコンセプトの原点である、人間の隠しきれない本能(エロ)が赤裸々に描かれたモノだと言えるだろう。
シングル曲ではあるが、アルバム曲としてのこの曲の役割りは、やっと掴んだエルの小さなの幸せが、悪夢のような一瞬の出来事により奪い去られていくという物語の場面を見事に演出。幸せを奪われたエルの悲しみと、投げやりな怒りを感じる1曲となって生まれ変わっているのが、実に印象的である。
⑬「Loves」
唯一、ストーリーが出来上がってから作られたという、お話の最後を締めくくる優しい1曲。
オヴェスがエルに向けて問いかける唄い出しから始まるこの曲は、物語のすべてを振り返るモノ。出逢い・涙・愛・奇跡——。エルと同じ時代に生まれた奇跡を幸せに想うと唄われるオヴェスの言葉に対し、途中、エルの言葉として唄われる歌詞が被せられていくのだが、そこでは、このアルバムを通して伝えたかった【何をしてもらったか、ではなく、何をしてあげたか】というyasuからのメッセージが、柔らかな曲調と共にじんわりと心に染み渡る。
⑭「& you」
1曲目の「Round & Round」が映画の序章なら、鮮やかな音色で構成された広がりのある楽曲「& you」はまさにこの映画のエンディングロール的な位置にある曲といえる。
Writer 武市尚子