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井上紗矢香

ドラマ主題歌でデビュー!シンガーソングライター井上紗矢香インタビュー【伊藤千晃、キスマイ等に作詞提供】

2020.08.07
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ドラマ
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インタビュー
7月15日にスタートしたドラマパラビ「ふろがーる!」(テレビ東京ほか)。桜井日奈子さん主演のこのドラマの主題歌「無重力飛行士」は、これがメジャーデビューとなる井上紗矢香さんが歌っています。エイベックスのシンガー発掘オーディション「声だけオーディション」をきっかけに、昨年からは福岡から東京に拠点を移して活動している彼女に、これまでの経歴や「無重力飛行士」のこと、曲作りについてなどを伺いました!


絢香さんのドラマ主題歌を聴いて決意。「音楽を仕事にしたい!」



──地元の福岡にいた頃は、書道と空手をされていたと伺いました。どちらもガッチリ集中が必要なものだと思いますが……。
 
井上 書道は小学校の頃に地元の教室に通っていた程度なんですよ。空手の方は小学校の時に3年ぐらいやっていて、一度やめたんですが、やっぱりもう一回やりたいなという後悔が残ったので、高校で3年間やりました。
 
──そういう日々の中で、歌や音楽とはどう出会ったんですか?
 
井上 歌もそうですが、もともと言葉とか本が好きでした。それで中2のときに「絶対彼氏 ~完全無欠の恋人ロボット~」というドラマを見ていて、その主題歌が絢香さんの「おかえり」という曲だったんです。それまで音楽を「仕事」として捉えたことはなかったんですけど、その曲を聴いた瞬間に「あ、音楽を仕事にできたらいいな」と思って。そこからの熱が今も続いてる感じですね。
 
──そこからどんな変化がありましたか?
 
井上 それまでも、好きな言葉を書き溜めたりはしていたんですが、それを「歌詞の断片」として書くようになりました。今思えば形にはなってなかったんですけど。それと、家で歌ったりもし始めてはいたんですが、先ほどお話ししたように空手があまりにも心残りで、それを消化しないことにはスッキリと音楽の道に進めないなと思ったので、高校では空手をしっかりやって、それから音楽の専門学校に入りました。
 
──音楽の道を志して、その手前に空手が立ちはだかっているという人も珍しいと思います(笑)。
 
井上 そうですね(笑)。小学生時代、空手をやめたときに「頑張ってない自分」になった気がしたのが一番つらかったんです。「あのときもっと空手をやっておけばよかった」と思いながら音楽をできるだろうか……と思って、今ひとつスッキリしなかったので。
 
──高校で空手をやり切ってから専門学校に入ったわけですね。入学時点でのビジョンというのは?
 
井上 同期の中では、音楽と言ってもいろんな道を目指す人たちがいたんですね。「私は音楽の先生になりたい」とか「地元でずっと歌っていきたい」とか。私は最初に憧れたのが絢香さんであり、ドラマの主題歌だったので、どうしてもそこを目指したいと思っていました。
 
──専門学校で学びながら、個人での活動も始めたわけですね。
 
井上 ライブ活動などはその頃に始めました。弾き語りとか、バンドで歌ってた時期もあって。自分で作った曲を歌っていたんですが、その頃は歌詞も曲もまだ拙くて、例えば自分の曲を自分で選んで聴きたいかって言われるとそうじゃないよな……って思うような出来のものもありました。でも今は普通に自分の曲を好きになれるようになりました。
 
──そこからエイベックスのシンガー発掘オーディション「声だけオーディション」をきっかけに育成契約となって現在につながるわけですが、夢に一歩一歩近づいているという実感はありましたか?
 
井上 うーん……どっちもですね。自分のことだから現実なんですけど、出会っていく人たちがすごく素晴らしい人たちで環境に恵まれていくから、「私の人生にもこういうことって起こるんだ!」と思うこともあり……夢と現実が混在してる感じでしたね。
 
──育成契約となってからも、しばらくは福岡で活動されてたんですよね。その頃はどんな活動を?
 
井上 ライブバーみたいなところで歌ったり、地元の「FM八女」というFM局で月に一度コーナーを持たせてもらったり。それが縁で、地元のお祭りとかのイベントに出させてもらったりしてました。
 
──昨年、上京して東京に拠点を移されたんですよね。大きな決断でしたか?

 

井上 もちろん今の時代って、地元でも活動できると言えばできますよね。だから「東京に行く意味なんてない」って言う人も周りにはたくさんいたんですけど、単純に行ってみたくて(笑)。以前は、行かざるを得ない状況になって行くのが一番」と思ってたんですが、そこそこ年齢も重ねてきて、行きたいという気持ちも募ってくるし、「このままずっと、フワッとした何かを待ち続けているだけだったら、行くタイミングを逃すのでは?」と思って、上京に気持ちが振り切れた感じですね。
 
──「東京でやっていけるんだろうか」という不安などは?
 
井上 専門学校を卒業した時点ではフリーターをやりながら音楽活動をしていたので、そのときの方が不安は大きかったですね。「バイトって、食べていけるのかな?」と思ってたんですが、メッチャ働けば食べてはいけるということは分かりました(笑)。そういう意味ではどこでも一緒なので、「上京して、もしどうにもならなくなったら、メッチャ働く」と決めて(笑)、東京に来ました。
 
──どうにもならなくなったときに、「地元に帰る」ではなかったんですね。

井上 ああ……今、その選択肢があることを思い出しました(笑)。
 
──それだけ前のめりだったんですね(笑)。
 
井上 どうでしょう……でも自分の人生の中で「後悔しないように」という思いがものすごくあって、それだけが原動力だったかもしれません。
 
──実際に来てみての東京って、どうでした?
 
井上 「東京に行ったって何も変わらない」って言ってた人もいたんですけど、やっぱり全然違いましたね。例えば「明日、曲持ってこれる?」とか「明日、打ち合わせできる?」ということがあるんですよね。そこで話して次につながることもあるので、距離的な近さを痛感しました。福岡にいたときはそういうことはできなかったので、やっぱり「来てよかったな」と思いました。
  

「曲を作っている間は、ずっとお風呂のことを考えていました(笑)」



──その中で今回、「無重力飛行士」がドラマ「ふろがーる!」の主題歌となり、配信も開始されました。その経緯というのは?
 
井上 オーディションに応募して、選んでいただきました。曲を作るにあたっては漫画が原作だったので、その漫画を読み込みました。
 
──聴かせていただいて、お風呂に入っている状態をこれだけ詩的に表現した曲もなかなかないなと思いました。実は子供向け以外で、お風呂の歌って意外にないですよね?
 
井上 そうかもしれないですね(笑)。原作の漫画で、主人公が「お風呂に入っていると浮力があるので重力を感じないところが気持ちいい」と思っている場面がたくさん出てきたのが印象的で、そこから「無重力」というワードを使いました。それから主人公にとってお風呂というのは、「これがあるからまた明日頑張ろう」と思える存在なんですよね。そういうところを入れたいなと思いました。
 
──なるほど。


 
井上 お風呂に入っているときって、もちろん日常の中なんですけど、ちょっと非日常を味わったり、日常の疲れを癒やしたりしてるところってありますよね。そういうフワフワッとした感じを「きらきら」とか「魔法」という言葉で味わってもらえればと。また最初の方に「明日が散々でも大丈夫だと思うよ/何度だって起死回生さ/どこまでも行こう」という歌詞があるんですが、そこがまさに先ほどお話しした「回復してまた頑張ろう」という気持ちを込めたところです。それをあまり重くなりすぎないように、サラッと歌おうと思いました。
 
──ちょっと気になったのが、サビの歌詞で繰り返されるのは「無重力飛行」という言葉ですが、タイトルは「無重力飛行士」と「士」がついています。ここは?
 
井上 字面とか響きの面も確かにあるんですけど……「士」をつけることで「~をしている人」という意味になりますよね。それで物語に主体性が生まれるというか、その人の一日の終わりを感じてほしかったので。
 
──曲づくりは歌詞からですか? メロディーも同時に思い浮かぶ感じですか?
 
井上 今はほとんどが歌詞から作るようになってますね。メロディーと同時にできることもあるんですが、歌詞を全部書き上げてから、その歌詞に合ったメロディーをつけることの方が多くて、この曲もそういう形です。
 
──アレンジのイメージもそのときに?
 
井上 そうですね。浮遊感だったり、キラキラしたイメージをザックリお伝えして、素敵に仕上げていただきました。出来上がりを聴いたときは、浮遊感もありつつ柔らかい感じになっていて、いいなと思いました。
 
──すでに7月15日からドラマの放送が始まっていますが、自分の曲がオンエアされているのを聴いていかがでしたか?
 
井上 不思議な感じでした(笑)。やっぱり「主題歌」ということにすごく憧れもあったし、それが現実に起こってる……という、夢みたいな感じでした。聴いた方から「癒やされた」とか「優しさを感じる」と言っていただいたのもうれしかったですね。
 
──ご自分にとっては、お風呂ってどんな時間ですか?
 
井上 もともとはシャワー派だったんですけど、この作品に出会って、いろんなお風呂の楽しみ方なんかも知ることができたし、主題歌に決まったことでメチャかわいい入浴剤とかを買うことを自分に許したりしたので(笑)、毎日お風呂の時間がすごく楽しくなりました。素敵な習慣をいただいたなと思いました。
 
──曲を作るにあたっても、お風呂に浸かって考えたりはしましたか?
 
井上 もちろんお風呂でも考えましたし、作ってる期間はずっとお風呂のことを考えてました(笑)。
 
──これまで、作家として藤田ニコルさん、伊藤千晃さん、Kis-My-Ft2、King & Prince等、いろんなアーティストの作詞も手がけられていますが、自分で歌うために作る曲と、提供を前提とした曲では、作り方も違うものですか?
 
井上 作家として作るときは、完全にそのアーティストさんが歌っているところを脳内でイメージして書きますね。そのアーティストさんが歌って、一番心に届くかなという内容だったり言い方だったりを考えている感じです。自分で歌うときはお題があるわけでもないですし、日常の中で心の動いた瞬間を逃さないように書いているので、感覚的には全く違いますね。
 
──自分の歌として作るときは、「アーティスト・井上紗矢香」が歌うことを意識することはないんですね。
 
井上 それは考えたことがなかったですね(笑)。ただ、自分の心の動きを歌にするので、どうしても自分からかけ離れたものにはならないですから。
 
──では「作品」というより「自分から出たもの」という感じ?

 

井上 そこまでの意識はないですけど、日常生活の中でも本を読んだり映画を見たりとか、他の人の言葉とかで「心動かされた瞬間」を形にしている感じです。聴いた人から、よく「これって“あるある”ですけど、言葉にできない気持ちですよね」って言われることが多いんですよ。それって、よっぽど気をつけていないと流れていっちゃうじゃないですか。だけど、せっかく感じたその感情を忘れたくないなという感じで形にして残していっているという感じです。それを見て、また何か感じるかもしれないじゃないですか。そういう心のループを大事にしています。
 
──そう聞くと、この「無重力飛行士」の世界も、「お風呂で多くの人が感じているんだけど、きちんと言葉にする人は少ない」というものですよね。今のお話でよくつながった気がします。日常の中で心が動かされることがあって、そこから曲になるまでには、どれぐらい時間をかけるものですか?
 
井上 感じたときにはすぐ書き上げる方です。一気に書き上げてしまわないと、そのとき感じたことを過ぎ去ってから拾い集めようとしても、感じたときの自分でもないしその状況でもないから、そのときの感動とは全く別のものになってしまうんですよ。だから新鮮なうちに書いてしまいます。
 
──ちなみに今、自作の曲って何曲ぐらいあるんですか?
 
井上 ちゃんと数えたわけではないですが、200曲ぐらいはあると思います。全部が名曲というわけではないですけど(笑)。
 
──これからもたくさん曲ができていくんだと思いますが、これからどう活動していきたいですか?

井上 世の中の状況からも、何とも言えないところではあるんですけど、これからちゃんと音楽を仕事にしていけるのであれば、今までもたくさんの素晴らしい人たちに出会ってきたし、これからもたくさん出会えるだろうし、仕事の過程でそうやっていろんな人たちと出会っていろんな仕事をしていきたいという楽しみがあります。曲に関しては、ちょっと書かないとどんどん日常が流れていってしまうので、曲だけはずっと書き続けていきたいと思います。そして、最初に憧れたのが絢香さんだったので、日本武道館とか東京ドームとか、思い当たるものは全て夢です。一つ一つ実現していけるように、頑張っていきたいと思います。
 
撮影 木川将史



配信シングル
「無重力飛行士」
2020.7.29 ON SALE





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高崎計三
WRITTEN BY高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。

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